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第9話 敵か味方か
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「宜しかったのですか?」
「何がだ?」
青垣砦の近くに作った拠点へと移動した司とファウスト。
拠点に着いてすぐ、ファウストは司へと問いかけた。
問いかけられた司は、ファウストが何のことを言っているのか分からず首を傾げた。
「エレウテリオとかいう者の首を渡したことです」
「あぁ……」
ファウストは、別に自分が獲ってきたエレウテリオの首を他の者に譲ったことに疑問を持っているのではない。
自分の主人である司に指示されて獲ってきただけなので、それをどう扱おうと何の文句もない。
しかし、あの首を渡したところで、あそこにいた連中には使い道がないように感じる。
それに引きかえ、司なら色々と使い道があるはず。
そのため、司へと問いかけたのだ。
そのファウストの思いを理解したように、司は頷いた。
「あれは、俺があの将軍の死を確認できればよかっただけで、確認できたあとはどうでもよかった。あのとき言ったように、あちらさんが使うならどうぞってだけだ」
「左様ですか」
あの場にいた帝国の人間は、1人残らず殺し尽くす。
特に帝国の将軍は、しっかりと自分の目で死んだことを確認しておきたかった。
そのためにファウストへ指示出しただけで、確認できれば後はただのゴミという認識しか司の中にはなかった。
そのゴミを、言わば江奈という水元公爵に押し付けたに過ぎない。
それが司の思いだというのなら文句はなく、ファウストは納得したように引き下がった。
「それに……、あの将軍が死んだと分かれば、他の者がまた青垣砦にやってくるだろ?」
「……なるほど」
司は話の途中で足を止めると後ろをついてくるファウストへと振り返り、笑みを浮かべて問いかける。
その発言を聞いたファウストは、司が何を言いたいのかが分かった。
「あの砦の連中は囮ということですね」
「その通りだ」
エレウテリオが率いた軍が壊滅したということは、いつか必ずバレることになる。
そうなれば、帝国はまた軍を率いて攻めてくる可能性が高い。
司としてはそうなってくれることが望ましい。
そのために、青垣砦の者たちには囮になってもらうつもりだ。
「たしか、大良家とか言うのが首を野晒しにされたと聞きましたが、同じようなことをするつもりでしょうか?」
「いや……恐らく違うな」
「……? ではどのように?」
首を手に入れた水元公爵家の者たちは、大良家の当主がされたようにエレウテリオの首を使って大々的に公表することを提案するのではないかとファウストは考えた。
しかし、司は江奈がそのようなことをするとは思っていないようだ。
他にどのような手に出るか分からないため、ファウストはそう思う理由を尋ねた。
「できる限り時間を稼いで迎撃態勢を強化し、その後に帝国側へ丁重にあの首を送り届けるというのが濃厚だな」
「……何故そのように思うのですか?」
やられたことをやり返すことが敵への最大の報復になると思うのだが、どうしてそのようなことをするのか理解できない。
「この国は死者はどんな相手だろうと敬うという考えが強い。だから例えどんなに憎い相手であろうと死体は丁重に扱うはずだ」
どこの国でもそうだが、死者は丁重に弔うのが普通だ。
しかし、この国の場合はその意識が他の国より強く、死者をぞんざいに扱う人間を嫌悪する傾向が高い。
それがあるため、司は江奈がそういった方法を取るのだと判断したのだ。
「この状況でもそれは、良いこととは思えませんが……」
「それでもそうするのが大和王国の志という奴なんだろ。俺は同じようには思えないがな」
やられたことをやり返すことの方が、これまでの恨みを晴らす方法になるはずだ。
それなのに、相手に対しては礼節を持ってなどと言っているのは、ただの甘ちゃんに思えて仕方がない。
それが志なのだと言われても、志が守ってくれるわけではないのだから。
同じ大和王国の人間だと言っても、司は別の考えのようだ。
山のような死体を処理し続けていたことが、そういった考えを捨て去ることになったのかもしれない。
「公爵家だか知らないが、俺のために役に立ってもらわないとな」
「そうですね」
江奈たちがエレウテリオの首をどう扱おうが知らないが、囮として使うことには変わらない。
今回のように、青垣砦へ攻めてきたところを背後から強襲すれば、またも全滅させることができるはずだ。
「そう何度も使えるとは思わないがな」
2度も軍を率いて返り討ちに遭ったとなれば、その次は更なる大軍を率いて万全の態勢で攻め込んでくるだろう。
そのため、もう1回やったら、司たちも次の策に出ることを考えている。
「少し疲れた。ファウスト、少しの間任せる」
「畏まりました。お任せください」
今回の大群のスケルトンを動かしたのは、司の能力によるものだ。
当然そのためには、かなりの力と疲労が使われることになる。
