子連れの冒険者

ポリ 外丸

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第 61 話

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「大人しくしな! そうすりゃ痛い目見なくて済むぜ!」

「へへっ、全くだ!」

 一番近くにいた2人が、下卑た笑みを浮かべながらセラフィーナに近寄ってくる。
 その笑みを見れば、この2人が何を考えているのかは明白だ。

「シッ!」

「がっ!?」「うっ!?」

 あと一歩というところまで近づいた2人に対し、セラフィーナは自ら距離を詰めて懐に入る。
 そして、魔力を全身に纏うことでできる身体強化をして、2人の腹にめり込むほどの威力で拳を打ち込んだ。
 腹を殴られた2人はうめき声をあげ、その一発で白目をむいて前のめりに倒れた。

「「「「「っっっ!?」」」」」

「ハッ!」

「うっ!?」「がはっ!?」

 仲間の2人が急に倒れたことで、犯人たちは一瞬固まる。
 その一瞬の隙を突き、セラフィーナは近くにいた敵に近付き、先ほどと同じように2人の腹を殴った。
 その攻撃によって、さらに2人が戦闘不能に陥った。

「なっ!?」「何っ!?」

 一気に4人が倒れたことで、犯人たちはようやく状況を理解したようだ。
 先程までの下卑た笑みも消え、警戒するように身を構えた。

「……おい! 気を引き締めろ!」

「ヘ、ヘイッ!」

「わ、分かりやした!」

 リーダーらしき男の言葉に、他の者たちが返事する。
 スタイル・器量良しの女が1人ということで、自分たちはいつの間にか舐めていたが、この隠れ家を見つけ出すような人間だ。
 セラフィーナがそこいらの冒険者とは違うということに、犯人たちは今更になって気が付いたようだ。

「このっ!!」「おりゃーっ!!」

「フンッ!」

「ぐあっ!?」「ごえっ!?」

 ようやく、セラフィーナを叩きのめして大人しくさせる気になった犯人たち。
 そのうちの2人が、左右から抱き着くように襲い掛かる。
 捕まえるのが目的なのだろう。
 そんな考えを理解しているセラフィーナは右の男の腹に肘打ちを打ち込み、次の瞬間左の男に顔を向けると、がら空きになっている顎にアッパーを放って叩きのめす。

「このアマ!!」

「セイッ!」

「ブッ!!」

 アッパーを放った状態のセラフィーナに対し、一人の男が下半身目掛けてタックルしてくる。
 2人を囮にして、この男が押し倒すのが目的のようだ。
 しかし、タックルしてくるのが視線に入ったセラフィーナはすぐさま反応し、その男の顔面を蹴り上げた。

「もらった!!」

 男を蹴り上げ、片足立ちのセラフィーナ。
 その背後から別の男が襲い掛かる。
 片足立ちの状態で背後からともなれば、急速に移動できるはずがない。
 そのため、男はセラフィーナの捕縛を確信したように声を上げる。

“バッ!!”

「なっ!?」

 セラフィーナを捕まえると確信していたために声を上げた男だったが、あと少しというところで起きた異変に驚きの声を上げる。
 死角から背後に回ってからの捕縛なのだから、何も存在するわけがない。
 しかし、セラフィーナの影から何かが飛び出してきたものだから、驚くのも無理はない。

「ガウッ!!」

「ギャッ!?」

 影から飛び出してきたのはリベルタだ。
 リベルタは飛び出してきた勢いのまま、男の顔面を右前足でぶん殴る。
 セラフィーナに飛び掛かる勢いまで相まって、男はとんでもない速度で吹き飛び、部屋の壁にぶつかって動かなくなった。

「オンブロキャットだと!?」 

「どこに潜んでいやがった!?」

「影だ! こいつの影から出てきやがった!」

「こいつ! 闇魔法使いか!?」

 突然リベルタが現れたため、犯人たちが戸惑いの声を上げる。
 この部屋に侵入してきた時、セラフィーナは一人だった。
 それなのに、どこからともなく出てきたのだから仕方がない。

「リベルタ! ……ほどほどにね?」

「ニャウ!」

 誘拐犯の目的が分からないので、捕まえて尋問したいところだ。
 そのため、殺してしまうわけにはいかない。
 とはいっても、自分たちが怪我を負う訳にもいかないため、最悪の場合はしょうがない。
 なので、セラフィーナとしては全員捕まえるなんて考えていないが、できる限りは捕縛する方向で進めるつもりだ。
 だが、従魔のリベルタはそこまで考えているか分からない。
 そもそも、先ほどの最後の男も対処できたので、別に出てこなくても良かったのだが、犯罪者の討伐に時間をかける必要はないため、セラフィーナは軽い忠告だけしてこのままリベルタに協力してもらうことにした。

「あぁ! あの男は捕縛の方向で」

「ニャウ!」

 他の奴らはともかく、奥にいるリーダーらしき男は話を聞きたいので捕まえたい。
 そのことをセラフィーナが告げると、リベルタは「了解!」と言うかのように返事をした。

「もう捕まえるなんて考えるな! 殺せ!」

「「「「「おうっ!!」」」」」

 セラフィーナの動きから、ただものではないことを理解したのだろう。
 リーダーらしき男は、眉間に皺を寄せて仲間に指示を出す。
 その指示を受けて邪な考えが吹き飛んだのか、男たちは近くに置いてあった武器をそれぞれ手にした。

「このっ!」「チッ!」

『予想よりはできるわね……』

 この部屋は洞窟内を改造したにしては動き回れるくらい広いが、剣を振り回すのは机や椅子などがあるので場に合っていない。
 そのことを理解しているからだろう。
 男たちが手に持ったのは、短剣などの刀身の短い武器ばかりだ。
 その判断を、セラフィーナは内心意外に思っていた。
 誘拐事件をしたり、先ほどまでの下卑た表情をしていたところから、粗野な雑魚連中という印象が強かったのだが、状況から武器を選ぶ判断力は正しかったからだ。
 そして、武器を振ってくるキレや速度を見る限り、最低でも中堅以上の実力があることは分かる。
 迫りくる攻撃を難なくかわしながら、セラフィーナは犯人たちの実力を分析した感想を心の中で呟く。

『と言っても、大したことないけど……』

 次々と迫りくる犯人たちの攻撃を躱したセラフィーナは、分析を終了する。
 その分析結果から自分との実力差を把握し、セラフィーナは反撃を開始することにした。 

「シッ!」

「がっ!?」「うっ!?」

 まず、ナイフによる攻撃を躱されて体勢を崩している左右にいる2人。
 その2人が体勢を整える前に接近し、腹を殴って悶絶させる。

「このっ!!」

「ニャウ!」

「ごっ!?」

 セラフィーナが殴り終えた瞬間を狙っていたのか、一人の男が背後からナイフで切りかかる。
 その攻撃に反応しないセラフィーナを見て、「仕留めた!」と男が頭で思ったところで、リベルタが男の顔面を前足で殴りつける。
 加減しているのか微妙なリベルタの攻撃により、男は吹き飛んで壁に体をしたたかに打ち付けて動かなくなった。 

「残り5人……」

 セラフィーナが先程の攻撃に反応しなかったのは、リベルタが反応すると分かっていたからだ。
 時々、自分よりエルヴィーノの方がリベルタの主人ではないかとも思える時があるが、れっきとした主と従魔だ。
 戦闘での連携は信頼しあっている。
 これで残ったのはリーダーらしき男を含めて5人。
 そのことを呟いて、セラフィーナはリベルタと共に敵との距離を詰めて行った。

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