祖国奪還

ポリ 外丸

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第13話 司の過去

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 ひょんなことから昔のことを思い出した司は、そのときの思い出に浸っていた。



「移動しないと」

 魔物への注意を引くため、謙治と共に馬車から放り出された司。
 なんとか魔物から逃げきったが、逃げた洞窟はダンジョンで、入り口の落石に巻き込まれた謙治は命を落としてしまった。
 その落石によりダンジョンに閉じ込められる形になった司は、これから先のことを考えた。
 この場は行き止まりの状態。
 いつまでもここにいて数体の魔物に襲われるようなことになれば、自分ではひとたまりもないため、ここから移動することにした。

「灯りになるもの……」

 瓦礫に埋もれているが、僅かながら入り口から光が漏れている。
 しかし、所詮は数m程度を把握できる程度でしかなく、夜目の能力のない自分では、奥へと向かうにつれ暗闇で何も見えなくることが想像できる。
 そんな状態では魔物と戦うことなんてできない。
 先へと進むために、司は灯りになるものを探し始めた。

“ボッ!!”

「っ!?」

 灯りになるものを探していたが、何も見つからない。
 司が途方に暮れていたところ、ダンジョン内に異変が起きた。
 ダンジョン内の壁に突如光が灯ったのだ。

「魔道具? 発光石?」

 考えられるとすれば、内部に生物が入ったことで発動するように指定されている魔道具。
 もしくは、魔量を受けると発光する石が設置されている可能性だ。
 どちらも魔力によって光を灯すということに変わりはないが、同じ魔力量でも魔道具の方が少しの魔力で広範囲を照らす光量を放つことから、一般的には魔道具の方が使用されている。
 ダンジョンが魔道具を手に入れるなんてことはできないということを考えると、ダンジョン内から出土した発光石を使用しているのだろう。

「どっちでも良いけど、とりあえずここから離れよう」

 先程のゴブリンのように、魔物が現れては困る。
 灯りが付いたのなら、安全地帯を求めて移動を開始することにした。

「武器は棒きれだけだけど、ないよりましだろ」

 現れたゴブリンは、武器として棒を持っていた。
 魔物と遭遇した時のために武器が必要と感じた司は、その棒を持って行くことにした。

「丁字路……、どっちが良いんだろ?」

 警戒しつつ歩を進めると壁に行きあたり、通路は左右に分かれていた。
 どちらも進んだ先はカーブしていて、何が待ち受けているか分からない。
 行き先に魔物が大量にいたらと考えると、どちらを選んでいいか悩むところだ。

「よく考えたら、どっちに行っても同じ運命って事もあり得るか……」

 ここはダンジョン内だ。
 どっちかが安全なんて保障はどこにもない。

「こういった時は……」

 どっちに行ったらいいかなんて分からないのだから、好きな方を選ぶしかない。
 仕方がないので、司は武器として持っていた棒を立てて手を離した。

「右だな」

 棒が倒れ、上にしていた部分が向いた先は右側だった。
 なので、司は右へと向かうことにした。

「何だ? ここ……」

 右を選んで進んで行くと、何やら巨大な空間へとたどり着いた。
 半ドーム状になっており、室内だというのに樹々が生い茂っている。

「……もしかして、どっち選んでも同じだったか?」

 左を見たら、この場所へと辿り着く道が存在している。
 距離的に見て、丁字路で分かれた道はどちらを選んでもここへと通じる道だったようだ。
 警戒して悩んだというのに、あの時間を損した気分だ。

「っ!! 一角兎!?」

 室内だと言うのに樹々が生えているのに疑問が残るが、ダンジョンはそういうものだと判断して、深く考えることはやめた。
 それよりも、樹に隠れて周囲を見渡していると、草が動く音が聞こえた。
 その音の先を見てみると、そこには頭部に1本の角の生えた兎が存在していた。
 一角兎と呼ばれる魔物だ。

「……倒そう」

 魔物を相手に戦うのは危険だ。
 しかし、一角兎を見て、司はあることに思い至った。
 食料だと……。
 奴隷として1日2食与えられていたが、小さいパンと具のほとんどないスープしか与えられないでいた。
 そのため、司は常に空腹の状態だった。
 それが魔物の囮に使われ死にもの狂いで走ったせいか、さっきから腹が鳴って仕方がない。

「一角兎の肉は美味いからな」

 奴隷にされてからは食べていないが、両親が生きていた時は何度か食べたことがある。
 その時のことを思い出し、司は食料として一角兎を倒すことにした。

『今だっ!!』

「ゲギャッ!!」

 生憎、一角兎の方は司の存在に気が付いていない。
 樹から樹へと移りながら移動して近付くと、司は一角兎の背後から襲い掛かった。
 心の中で気合を入れて思いっきり振り下ろした武器の棒は、一角兎の脳天へとクリーンヒットする。
 10歳の子供の攻撃とは言え、遠心力の付いた一撃を受けた一角兎は、鳴き声を上げて周囲をふらつき、その場に倒れると動かなくなった。

「やった!! 久々の肉だ!!」

 警戒しながら倒れた一角兎に近付き、棒で何度か突いてみる。
 反応がないことを確認開いた司は、ようやく拳を握って喜んだ。

「あっ! 解体用のナイフがない」

 一角兎を倒したのはいいが、司は解体するための刃物を持っていない。
 そのため、司はどうしたものかと考える。
 子供の時の記憶を思い出すと、捌くにしても早くしないと血が固まって肉が堅くなってしまう。
 そうならないためにも、司は刃物の代用品を探すことにした。

「そうだ! 一角兎の角は、研げばナイフにもなるって話だ」

 一角兎の角は形状がナイフのようになっているため、研げばナイフになると聞いたことがある。
 魔物と戦ってその素材の売買で資金を得る冒険者の中には、投げナイフとして利用されているという話を聞いたことがある。
 そのことを思いだした司は、一角兎の角を石で何度も殴ってへし折り、近くにあった荒い感触の石で研いでみた。

「切れ味悪っ!! でもないよりはましか……」

 投げナイフにするのは、切れ味よりも尖った先が利用できるからだ。
 ナイフとしての質は悪いため、なかなか一角兎の解体が進まない。

「ふ~……、取りあえずは解体で来た」

 切れ味の悪さから少々雑になってしまったが、何とか解体することができた。
 解体している時に頬についた血を拭い、司は一息ついた。

「早速焼いて食おう!」

 肉が手に入ったのだから、空腹で待ちきれない。
 周囲に魔物がいないことを確認した司は、そこら辺に落ちている木の枝を集めて火おこしを始めた。

「……大丈夫だよな?」

 洞窟内での焚火。
 換気のできない場所での焚火なんてやってはいけないことだと分かっている。
 しかし、肉を生で食べる訳にはいかないため、少し様子を見てみることにした。

「大丈夫そうだ……」

 煙の行方を見ていると、天井に向かていき、どこかへと消えていく。
 どうやら天井には空気口のようなものがあるのかもしれない。
 安心した司は、早速肉を焼いてみることにした。

「よし! いただきます!」

 香ばしい香りが立ち上がる。
 我慢できなくなった司は、焼けたのを確認してすぐにがっつき始めた。

「ウマッ!!」

 空腹を抑える程度と思っていたが、久しぶりの肉に喜んだ司は、一角兎の肉の3分の1を平らげてしまった。
 久しぶりの肉の味に司は喜んでいるが、味付けもしていないため、本来はそれ程うまい訳ではない。
 喜びと空腹が混じって、味覚がマヒしていたのかもしれない。
 何にしても、司はとりあえず食料を手に入れることができたのだった。

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