平然としているように見えるが、恐らく司はかなりの疲労が溜まっていることだろう。
その疲労を回復するために、寝室で眠りにつくことにした司を、ファウストは頭を下げて見送ったのだった。
「さて、司さまの休憩中に、私の方でも戦力を補充して起きましょうか」
今回のことで、司はかなりの疲労を負うことになった。
ファウストがいるとは言え、司はほとんど1人で戦っているのと同じだ。
なので、仕方がないと言えば仕方がないことだ。
せめて少しでも助力しようとファウストは今のうちにできることをすることにした。
「お前たち、魔物を数体生け捕りにしてこい」
「「「キッ!!」」」
足下に魔力を流し魔法陣を作りだすと、そこから数匹の蝙蝠が出現する。
ただの蝙蝠ではない。
大きさからいって、大型犬並みの大きさをしている。
その蝙蝠たちは、ファウストの指示を受けると了承したかのように一声上げて、その拠点から飛び立っていった。
◆◆◆◆◆
「江奈様。お疲れさまでした」
「えぇ……」
青垣砦の一室で、1人考え事をしていた江奈。
その部屋へ執事の白川が現れて、労いの言葉をかける。
それに対して江奈は返事をするが、表情は浮かないままだ。
「……あの仮面の男が気になっているのですか?」
「……よく分かったわね?」
「お嬢様には長く仕えていますから」
白川は水元家に長く仕えている。
江奈のことは産まれた時から面倒を見ているので、ある程度のことは分かるつもりだ。
というより、江奈でなくても気になっていることだ。
「名前からして大和国民なのは分かるけれど、顔は仮面のように被ったあの骨で分からない」
送故司と名乗った仮面の男。
敵なのか味方なのか分からない。
しかし、味方だというのなら、自分たち王国側としてはこれほどありがたいことはない。
「だけど、あの能力……」
今回帝国軍を壊滅にした大量のスケルトン軍団。
あれを、あの送故司が操っていたように思える。
何か特殊なスキルか何かなのだろう。
しかし、そうなってくると、あるスキルのことがチラついてくる。
「確認するまでは保留ね……」
送故司が使っていたスキルは、もしかしたら自分が考えたスキルの可能性がある。
そうなると、自分たちとの関係性が変わってくる。
しかし、彼がいなければ自分たちは死んでいたかもしれない。
それに、帝国軍は無残にも全滅したが、利用されていた奴隷兵は怪我を負っただけで殺してはいなかった。
同じ大和国民だから殺さないでいたのかもしれない。
そう考えると、彼を敵と考えるのは時期尚早だ。
帝国と戦うということにおいては同じなのだから、恐らくまた会うことになるはずだ。
彼の能力が分かるまでは、江奈はひとまず敵か味方かは保留にすることにしたのだった。
「何がだ?」
青垣砦の近くに作った拠点へと移動した司とファウスト。
拠点に着いてすぐ、ファウストは司へと問いかけた。
問いかけられた司は、ファウストが何のことを言っているのか分からず首を傾げた。
「エレウテリオとかいう者の首を渡したことです」
「あぁ……」
ファウストは、別に自分が獲ってきたエレウテリオの首を他の者に譲ったことに疑問を持っているのではない。
自分の主人である司に指示されて獲ってきただけなので、それをどう扱おうと何の文句もない。
しかし、あの首を渡したところで、あそこにいた連中には使い道がないように感じる。
それに引きかえ、司なら色々と使い道があるはず。
そのため、司へと問いかけたのだ。
そのファウストの思いを理解したように、司は頷いた。
「あれは、俺があの将軍の死を確認できればよかっただけで、確認できたあとはどうでもよかった。あのとき言ったように、あちらさんが使うならどうぞってだけだ」
「左様ですか」
あの場にいた帝国の人間は、1人残らず殺し尽くす。
特に帝国の将軍は、しっかりと自分の目で死んだことを確認しておきたかった。
そのためにファウストへ指示出しただけで、確認できれば後はただのゴミという認識しか司の中にはなかった。
そのゴミを、言わば江奈という水元公爵に押し付けたに過ぎない。
それが司の思いだというのなら文句はなく、ファウストは納得したように引き下がった。
「それに……、あの将軍が死んだと分かれば、他の者がまた青垣砦にやってくるだろ?」
「……なるほど」
司は話の途中で足を止めると後ろをついてくるファウストへと振り返り、笑みを浮かべて問いかける。
その発言を聞いたファウストは、司が何を言いたいのかが分かった。
「あの砦の連中は囮ということですね」
「その通りだ」
エレウテリオが率いた軍が壊滅したということは、いつか必ずバレることになる。
そうなれば、帝国はまた軍を率いて攻めてくる可能性が高い。
司としてはそうなってくれることが望ましい。
そのために、青垣砦の者たちには囮になってもらうつもりだ。
「たしか、大良家とか言うのが首を野晒しにされたと聞きましたが、同じようなことをするつもりでしょうか?」
「いや……恐らく違うな」
「……? ではどのように?」
