祖国奪還

ポリ 外丸

文字の大きさ
上 下
23 / 63

第22話 2人がかり

しおりを挟む
「ハァッ!!」

「っ!!」

 拳闘家集団のマミーたちの出現に、帝国兵はまたも数を減らしていっていた。
 そんななか、コージモが戦斧によってマミーたちを数体斬り飛ばす。
 スケルトンを相手にしていた時と変わらない殲滅力に、帝国兵たちは驚きの目でコージモへと視線を向けた。

「強者たる帝国兵が、マミーごときに手こずってんじゃねえ!!」

「コージモ様!!」

 マミーを倒したコージモが檄を飛ばす。
 たしかにマミーの出現と戦闘力は予想外だった。
 しかし、訓練を重ねてきた帝国兵なら冷静に戦えば互角に戦える相手のはずだ。
 その檄を受け、帝国兵たちの士気が高まった。

「帝国兵が魔物ごときに負けてなるものか!!」

「その通りだ!!」

 士気の高まったことにより、帝国兵たちはマミーたちとの戦闘に対応し始めた。
 マミーが相手なら、11対1ではなく1対2で戦うことで対応し、スケルトンたちが数で押してくるようなら数人で固まって対応する。
 その戦い方を繰り返すことで、敵にやられる数が段々と減っていったのだった。





「ハァハァ……」

「張り切りすぎるなよ!」

「フッ! お前もな!」

 息を切らし汗を掻くビアージョに、同じく汗を掻くコージモが声をかける。
 どこか揶揄うような発言に、ビアージョも笑みを浮かべて言葉を返した
 背後から大量の魔物が出現してしばらく経つと、帝国兵の数は半分以下まで減っていた。
 しかし、ようやく勝利の道筋が見えてきた。
 兵の指揮が上がったとは言え、戦況は均衡状態へと陥った。 
 それを覆したのは、ビアージョとコージモの副将軍たちだった。
 味方の兵が手こずるマミーを、ビアージョは槍で、コージモは斧で撃ち倒してきた。
 そうなると他の兵たちはスケルトンに集中することができるようになり、死ぬ数を減らしていったのだった。

「このまま押し切るぞ!」

「あぁ!」

 マミーもスケルトンも、もう帝国兵よりも数が少なくなっている。
 このまま勝利を得るために、ビアージョとコージモは声をかけ合ってもうひと踏ん張りすることにした。

「……何だ?」

 勝機が見えた所で、突如魔物たちの様子に変化が起きる。
 何故かビアージョとコージモには目もくれず、他の兵たちへ襲い掛かるようになった。
 何者かの指示を受けたかのような動きだ。
 ならば、自分たちが動けば良いと、2人は自ら敵へと動こうと思った。
 そこで、魔物が道のように空けた場所をゆっくりと近付いてくる者が現れた。

「初めまして、帝国軍エレウテリオ軍の副将軍の方々」

 とても戦場にふさわしくない、モーニングのスーツを着た紳士風の男。
 それがビアージョとコージモに対して、丁寧なお辞儀と共に挨拶する。

「……てめえ何もんだ?」

 格好だけ見れば、とても戦えるようには見えない。
 しかし、自分たちに近付いてくるまでの歩行姿から、只者ではないという印象を受けたビアージョとコージモは警戒心を最大に高めていた。
 そのため、彼らは武器を構えてたまま、その男へと問いかけた。

「私、ヴァンパイアのファウストと申します」

「ヴァンパイア?」

「何をふざけた……」

 エレウテリオの時と同様に、ファウストは自己紹介する。
 思った通り、2人はファウストがヴァンパイアと嘘を言っていると判断したようだ。

「信じてもらえていないようですが、まあいいでしょう」

 ヴァンパイアと言っても信用してもらえないことは、ここ数日で理解している。
 そのため、ファウストは早々に理解してもらうことを放棄した。

「主の命により、帝国兵殲滅の弊害となる御二人の始末に参りました」

「「っ!?」」

 言葉は丁寧だが、言っていることは2人にケンカを売っている内容だ。
 その言葉に、2人はこめかみに血管を浮き上がらせた。

「……武器も持たずにか?」

「あなた方相手に持つ必要はありません」

「何だと!?」

 戦いに来たというのに、ファウストは武器を持っていない。
 そのことをビアージョが指摘すると、ファウストは平然と返答する。
 完全に自分たちを下に見た発言に、コージモは更に怒りの表情へ変化した。

「俺がやる!!」

「いや、俺にやらせろ!!」

 舐められたことに腹を立てた2人は、自分が戦うと前へ出ようとする。
 しかし、お互い譲り合うつもりがないのか、少しの間無言で睨み合った。

「私は御二人同時で構いませんよ。エレウテリオ将軍もかすり傷1つ付けられませんでしたからね」

「「……今なんて言った!?」」

 ファウストが小さく呟いた聞き捨てならない言葉に、2人は睨み合いをやめて反応する。
 まるでエレウテリオを殺したのが、自分だと言っているような言葉だ。

「ご想像の通り、エレウテリオ将軍を殺したのも私ですよ」

「「っっっ!?」」

 2人が何を言いたいかは分かる。
 そのため、ファウストは2人がきちんと理解できるよう端的に説明した。

「……それを聞いたら、てめえがヴァンパイアだろうと何であろうと関係ねえ!」

「我らが恩あるエレウテリオ様を殺したというなら、この場で斬り殺す!」

 武人として、2人がかりで武器を持たない者を討つなど騎士としてあるまじき行為だが、帝国人の自分たちにはそんなこと関係ない。
 そもそも、目の前の相手は恩あるエレウテリオを殺した張本人だという話だ。
 それに、相手はヴァンパイアだと言っているのだ。
 魔物相手に2人がかりなんて当たり前のこと。
 そう都合よく解釈した2人は、獲物となるファウストの奪いなどやめて、2人で戦うことを選択した。

「行くぞ!?」

「おうっ!」

 小さく会話を交わし、2人は武器をファウストへと向ける。

「「ハッ!!」」

 まるで合図をしたように、2人はファウストへと向けて同時に地を蹴る。
 そして、左右へと別れ、ファウストを中心として円を描くように動き回る。

「どれほどのものか、楽しみですね」

 いつ襲いかかってくるか分からない状況でありながら、ファウストは冷静に2人を眺める。
 主である司以外の人間など、ファウストにとって脅威になり得る存在ではないと思っている。
 しかし、逆に司という存在が人間の中にも特別な者がいると証明している。
 この2人がそんな存在だとは到底思えないが、せめて楽しませてくれることを期待し、ファウストはゆっくりと構えを取ったのだった。

「「行くぞ!!」」

 構えを取ったのを待っていたかのように、ビアージョとコージモの2人はファウストへと攻撃を開始したのだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。 召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。 しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる―― ※今月は毎日10時に投稿します。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

魔王さんちの勇者メイド

中田カナ
ファンタジー
記憶を失った勇者の少女は魔王の城で働くことになった。 ※小説家になろう、アルファポリスでも掲載しています

処理中です...