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第 1 章
第 2 話
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「あぅ~!」
「……かわいいな。性別は?」
「男だ」
家の前に置かれていた赤ん坊。
その説明を終え、エルヴィーノは対面のソファーに座るがっしりとした体格をした40代後半から50代前半の男性に問いかけられる。
オムツを変えたときに嫌でも分かるため、この子の性別は判明していた。
そのため、エルヴィーノは彼の問いに対して端的に答えた。
「……お前の子か?」
「んなわけあるかよ!」
続いて投げかけられた男性の問いかけに、エルヴィーノはすぐに突っ込みをいれた。
「そうだよな……」
エルヴィーノに抱かれている赤ん坊は、黒髪黒目という特徴は同じだが、彼の子であるのなら似ていなければならない部分が似ていない。
そのことを知っている彼は、エルヴィーノの突っ込みに納得するように頷いた。
「ってことは捨て子か?」
エルヴィーノの子ではない。
そんな彼の家の前に置かれていたということは、捨てて行ったのだと考えられる。
そう考えると、男性は僅かに眉間に皺を寄せた。
「かもしれないな……」
先ほどから、赤ん坊を見る彼の目は優しい。
そのことから、「もしかして子供好きなのか?」と問いかけたくなる。
しかし、顔が少々強面の彼には聞き辛く、エルヴィーノはそれを口に出さずに同意の言葉を返した。
「これからどうするつもりだ?」
「ひとまずは面倒見るよ。「間違いでした」って来るかもしれないし」
「そうか……」
赤ん坊を指さしての問いかけに、エルヴィーノは自分の考えを答える。
どうして自分の家の前に置いて行ったのかわからない。
もしかしたら、この子の親が自分と似ている特徴をしていて、勘違いで置いて行ったという可能性も考えられる。
そして、もしかしたら置いて行った人間が勘違いに気づくかもしれない。
その時のことを考えて、エルヴィーノは赤ん坊を預かることにした。
「ってか、お前に育てられるのか?」
「何言ってんだよ。子育ての経験はあるから大丈夫だ」
「……そうか」
エルヴィーノの見た目は20代。
そのため、男性が思わず子供の面倒が見られるのか不安になり問いかけると、エルヴィーノは自信ありげに返答した。
エルヴィーノは、見た目通りの年齢ではない。
そのことを思い出し、男性はその返答に男性は納得した。
「それで? 今日の魔物退治はどうするんだ? 今日だけならギルド所長権限で預かってもいいが……」
言葉からもわかるように、エルヴィーノと話している彼はこの町のギルドの所長で、この部屋は所長室だ。
名前はトリスターノという。
今日エルヴィーノがギルドに来たのは、以前から予定として組まれていた魔物退治の仕事のためだ。
空気中に漂う目に見えない魔素。
それを大量に取り込んだことにより、変質した生物が魔物と呼ばれている。
魔物の多くは人に危害を加えるうえ、繁殖力の高い種類もいる。
放っておいたら大繁殖を起こし、食料を求めて町に攻め込んでくることになりかねない。
そうならないためには討伐をおこなわなくてはならなず、今回エルヴィーノに参加してもらったというわけだ。
それだけ実力があることが知られているため、トリスターノとしては存分に力を発揮してもらいたい。
それなのに、赤ん坊がいる状況ではそういうわけにはいかないため、トリスターノは赤ん坊の一時託児を提案する。