首を手に入れた水元公爵家の者たちは、大良家の当主がされたようにエレウテリオの首を使って大々的に公表することを提案するのではないかとファウストは考えた。
しかし、司は江奈がそのようなことをするとは思っていないようだ。
他にどのような手に出るか分からないため、ファウストはそう思う理由を尋ねた。
「できる限り時間を稼いで迎撃態勢を強化し、その後に帝国側へ丁重にあの首を送り届けるというのが濃厚だな」
「……何故そのように思うのですか?」
やられたことをやり返すことが敵への最大の報復になると思うのだが、どうしてそのようなことをするのか理解できない。
「この国は死者はどんな相手だろうと敬うという考えが強い。だから例えどんなに憎い相手であろうと死体は丁重に扱うはずだ」
どこの国でもそうだが、死者は丁重に弔うのが普通だ。
しかし、この国の場合はその意識が他の国より強く、死者をぞんざいに扱う人間を嫌悪する傾向が高い。
それがあるため、司は江奈がそういった方法を取るのだと判断したのだ。
「この状況でもそれは、良いこととは思えませんが……」
「それでもそうするのが大和王国の志という奴なんだろ。俺は同じようには思えないがな」
やられたことをやり返すことの方が、これまでの恨みを晴らす方法になるはずだ。
それなのに、相手に対しては礼節を持ってなどと言っているのは、ただの甘ちゃんに思えて仕方がない。
それが志なのだと言われても、志が守ってくれるわけではないのだから。
同じ大和王国の人間だと言っても、司は別の考えのようだ。
山のような死体を処理し続けていたことが、そういった考えを捨て去ることになったのかもしれない。
「公爵家だか知らないが、俺のために役に立ってもらわないとな」
「そうですね」
江奈たちがエレウテリオの首をどう扱おうが知らないが、囮として使うことには変わらない。
今回のように、青垣砦へ攻めてきたところを背後から強襲すれば、またも全滅させることができるはずだ。
「そう何度も使えるとは思わないがな」
2度も軍を率いて返り討ちに遭ったとなれば、その次は更なる大軍を率いて万全の態勢で攻め込んでくるだろう。
そのため、もう1回やったら、司たちも次の策に出ることを考えている。
「少し疲れた。ファウスト、少しの間任せる」
「畏まりました。お任せください」
今回の大群のスケルトンを動かしたのは、司の能力によるものだ。
当然そのためには、かなりの力と疲労が使われることになる。
平然としているように見えるが、恐らく司はかなりの疲労が溜まっていることだろう。
その疲労を回復するために、寝室で眠りにつくことにした司を、ファウストは頭を下げて見送ったのだった。
「さて、司さまの休憩中に、私の方でも戦力を補充して起きましょうか」
今回のことで、司はかなりの疲労を負うことになった。
ファウストがいるとは言え、司はほとんど1人で戦っているのと同じだ。
なので、仕方がないと言えば仕方がないことだ。
せめて少しでも助力しようとファウストは今のうちにできることをすることにした。
「お前たち、魔物を数体生け捕りにしてこい」
「「「キッ!!」」」
足下に魔力を流し魔法陣を作りだすと、そこから数匹の蝙蝠が出現する。
ただの蝙蝠ではない。
大きさからいって、大型犬並みの大きさをしている。
その蝙蝠たちは、ファウストの指示を受けると了承したかのように一声上げて、その拠点から飛び立っていった。
◆◆◆◆◆
「江奈様。お疲れさまでした」
「えぇ……」
青垣砦の一室で、1人考え事をしていた江奈。
その部屋へ執事の白川が現れて、労いの言葉をかける。
それに対して江奈は返事をするが、表情は浮かないままだ。
「……あの仮面の男が気になっているのですか?」
「……よく分かったわね?」
「お嬢様には長く仕えていますから」
白川は水元家に長く仕えている。
江奈のことは産まれた時から面倒を見ているので、ある程度のことは分かるつもりだ。
というより、江奈でなくても気になっていることだ。
「名前からして大和国民なのは分かるけれど、顔は仮面のように被ったあの骨で分からない」
送故司と名乗った仮面の男。
敵なのか味方なのか分からない。
しかし、味方だというのなら、自分たち王国側としてはこれほどありがたいことはない。
「だけど、あの能力……」
今回帝国軍を壊滅にした大量のスケルトン軍団。
あれを、あの送故司が操っていたように思える。
何か特殊なスキルか何かなのだろう。
しかし、そうなってくると、あるスキルのことがチラついてくる。
「確認するまでは保留ね……」
送故司が使っていたスキルは、もしかしたら自分が考えたスキルの可能性がある。
そうなると、自分たちとの関係性が変わってくる。
しかし、彼がいなければ自分たちは死んでいたかもしれない。
それに、帝国軍は無残にも全滅したが、利用されていた奴隷兵は怪我を負っただけで殺してはいなかった。
同じ大和国民だから殺さないでいたのかもしれない。
そう考えると、彼を敵と考えるのは時期尚早だ。
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