子連れの冒険者

ポリ 外丸

文字の大きさ
上 下
51 / 80
第 1 章

第 51 話

しおりを挟む
「っ!?」

 自分の影に異変を感じたセラフィーナ。
 それが何を示しているかを理解しているため、特に慌てる様子はない。

「お帰りなさい。エル様」

「あぁ、ただいま」

 セラフィーナの影から、1人の人間が姿を現す。
 出てきたのはエルヴィーノだ。
 その姿を見たセラフィーナは、嬉しそうにエルヴィーノの声をかける。
 それに返事をしつつ、エルヴィーノは周囲を見渡して、ここがどこかを確認した。

「あう~!」

「……ただいま、オル」

 エルヴィーノが現れて喜んでいるのはセラフィーナだけでなく、彼女に抱かれているオルフェオもだ。
 嬉しそうに手を伸ばしてきオルフェオに対し、エルヴィーノは優しく頭を撫でてあげた。

「ギルドの訓練場……か?」

「そうです」

 周囲を見たことによる予想をエルヴィーノが述べると、セラフィーナは頷きと共に返事をした。
 エルヴィーノが言ったように、セラフィーナがいるのはイガータの町のギルドの建物の中にある訓練場だ。

「エル様の手紙通り所長に協力を求めたらここになりました」

「そうか……」

 見つけた子供たちの安全を確保するには、セラフィーナだけではいくら何でも手に余る。
 そのため、エルヴィーノはノッテに持たせた手紙で、イガータの町のギルド所長であるエヴァンドロに協力してもらうように指示していた。
 エヴァンドロ自身、子供たちを救出するといった時にいつでもギルドを頼ってくれと言っていた。
 その言葉をその通りに使わせてもらうことにしたのだ。
 エヴァンドロが協力してくれれば、子供をどうやって保護するのかはある程度予想できた。
 なので、エルヴィーノとしても転移した先がギルドの訓練場であることに、何の驚きも感じなかった。

「子供や犯人はどうした?」

「所長が信頼するA級冒険者を緊急招集して、犯人たちは地下牢に入れてあります」

 ここがどこかはもういいとして、気になるのは転移させた子供と犯人たちだ。
 子供たちのすぐ後に送った2人に続き、気絶させた4人も拘束してここに送った後、エルヴィーノは小屋に繋がれていた馬たちを森の外に逃がしてきた。
 その間に、子供と犯人たちはどうしたのだろうか。
 そのことを聞くと、セラフィーナが手短に説明してくれた。
 そもそも、ここに誘拐された子供と犯人が送られてくるなんて聞いても信用しないだろう。
 しかし、エルヴィーノが転移魔法の使い手だと聞けば話は別。
 ギルドとしても、そんな使い手を国や貴族に知られて使い潰される訳にもにもいかないから、エルヴィーノが転移魔法の使い手だと知られないように動くしかない。
 秘匿するためには、エヴァンドロの信頼できるA級冒険者に協力してもらうしかなかったのだろう。
 冒険者の中には荒くれ者も多いため、ギルドの建物の地下には牢も存在している。
 A級冒険者たちによって、犯人たちはその牢の中に閉じ込められているようだ。

「子供たちは?」

「親に連絡をし、迎えに来てもらいました」

 犯人は、今日のうちはA級冒険者の監視のもと地下牢に閉じ込めて置き、明日にはこの町の領主であるゲルボーゼ辺境伯の領兵に引き渡されることになっているそうだ。
 はっきり言って、犯人の方はもうギルドの方に任せているのでどうでもいい。
 それよりも、救出した子供たちの方が重要だ。
 その思いから問いかけると、セラフィーナは返答する。
 子供が救出されたのだから、親に返すのが当然だ。
 そのため、子供たちの親に迎えに来てもらったようだ。

「みんな泣いて喜びあっていましたよ」

「そうか……」

 数日とはいえ、誘拐・監禁された経験から、目を覚ました子供たちはエヴァンドロや冒険者たちを見て恐怖でおびえていた。
 しかし、すぐに親たちが来たことで、その恐怖から解放されたのか子供たちは大泣きしだしたそうだ。
 親たちも、我が子が無事に帰ってきてくれたことが嬉しくて、子供を抱きしめて泣き出した。
 その涙も、ギルドから家へ帰るとなったときには、親子共に笑顔になっていたそうだ。
 A級たちにお礼を言って帰って行ったそうだ。