「一角兎の大繁殖だから、この子を抱いたままでも問題ない」
「そうか……」
今回討伐するのは一角兎という、頭に1本の角を生やした小型犬ほどの大きさをした魔物だ。
はっきり言って、大人なら1羽2羽程度なら簡単に倒せるような弱いのだが、繁殖力が高いため放っておけない魔物だ。
それが、人が寄り付かない森の一角に巣を作り、大繁殖していたことが発見された。
弱い魔物といっても数が数なため、ギルドは討伐隊を組んだのだ。
しかし、エルヴィーノとしては、どんなに数が多くても一角兎は一角兎。
まったく脅威にならないし、これからもこの状態で仕事をすることになるのだから、状態に慣れるためにもこのまま赤ん坊も連れて行くことにした。
トリスターノはその返答に頷くが、その表情はなんだか残念そうだ。
その表情に、「お前が面倒見たいだけなんじゃないか?」と聞きたくなるが、肯定されても困るため、エルヴィーノはそれ以上は言わないことにした。
「じゃあ、行ってくる」
「あぁ、頼む」
これ以上長居すると、トリスターノが赤ん坊を預かろうと色々言ってくるのではないかと思えてきた。
子供好きなのかもしれないが、少々強面なおっさんに任せるのは何だか気が引ける。
そのため、エルヴィーノはソファーから立ち上がり今日の仕事である魔物退治に向かうことにした。
「ノッテ、ジャン。行くぞ」
「ホ~!」「ガウッ!」
トリスターノとの会話の間、おとなしく側にあった椅子に座っていた(ノッテの場合は乗っていたのほうが正しい)ノッテとジャンに声をかけ、エルヴィーノは所長室から退室していった。
◆◆◆◆◆
「フッ!」
「ギャッ!!」
腰に差していた鞘から抜き放たれた片手剣により、エルヴィーノは一角兎を斬り倒した。
「……すげえな」
「あぁ……」
自分たちも一角兎と闘いながら、ほかの冒険者たちはエルヴィーノの動きに見とれていた。
「指揮をするっていうのがどんな奴かと思っていたが、あんなすげえなんてな……」
今回の魔物退治のためにギルドが集めたのは、魔物を倒すことで資金を得ている冒険者と呼ばれている者たちだ。
冒険者たちは我が強いものが多く、それをまとめるためには相当な実力がなくてはならない。
そこで、トリスターノが指揮する者としてエルヴィーノを指名した。
ほかの冒険者たちからすれば、どんな人間が自分たちに指示を出すのかと思っていたが、その実力は認めざるを得ないものだった。
「見ろよ。胸の赤ん坊寝てるぞ」
「あぁ、あれだけ倒しているのにな」
エルヴィーノの周辺には、ほかの冒険者たち以上の数の一角兎の死体が山のようになっている。
それだけでもすごいのだが、それだけの魔物を相手にしているというのに、抱っこ紐で結ばれている胸の赤ん坊が、すやすやと音が聞こえてきそうな顔で眠っているのだから、さらにそのすごさが感じられるというものだ。
赤ん坊を起こさないように、魔物を倒しながらも振動を与えないようにしているということなのだから。
「あの従魔もやばいな……」
「そうだな……」
冒険者たちの驚きは、エルヴィーノのことだけではない。
彼の連れている従魔(魔法によって主従関係を結んだ魔物)の、ノッテとジャンのことだ。
“シャッ!!”
「ギャッ!!」
ノッテは、フクロウの魔物らしく音もなく羽ばたき、上空から高速滑降するようにして一角兎を攻撃する。
猛禽類の足の爪によって、一角兎は深い傷を受け、あっという間に命を落とす。
「ガウッ!」
“ボンッ!!”
