祖国奪還

ポリ 外丸

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第26話 乱入

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「敵は今体勢を整えているはずです! 今のうちに周辺の町や村を奪還へと向かいましょう!」

 エレウテリオを倒し、更にはその副将軍たちまでを倒すことに成功した青垣砦の面々は、会議室へと集まり今後の方針を話し合っていた。
 そのなかで、若い兵たちはこの機に帝国に奪われた周辺の町や村を奪還し、奴隷にされている大和国民の解放に動くべきではないかと提案してきた。

「奪還してどうなる!? 今でさえ何とかやっていけている状況だというのに、これ以上となったら飢餓で苦しむことになるぞ!」

 その提案に対し、中年の兵たちは待ったをかける。
 他の地区から逃れてきた者と東北地区の地に住んでいた国民は、青垣砦から東の地で何とか生活をしている。
 彼らが作る作物によって、砦の兵たちも食事に関して心配することなく戦えるというものだ。
 もしそこに、周辺の町や村から助けた国民が加わるとなると、食料問題が発生しかねない。
 そうなると、今後も続くであろう帝国の侵攻を止めることなんて出来なくなる。
 それを考えると、とてもではないがその提案に乗ることができないのだ。

「私も敵から町や村を奪還したい思いはあるわ。でも、彼の言うように我々には人も物も余裕がない状況よ。帝国がまたいつ攻めてくるか分からない状況で奪還に向かう訳にはいかないわ」

「江奈様……」

 江奈としても、出来るだけ多くの王国民を助けたいという思いはある。
 しかし、中年兵の言うように食料面での不安がある。
 両者の意見は分からなくはないが、今助けに行くという選択を得する訳にはいかない。
 指揮官である江奈にそう言われては、若い兵たちにはそれ以上言うことはできなくなった。

『そもそも、これまでの勝利は送故司の力によるものというのが分かっているのかしら……』

 この砦にいる者が生き残っているのは、はっきり言って送故司と言う人間の力による所が大きい。
 そのことをここにいる者たちは分かっているのだろうか疑問に思えて来る。
 いや、分かっているのに無視しているのかもしれない。
 死体を使うことを認めたくはないが、それがなければ活路すら見えないのだから。

「我々は何としてもここを死守する。それしか道はないわ」

 結局はこれまで通りこの砦を守り、帝国が攻めて来なくなるのを待つことしかできない。
 そうしている間に、少しずつ町や村を奪還していくしかない。
 江奈の意見に納得したのか、集まった兵たちは頷くしかなかった。

「その通りですね」

「「「「「っっっ!?」」」」」

 江奈の言葉に反応するように声が上がる。
 その声が聞こえた方向に、江奈を含め、室内にいた者たち全員が目を向ける。
 と言うのも、全員が聞きなれない声だったからだ。
 そして、ドアの前にいつの間にか立っていた人間を見て声を失った。

「どうも皆さん」

「……送故…司? どうやって……」

 その場にいたのは、以前砦の前に現れた送故司だった。
 ドアが開いた音はしなかった。
 それなのにどうやって入ったというのだろうか。
 誰も気づかないうちにこの場に現れた驚きと共に、江奈は疑問の声を呟いていた。

「あぁ、私はお気になさらず。話を続けてください」

「き、貴様のような得体の知れない者のいる所で作戦を話すわけにはいかん!」

「……得体が知れないって酷いですね」

 視線が集まっていることに対し、司は軽い口調で話し合いに戻ることを薦める。
 しかし、まだ司のことを信用していない彼らは、そんなわけにはいかない。
 先程まで座っていた状態から立ち上がり、腰に差した刀の柄に手を添え、いつでも斬りかかれるよう身構えた。

「本当に大和国民だというなら、その仮面のような物を取って見せろ!」

「顔に自信がないもので」

「舐めたことを!」

 前回現れた時と同様に、司は何かの頭蓋骨を仮面のように被っている。
 名前と大和国民だということを名乗っていたが、その仮面のせいで本当かどうかわからない。
 そのため、せめて仮面を取るように声を上げるが、司は軽い口調のまま受け流した。
 そのことが、余計に彼らをイラ立たせてしまったようだ。
 そもそも死体を操っている所が王国の者たち、とくに中年の兵たちには司という存在は認められないのだろう。
 これでは話し合いすらできそうにない。

「みんな! 落ち着いて!」

「江奈様……」

 このなかで江奈だけが冷静な態度でいる。
 司がどんなスキルを持っているのかは分からないが、結局の所自分たちは2度も助けられている。
 彼がいなければ今頃自分たちは死んでいたところだったのだから、彼が大和国民だということを信じるしかない。
 ひとまず彼を刺激しないように、江奈は兵たちのことを諫めた。

「それで? あなたは何故この場に来たのですか?」

「あなた方がどう動くかを確認をしに……」

 江奈の言葉によって、ひとまず兵たちは殺気を抑える。
 それを見て、江奈は司へこの場へ現れた理由を尋ねた。
 司はその問いに対し、はっきりしない返答をした。

「……確認してどうするつもりなのですか?」

「それを利用・・して、帝国兵たちを1人残さず殺すためです」

「おのれ! 我らを利用するだと!?」

 自分たちを利用する。
 司の不自然にはっきりと言った言葉に、この場にいた兵たちはまたも殺気をみなぎらせた。
 今にも斬りかかりそうになったところを、江奈は手で制止するよう合図を送った。

「…………我々はこれまでと変わらないわ」

「江奈様!?」

 兵たちが静まり返ったのを待って、江奈は司へと答えを返した。
 得体の知れない相手だというのに返答した江奈へ、兵たちは慌てたように反応する。

「ここに籠城して、向かってきた敵を討つと?」

「その通りよ」

「そうですか……」

 江奈は先ほどの利用という司の言葉を、他の兵たちとは違うとらえ方をしていた。
 本当に利用するというのであれば、わざわざ言う必要はない。
 自分たちの反応を見て、動くと司は言っているようなものだ。
 そのため、江奈は司が現れる前に決まった話し通り、この砦から動かないことを告げた。
 その言葉に納得するように、司は頷いたのだった。

“ズズズ……”

「「「「「っっっ!?」」」」」

 納得した所で、司の影から人が現れる。
 見たこともない出来事に、兵たちは声を失ったように驚く。

「ただいま戻りました」

「あぁ、ご苦労」

 陰から出てきたのは、ヴァンパイアであるファウストだった。
 セヴェーロのいる王都へと調査へと向かわせていたが、それが済んだということだろう。
 江奈を含めたこの部屋にいる者が固まっているのを無視し、短い言葉のやり取りをする。

「では、失礼……」

“ズズズ……”

「き、消えた……」

 江奈の考えが聞けたため、もう用がなくなった。
 そのため、司は江奈へと軽く頭を下げ、ファウストと共に影の中へと消えていった。
 司たちの体が完全に沈み込むと、影もその場から消え去った。
 何をしたのか分からないせいか、会議室にいる全ての者たちは少しの間戸惑うことしかできなかったのだった。

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