「よかったですね?」

「そうだな」

 救出したのはエルヴィーノだが、セラフィーナはエヴァンドロにそのことは伏せるように言っておいた。
 もしもエルヴィーノが1人で救出したとなったら、どうやって子供たちや犯人をここまで連れてきたのだということが言及される。
 そうなると、転移魔法のことまで話さなければならなくなるかもしれない。
 そうならないため、今回の事件解明はエヴァンドロが招集したA級冒険者たちによるものということにした。
 エルヴィーノとしても、別に名声が欲しいわけではないため、この結果でも文句はない。

「ひとまずエヴァンドロのところに行くか」

「所長室で待つそうです」

「分かった」

 この後の口裏合わせと、町に戻ったことを伝えなければならない。
 そのため、エルヴィーノはエヴァンドロのところへ向かおうとする。
 エヴァンドロがどこにいるか分からないだろうと、セラフィーナはエルヴィーノに居場所を教える。
 それを受け、エルヴィーノはセラフィーナはから教わった通り、所長室へと向かって行った。



「おぉ! 帰ったか」

「あぁ」

 ノックをしたのち、所長室に入るとエヴァンドロが片手を上げてエルヴィーノに声をかけてきた。
 どうやら一息ついていたらしく、手元には空になったカップが置かれている。

「…………」

「あぁ、こいつらは今回の件で俺が呼んだA級の奴らだ」

「そうか……」

 所長室に入ったエルヴィーノは、ソファーに座る2人に目が行く。
 何者かと思って無言でいると、エヴァンドロが2人のことを紹介してくれた。
 緊急招集され、エルヴィーノの手柄を代わりに受け取ってくれることになった冒険者たちのようだ。

「どうも」「こんちは」

「あぁ、今回は巻き込んで悪かったな」

 見た目の30代前後の年齢と思われる男女。
 恰好からして、男性の方は剣士、女性の方は魔法使いといった感じだ。
 挨拶をしてきた2人に、エルヴィーノは急に事件に巻き込むことになったことを謝った。

「いや……」

「こちらとしてはありがたいです」

 2人からすると、むしろこちらの方が申し訳ない。
 なんだか知らないけど、急に最近有名になっていた誘拐事件を解決した、ちょっとした英雄扱いを受けることができるからだ。

「さてと、挨拶はそれぐらいにして、この後のことを話そうか?」

「そうだな」

 エルヴィーノと2人が簡単な挨拶を終えたところで。エヴァンドロが入ってくる。
 話したいことは色々あるが、それを含めて口裏合わせをしなければならない。
 そのため、全員がソファーに座り、今後のことの話し合いを始めることにした。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

【第1章完結】王位を捨てた元王子、冒険者として新たな人生を歩む

凪木桜
ファンタジー
かつて王国の次期国王候補と期待されながらも、自ら王位を捨てた元王子レオン。彼は自由を求め、名もなき冒険者として歩み始める。しかし、貴族社会で培った知識と騎士団で鍛えた剣技は、新たな世界で否応なく彼を際立たせる。ギルドでの成長、仲間との出会い、そして迫り来る王国の影——。過去と向き合いながらも、自らの道を切り開くレオンの冒険譚が今、幕を開ける!

てめぇの所為だよ

章槻雅希
ファンタジー
王太子ウルリコは政略によって結ばれた婚約が気に食わなかった。それを隠そうともせずに臨んだ婚約者エウフェミアとの茶会で彼は自分ばかりが貧乏くじを引いたと彼女を責める。しかし、見事に返り討ちに遭うのだった。 『小説家になろう』様・『アルファポリス』様の重複投稿、自サイトにも掲載。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

婚約破棄されたけど、逆に断罪してやった。

ゆーぞー
ファンタジー
気がついたら乙女ゲームやラノベによくある断罪シーンだった。これはきっと夢ね。それなら好きにやらせてもらおう。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...