ジャックオランタンという魔物のジャンは、一角兎に向かって魔力で作った手のひら大の緑色カボチャを放る。
そのカボチャは、一角兎に当たるとともに爆発を起こす。
その爆発によって、一角兎は大怪我を負って動かなくなった。
エルヴィーノの従魔たちは、ほかの冒険者たちと遜色ないほどの活躍をしており、エルヴィーノほどではないとはいっても、かなりの数の一角兎を減らしている。
それがさらにエルヴィーノの評価を上げていた。
「すごいな。子連れ冒険者」
「あぁ……」
この会話が、この討伐隊に参加した者たちに広がったからなのかはわからないが、赤ん坊が来たその日から、子連れ冒険者のエルヴィーノという二つ名が定着したのだった。
「……かわいいな。性別は?」
「男だ」
家の前に置かれていた赤ん坊。
その説明を終え、エルヴィーノは対面のソファーに座るがっしりとした体格をした40代後半から50代前半の男性に問いかけられる。
オムツを変えたときに嫌でも分かるため、この子の性別は判明していた。
そのため、エルヴィーノは彼の問いに対して端的に答えた。
「……お前の子か?」
「んなわけあるかよ!」
続いて投げかけられた男性の問いかけに、エルヴィーノはすぐに突っ込みをいれた。
「そうだよな……」
エルヴィーノに抱かれている赤ん坊は、黒髪黒目という特徴は同じだが、彼の子であるのなら似ていなければならない部分が似ていない。
そのことを知っている彼は、エルヴィーノの突っ込みに納得するように頷いた。
「ってことは捨て子か?」
エルヴィーノの子ではない。
そんな彼の家の前に置かれていたということは、捨てて行ったのだと考えられる。
そう考えると、男性は僅かに眉間に皺を寄せた。
「かもしれないな……」
先ほどから、赤ん坊を見る彼の目は優しい。
そのことから、「もしかして子供好きなのか?」と問いかけたくなる。
しかし、顔が少々強面の彼には聞き辛く、エルヴィーノはそれを口に出さずに同意の言葉を返した。
「これからどうするつもりだ?」
「ひとまずは面倒見るよ。「間違いでした」って来るかもしれないし」
「そうか……」
赤ん坊を指さしての問いかけに、エルヴィーノは自分の考えを答える。
どうして自分の家の前に置いて行ったのかわからない。
もしかしたら、この子の親が自分と似ている特徴をしていて、勘違いで置いて行ったという可能性も考えられる。
そして、もしかしたら置いて行った人間が勘違いに気づくかもしれない。
その時のことを考えて、エルヴィーノは赤ん坊を預かることにした。
「ってか、お前に育てられるのか?」
「何言ってんだよ。子育ての経験はあるから大丈夫だ」
「……そうか」
エルヴィーノの見た目は20代。
そのため、男性が思わず子供の面倒が見られるのか不安になり問いかけると、エルヴィーノは自信ありげに返答した。
エルヴィーノは、見た目通りの年齢ではない。
そのことを思い出し、男性はその返答に男性は納得した。
「それで? 今日の魔物退治はどうするんだ? 今日だけならギルド所長権限で預かってもいいが……」
言葉からもわかるように、エルヴィーノと話している彼はこの町のギルドの所長で、この部屋は所長室だ。
名前はトリスターノという。
今日エルヴィーノがギルドに来たのは、以前から予定として組まれていた魔物退治の仕事のためだ。
空気中に漂う目に見えない魔素。
それを大量に取り込んだことにより、変質した生物が魔物と呼ばれている。
魔物の多くは人に危害を加えるうえ、繁殖力の高い種類もいる。
放っておいたら大繁殖を起こし、食料を求めて町に攻め込んでくることになりかねない。
そうならないためには討伐をおこなわなくてはならなず、今回エルヴィーノに参加してもらったというわけだ。
それだけ実力があることが知られているため、トリスターノとしては存分に力を発揮してもらいたい。
それなのに、赤ん坊がいる状況ではそういうわけにはいかないため、トリスターノは赤ん坊の一時託児を提案する。
「一角兎の大繁殖だから、この子を抱いたままでも問題ない」
「そうか……」
今回討伐するのは一角兎という、頭に1本の角を生やした小型犬ほどの大きさをした魔物だ。
