祖国奪還

ポリ 外丸

文字の大きさ
上 下
6 / 63

第5話 ファウスト

しおりを挟む
「ケタケタケタ……」

「そんな……」

「こっちにも……」

 多くの部下たちを犠牲にして西へと逃走を図った将軍のエレウテリオだったが、逃げた先にも多くのスケルトンがいた。
 なんとか付いてきた兵たちは、スケルトンたちが打ち鳴らす歯の音に絶望を感じていた。

「くそっ!!」

 もう少し進めば、王国から占領した町へと辿りつける。
 そこに行けば、兵という駒が大勢いる。
 態勢を整えて全力で当たれば、数が多いだけのスケルトンなんて苦にもならないはずだ。
 あと少しだというのに邪魔をするスケルトンたちに、エレウテリオは悪態の言葉を呟いた。

「お前ら!! 全員全力の合成魔法を放て!!」

「えっ!?」

 この先に進むために、エレウテリオは兵たちへと指示を出す。
 合成魔法というのは、魔導砲の攻撃を人間でおこなう魔法のことだ。
 多くの人間の魔力を合わせることにより、1人で出すには難しい強力な魔法を放つことかできる。
 しかし、合成魔法を放ったとしたら、術者に反動が来る。
 魔法を放った瞬間、肉体が耐えられず吹き飛ぶ可能性がある。
 つまりは、エレウテリオが行っているのは命を懸けて道を作れという指示だ。
 ここまで残っている帝国兵は、かなりの優秀な者たちばかり。
 他の兵とは違い使い捨てるには惜しい存在だ。

「俺が生き残った時には、貴様らの家族は厚遇すると約束しよう!!」

 惜しいからと言って、使い潰さなければ自分がここを抜けることはできない。
 彼らも、誰かが犠牲にならなければ全滅することは気付いているはず。
 当然、地位からいって将軍である自分を生かすべきだ。
 僅かに躊躇った彼らに、エレウテリオは無駄死にをする訳ではないという理由を与えた。

「……や、やるぞ!!」

「「「「「あぁ……」」」」」

 ここにいる数十人が、均等になるように3組に分かれる。
 1人を中心にして、その者に向けて他の者たちが魔力を放出する。
 魔力を放出した者たちは、その場へと崩れ落ちる。
 魔力切れを起こしての気絶だ。

「エ、エレウテリオ様! い、行きます!」

「おうっ!!」

 魔力を受けた者が、エレウテリオに声をかける。
 彼らは発射台だ。
 数人の魔力を抑えるために、体が悲鳴を上げている。

「ハッ!」

 魔力を集められた者の中で、発射で来たのは2人。
 他の者たちは、発射する前に膨大な魔力に耐えられず、肉体が爆散した。

「よくやったぞ! お前たち!」

 エレウテリオからすれば、たった2人でも発射出来れば充分だ。
 強力な魔力砲が発射され、前方にいたスケルトンたちが魔力砲が放たれた線上に消滅した。
 これにより道ができた。
 魔法を放つと共に血を吐き出して倒れた兵へと言葉をかけると、エレウテリオは乗っていた馬に走るように合図を送った。
 エレウテリオを乗せた馬は、合成魔法によってできた道を全速力で走る。
 将軍の地位を使って手に入れた、帝国でも駿馬として有名の馬だ。
 人骨のスケルトンたちでは追いつけないし、動物のスケルトンも付いてこれない。

「あと少しだ!!」

 かなりの距離を走ったことで、スケルトンもまばらになってきた。
 もう少し行けば、スケルトンの脅威から脱せる。
 馬は疲労しているが、がんばってもらうしかない。

「やはり駒は多い方が良かったな」

 脱出できたのは、兵たちの合成魔法による結果だ。
 犠牲になった兵たちに感謝するかと思ったが、どうやらそんなことはなかったようだ。
 彼らの家族を厚遇するといったことも、所詮は口約束でしかない。
 そもそも、彼らの名前を憶えているかも怪しいところだ。
 最初から反故にする気だったのだろう。

「よしっ!」

 兵と馬のお陰で、エレウテリオはようやくスケルトンの群れから抜けることに成功した。
 逃がすまいと、スケルトンたちは追いかけて来るが、肉がないためか速度はいまいちないため離される一方だ。

「っっっ!?」

「ヒヒ―ーン!!」

 スケルトンたちの脅威が去り、助かったとエレウテリオが安堵していると、炎の槍が飛んでくる。
 そのことに気付いたエレウテリオは、慌てて馬から飛び降りた。
 すると、炎の槍は馬に突き刺さり、全身を包み込んだ。

