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エピソード6【真面目な男】
【3】
しおりを挟むそして、左京はポケットに手を突っ込み、
「いいか……」
再び、ゆっくりと口を開く。
「おまえも聞いているとは思うが……不良品には気をつけろ。もし現れたらすぐに知らせろ」
「分かりました……」
『心ここにあらず』といった感じで、唇を噛み締め返事をするハルト。
悔しくて悔しくてたまらない。
その表情が、ハルトの心の内を全て表していた。
すると、その時──
《ピピピピ…………》
左京の携帯電話が鳴り響いた。
ディスプレイの画面に目をやると『不良品対策本部』の文字が映し出されていた。
(ふう……)
左京はため息を一つつくと、携帯電話を耳にあて、
「俺だ……場所は……わかった、すぐ行く……」
言葉少なに電話を切り、慣れた手つきで内ポケットにしまった。
「あ、あの……」
ハルトは、恐る恐る尋ねた。
「もしかして、また不良品ですか……?」
「ああ……」
左京は、コクリと頷く。
今日だけで、これでもう3件目。
髪をかきあげる仕草が、やたら疲れているようにも見える。
やはり、ハードな仕事なのは間違いなさそうだ。
そして『じゃあな』と一言だけ言い残し、工場をあとにしようとする左京を、
「あの!」
ハルトは、慌てて呼び止めた。
左京も、その声に逆らう事なく足を止める。
急いでいるであろう左京に時間を取らすわけにもいかない。
だが、どうしても聞きたい事がある。
「いったい、どうして……」
ハルトは、ボソボソと途切れ途切れの声で言った。
「なんで、こんなことが……なんで……不良品なんて症状が出始めたんでしょうか……」
ハルトでさえ、原因を導くことができない難問。
だが、不良品処理のスペシャリストならひょっとして……ハルトは、そんな小さな期待を持って左京に助けを求めた。
しかし左京は、
「さあな……」
静かな声で投げ捨てるように言った。
「天才科学者のおまえに分からないんだったら……俺に分かるわけがねえだろ……」
それだけ言うと、うつむき加減のまま工場からゆっくりと立ち去っていく左京。
『俺にできるのは、不良品を壊すことだけ』
『原因を見つけるのは、お前達、科学者の役目』
その背中は、そう訴えているようだった。
そして、その無言のメッセージを、ハルトもきちんと感じとったのだろう。
左京の姿が見えなくなっても、しばらくの間、頭を下げ、これから戦いに向かう男の無事を願っていた。
ハルトは恨んでいた。
不良品という物体を。
(不良品が暴走しなければ……人間を襲わなければ……アンドロイドと人間が仲良く暮らせる平和な世界が築けたのに…………)
もちろん、これ以上、不良品が増え続けるのを黙ってみているわけにもいかない。
その思いは、常に頭の中にある。
しかし、いまだにハルトとレイナの頭脳を持ってしても、暴走原因は判明しなかった。
それほど不良品という現象は
世界に驚異を及ぼし始めていた
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