いつか、桜の森で。【8P短編】

ジェリージュンジュン

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【3】

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――夏。



 彼と別れてから、もう4ヶ月が過ぎた。

あれから変わったことがひとつある。

 私に同居人ができた。

 今は、その同居人と2人で住んでいる。

ちなみに、相手は男性。

と言っても、別に恋愛感情なんかはない。

 実は、部屋を引っ越した時、管理人さんの紹介でいま流行りのルームシェアってやつを体験している。



 桜の森の満開の下で逢いましょう。



 私は、今でもその言葉だけは忘れられない。

 私と彼は、以前、同じアパートで隣同士に住んでいた。

 壁1枚を隔てた部屋で隣同士だった。

だからかな。

 距離が近かったからかな。

 仲良くなるのに、時間はかからなかった。


きっかけは、そのアパートに隣接する、緑が生い茂る公園。

そこで、私たちはよく出会い、お互いのことをもっと知りたくなった。

 恋。

それは、明らかに恋だった。

でも、私たちは恋をするには、お互いが幼すぎたのかもしれない。

 私は、彼が好きだった。

おそらく、彼も私が好きだった。

でも、別に体を求め合うことはなかった。

ううん、違うか。

ただ、一緒に居られればそれでいい。


それだけで幸せだったのかもしれない。


私たちは、その公園でよく待ち合わせをした。

 時には、芝生の上に寝転んで、じゃれあったり空を見上げたりもした。


それは、決まって、大きな桜の木の下。

 1本だけじゃない。

 5本か6本の桜が密集していた。

 春になると、とても美しい。

 淡いピンクの花ビラが、日光を浴び風に揺られて、それはそれは、私と彼の心にとても素晴らしい癒しと輝きを与えてくれた。


ある日、その桜を見ながら彼が言った。


ここは、まるで『桜の森』みたいだね。


と。



 私は今日も1人、この公園に来ている。


そして、芝生に寝転がり、桜の森を眺めていた。

でもそこに、ピンクの花びらはなかった。

 変わりに、緑の葉っぱとセミたちのオーケストラが君臨していた。

そうなんだ。

 時間は、私の気持ちとは関係なしに、とめどなく流れていく。

そして、その移り変わる光景が、あなたと別れてからの月日を物語っていた。





 私は、待っています



桜の森の満開の下



もう一度


あなたに逢えることを


 ずっとずっと待っています



 いつまでも、いつまでも




 ずっと、あなたを待っています



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