「おおっ! 上手く躱しましたね」

 炎の槍によって、馬はあっという間に絶命して炭化した。
 エレウテリオが突然の攻撃に驚いていると、炎の槍が飛んできた方向から1人の男が拍手をしながら姿を露わした。

「貴様っ!! 何者だ!?」

 炎の槍の魔法を放ったのは、どうやらこの男のようだ。
 そのことに気付いたエレウテリオは、愛馬を殺されて怒り心頭といったように男を睨みつけた。
 この場に似つかわしくないモーニングのスーツを着て、肌はやたら色白、黒髪で鼻が高く堀も深い顔のつくりから、大和国民ではないことがうかがえる。
 帝国の中には似たような者もいることから、帝国人の可能性もある。
 しかし、どこの誰であろうと、こんな仕打ちをしておいて、ただで済ませるつもりはない。
 そのため、エレウテリオは腰に差していた剣を抜いた。

「俺を帝国軍5将が1人と知ってのことか!?」

「えぇ、知ってますよ」

「……何?」

 帝国には5人の将軍がいる。
 大和王国が5つの地域に分けられていることから、5人の将軍は1人1地区の制圧という具合に担当することになった。
 全員でことに当たればもっと早く王国は滅亡していただろうが、彼らは将軍同士で揉めるわけにはいかないと、今回は均等に功を得ることにしたのだ。
 もしかしたら、1人でいたために将軍エレウテリオだと気付かなかった可能性もある。
 どちらにせよ殺すつもりだが、エレウテリオは男に向けて自分のことを認知しているのか尋ねた。
 その問いに対し、男は当然と言いたげに答えを返してきた。
 知っていて攻撃してきたという答えに、エレウテリオは眉根を寄せた。

「部下に助けられた雑魚将軍でしょう?」

「っ!? 貴様っ!!」

 たしかに部下の力によって危機を脱したが、自分でもスケルトンたちへ攻撃したことによる結果だと思っている。
 実際、エレウテリオは馬に乗りながら、かなりの数のスケルトンを破壊している。
 そもそも、弱い者は将軍にはなれない。
 エレウテリオもかなりの件の使い手だ。
 だからこそ、男の侮辱に耐えられず、エレウテリオは攻撃を繰り出した。

「ハッ!!」

 一気に距離を詰めてのエレウテリオの突きが、男の腹へ深々と刺さる。
 男はピクリとも動かないまま、何の抵抗もしなかった。

「…………」

「ふっ! 口ほどにもない」

 自分の移動速度が速すぎ、何の抵抗も出来ず絶命したと判断したエレウテリオは、興醒めしたように男のことを鼻で笑った。

「本当ですね。ハエが止まるような突きでしたよ」

「なっ!?」

 腹を突き刺されて死んだと思ったが、男は顔を上げた笑みを浮かべる。
 その反応に、エレウテリオは驚きの声を上げた。
 そして、突き刺した剣を抜くと共に、エレウテリオはバックステップをして距離を取った。

「どういうことだ!? 痛みを感じないのか……」

「痛いと言えば痛いですが、この程度の怪我など私にとっては意味がないものですよ」

「……?」

 腹から大量に出血しているというのに、まるで痛がる素振りをしない男に、エレウテリオは反射的に問いかけてしまった。
 その問いに対し、男は丁寧な返答をするが、エレウテリオには何を言っているのか分からなかった。
 腹を刺されて痛いというのに、何故避けるなり防ぐなりしなかったのだろうか。

「っ!? 回復魔法か!?」

 答えの意味に、エレウテリオはすぐに理解することになった。
 男が刺された腹の部分を手で撫でると、あっという間に傷口が消えた。
 しかも、もう一度撫でると、服に開いた穴も修復された。

「そう言えば自己紹介がまだでしたね? まぁ、死にゆく者に言ってもしょうがないですが……」

 大怪我を一瞬で回復したことに驚いているエレウテリオの馬鹿面を見て、男はため息交じりに話し始める。
 こちらは目の前の人間がエレウテリオだと分かっているが、エレウテリオはまだ自分のことを知らない。
 紹介しても意味のないこととは分りつつも、男は自己紹介をすることにした。





「私、ヴァンパイアのファウストと申します」 

 エレウテリオの相手をしていた男(ファウスト)は、名を名乗ると共に胸に手を当ててお辞儀をしたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜

KeyBow
ファンタジー
 主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。  そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。  転生した先は侯爵家の子息。  妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。  女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。  ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。  理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。  メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。  しかしそう簡単な話ではない。  女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。  2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・  多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。  しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。  信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。  いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。  孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。  また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。  果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...