祖国奪還

ポリ 外丸

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第40話 苦戦

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「やはり数は増えていないな」

「あぁ……」

 砦の防壁に立つベニアミーノとカルメーロは、眼下のスケルトンの数を見て呟く。
 二重の城壁にしたのには理由がある。
 もちろん、こちらの被害を少なくして敵のスケルトンの数を減らすのが目的だ。
 それともう1つ。
 最終確認の意味もあった。

「同族は殺しても、死体を利用しないって考えみたいだな」

「こっちには好都合だ」

 これまで集めた情報から、敵は何かしらの特殊スキルの持ち主で、帝国の武装をしたスケルトンがいることから、死んだ人間からスケルトンを作り出していると考えられた。
 死者を冒涜することを嫌うこの国の人間にしては珍しい。
 そこで気になったのが、奴隷にした大和国民をスケルトンにしているのかということだ。
 それを確認する為に、多くの奴隷を利用したが、予想通り大和国民をスケルトン化するようなことはしていないようだ。
 これまで太良乃万地区周辺の町や村を利用して、奴隷たちに戦闘をさせてきたが、スケルトン化して数を増やすようなことをしているように思えなかったが、この戦いで確信に至った。

「奴は水元と敵対関係にあるようだが、それでも大和の人間だということに変わりはないようだな」

「フッ! そうみたいだな」

 送故司が率いるアンデッド魔物の軍勢が攻め込んでくる前に、帝国側は公爵家の水元江奈の動きを察知していた。
 将軍セヴェーロの軍勢を潰して送故司が手に入れた王都を、江奈が率いる軍勢が奪い取ったという話しだ。
 青垣砦でエレウテリオを倒した時は仲間なのかとも思ったが、どうも様子がおかしいかった。
 エレウテリオやその副将軍たちを倒した時は連携して戦っていたようにも見えたのだが、今はまるで敵対しているような関係に見える。
 それでも同族を利用しないという司の考えは、恐らくこの国特有の考えから来るものだろう。
 死んだ人間は、例え敵でも丁重に扱うという考えを持っていて、利用できるなら敵の死体も利用する司が特殊と言って良いだろう。
 しかし、そんな司も、同じ大和国民には手を出さないというのは帝国側にとって有利な情報だ。
 なんだかんだ言っても非情になり切れない司に、カルメーラ鼻で笑った。

「水元の人間は分かっているのか?」

「送故司がいなければ大和の奪還なんて出来ないってことをか?」

「あぁ」

 ベニアミーノとカルメーロからすると、水元側が司と敵対しているのが理解できない。
 大和の軍勢が有利に転じたのは、司の出現による所が大きい。
 というより、司が現れなければ大和王国は完全に帝国に潰されていたことだろう。
 それが今では逆転している状況になっている。
 その流れを作った司を、水元側は例え宗教的な考えが違うといっても、上手いこと利用するべきだ。

「分かっていないだろ。だから送故司がいない間に王都を奪い取ったのだろ?」

「それもそうか」

 司がいない間に王都を奪還するなんて、完全に敵扱いだ。
 もしもこれで司がやられたら、また自分たち帝国に潰されることになる。
 逆に司が勝ったとしても、勝てる自信でもあるのだろうか。
 司と協力して攻め込まれることこそこちら側が一番嫌な策だったのに、敵対してその機会を見逃すなんて、所詮はただ公爵家の血を継いでいるだけの少女だ。

「送故司を殺せば、水元軍を潰すことなんて苦でもない。そう考えると俺たちが大和制圧の功績を受けることができる機会を得られたということではないか?」

「そうだな。エレウテリオやセヴェーロのことは、ある意味良かったのかもしれないな」

「「ハハハッ!!」」

 大和王国を相手にするのに一番の危険人物は司。
 エレウテリオとセヴェーロの2人を大軍もろとも倒すような人物だ。
 それを倒し、水元軍も潰して大和王国を制圧すれば、功績を丸々得られるということになる。
 もしも司が現れず、エレウテリオが青垣砦を制圧していたとしたら、功績的には将軍たちで等分でしかなかった。
 それが自分たち2人の功績になれば、皇帝からの評価も上がるというものだ。
 そう考えると、死んだ2人には感謝したくなってくる。
 半分冗談でそう思った2人は、声を揃えて笑い声を上げた。

「さて、そのためにもあれを何とかしないとな」

「そうだな」

 評価が上がるのはいいことだが、それも司を倒さないと始まらない。
 そのため、ベニアミーノとカルメーロは眼窩に広がる無数のアンデッドを相手に、またも無数のバリスタを使用した攻撃を開始した。





「チッ! 面倒な……」

 ベニアミーノとカルメーロはの指示により、帝国軍は防壁の上からバリスタを使った攻撃を仕掛けてくる。 
 二重の防壁により、再度スケルトンたちによる砦内への侵入を試みているのだが、前の防壁の時とバリスタの数が全然違う。
 その数の多い攻撃に、いくらスケルトンの数が多いとは言っても、なかなか侵入できないでいた。

「司様。他の手も加えてみてはいかがでしょう」

「……そうだな、ジャック・オー・ランタン!」

 スケルトンだけだとまだかなりの時間がかかってしまう。
 側で戦いを眺めていたファウストは、司へ他の手も併用することを進言する。
 それを受けて、司はジャック・オー・ランタンの軍勢に声をかける。
 そして、手を振って指示を出し、防壁の上にいる帝国兵をへの攻撃を指示した。

「むっ!?」

 浮遊の魔法が使えるジャック・オー・ランタンたちは、その体を浮かび上がらせてスケルトンたちを破壊し続けるバリスタが設置された防壁へと向かっていった。
 しかし、ジャック・オー・ランタンが動きだすと帝国軍に動きがあった。
 防壁の上に魔法師団らしき者たちが現れ、彼らは列を組んでジャック・オー・ランタンへ魔法を放ち始めた。

「ケケッ!?」

 魔法師団の放った火球が、ジャック・オー・ランタンたちに襲い掛かる。
 浮遊することはできると言っても、空中で俊敏に動くことができない。 
 飛んできた火球が直撃して、ジャック・オー・ランタンは1体また1体と撃ち落されていった。
 直下式と時限式の爆弾を使い攻撃するジャック・オー・ランタンだが、長距離飛ばすことはできない。
 そのため、ある程度接近したいところなのだが、それがなかなかできずにいた。
 スケルトンたちもバリスタの攻撃で減っているというのに、ジャック・オー・ランタンまでもが数を減らすことになっていった。

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