はっきり言って、大人なら1羽2羽程度なら簡単に倒せるような弱いのだが、繁殖力が高いため放っておけない魔物だ。
それが、人が寄り付かない森の一角に巣を作り、大繁殖していたことが発見された。
弱い魔物といっても数が数なため、ギルドは討伐隊を組んだのだ。
しかし、エルヴィーノとしては、どんなに数が多くても一角兎は一角兎。
まったく脅威にならないし、これからもこの状態で仕事をすることになるのだから、状態に慣れるためにもこのまま赤ん坊も連れて行くことにした。
トリスターノはその返答に頷くが、その表情はなんだか残念そうだ。
その表情に、「お前が面倒見たいだけなんじゃないか?」と聞きたくなるが、肯定されても困るため、エルヴィーノはそれ以上は言わないことにした。
「じゃあ、行ってくる」
「あぁ、頼む」
これ以上長居すると、トリスターノが赤ん坊を預かろうと色々言ってくるのではないかと思えてきた。
子供好きなのかもしれないが、少々強面なおっさんに任せるのは何だか気が引ける。
そのため、エルヴィーノはソファーから立ち上がり今日の仕事である魔物退治に向かうことにした。
「ノッテ、ジャン。行くぞ」
「ホ~!」「ガウッ!」
トリスターノとの会話の間、おとなしく側にあった椅子に座っていた(ノッテの場合は乗っていたのほうが正しい)ノッテとジャンに声をかけ、エルヴィーノは所長室から退室していった。
◆◆◆◆◆
「フッ!」
「ギャッ!!」
腰に差していた鞘から抜き放たれた片手剣により、エルヴィーノは一角兎を斬り倒した。
「……すげえな」
「あぁ……」
自分たちも一角兎と闘いながら、ほかの冒険者たちはエルヴィーノの動きに見とれていた。
「指揮をするっていうのがどんな奴かと思っていたが、あんなすげえなんてな……」
今回の魔物退治のためにギルドが集めたのは、魔物を倒すことで資金を得ている冒険者と呼ばれている者たちだ。
冒険者たちは我が強いものが多く、それをまとめるためには相当な実力がなくてはならない。
そこで、トリスターノが指揮する者としてエルヴィーノを指名した。
ほかの冒険者たちからすれば、どんな人間が自分たちに指示を出すのかと思っていたが、その実力は認めざるを得ないものだった。
「見ろよ。胸の赤ん坊寝てるぞ」
「あぁ、あれだけ倒しているのにな」
エルヴィーノの周辺には、ほかの冒険者たち以上の数の一角兎の死体が山のようになっている。
それだけでもすごいのだが、それだけの魔物を相手にしているというのに、抱っこ紐で結ばれている胸の赤ん坊が、すやすやと音が聞こえてきそうな顔で眠っているのだから、さらにそのすごさが感じられるというものだ。
赤ん坊を起こさないように、魔物を倒しながらも振動を与えないようにしているということなのだから。
「あの従魔もやばいな……」
「そうだな……」
冒険者たちの驚きは、エルヴィーノのことだけではない。
彼の連れている従魔(魔法によって主従関係を結んだ魔物)の、ノッテとジャンのことだ。
“シャッ!!”
「ギャッ!!」
ノッテは、フクロウの魔物らしく音もなく羽ばたき、上空から高速滑降するようにして一角兎を攻撃する。
猛禽類の足の爪によって、一角兎は深い傷を受け、あっという間に命を落とす。
「ガウッ!」
“ボンッ!!”
ジャックオランタンという魔物のジャンは、一角兎に向かって魔力で作った手のひら大の緑色カボチャを放る。
そのカボチャは、一角兎に当たるとともに爆発を起こす。
その爆発によって、一角兎は大怪我を負って動かなくなった。
エルヴィーノの従魔たちは、ほかの冒険者たちと遜色ないほどの活躍をしており、エルヴィーノほどではないとはいっても、かなりの数の一角兎を減らしている。
それがさらにエルヴィーノの評価を上げていた。
「すごいな。子連れ冒険者」
「あぁ……」
この会話が、この討伐隊に参加した者たちに広がったからなのかはわからないが、赤ん坊が来たその日から、子連れ冒険者のエルヴィーノという二つ名が定着したのだった。
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