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エピソード4【特別と普通】
【9】
しおりを挟む椅子に座っていたニンジャが、いきなり立ち上がり、
「ふっふっふっ……」
満を持したように、胸を張り喋り始めた。
「そろそろ、私のことを色々教えてあげよう」
なんと、まだ全く紹介されていない男がここにいた。
しかも、誰も自分のことを紹介してくれないから、自らアピールし始めるというありさま。
しかし、ルート2はあまり興味がない。
青い忍者服を着ている時点で、だいたいのイメージがついていたからだ。
だが、その勢いに負け、黙って聞くしかなかった。
「いいか、よく聞けよ……」
そして、ニンジャは重々しく口を開く。
「私の名前は、ニンジャだ!」
『どうだ!』と言わんばかりに、さらに胸を張るニンジャ。
しかし、ルート2に何の感動もない。
今までの色んな会話の中で、ちらほらと『ニンジャ』という名前が飛び交っていたからだ。
(よ、予想通りダナ……しかし、ここにいる人たちって、名前があるのは羨ましいケド……なんだか、見たまんまの名前が多いナ……ハルトさんのネーミングセンスってイッタイ……)
この時、ルート2の興味は、ニンジャよりもハルトのセンスについてだった。
そう。
確かに普通ではない。
というのは、サムライ、ガンマン、ニンジャは、まるっきりそのまんまの名前だからだ。
この工場のアンドロイドのうち、いくつかがこの被害に合っている。
名前的に、ジュリアとコマチは問題ない。
ストッピンは『ストップ』をちょっといじった名前。
メモリンは、記憶を意味する『メモリー』をちょっといじった名前。
ストッピン、メモリンは、ぎりぎりセーフといったところか。
そして、自己アピール真っ只中のニンジャはニヤニヤしながら、さらにルート2に詰め寄り、
「何か質問は?」
「エッ?」
(イ、いや……別にないケド……)
『ハハハ』と頭をかきながら、ひたすら愛想笑いをするルート2。
しかし、
「質問は?」
「は、ハイ……」
(ま、まいったナ……)
あまりにも嬉しそうに聞いてくるニンジャを見かねて、ルート2は仕方なく質問した。
「じゃ、じゃあ、エ~ト、好きな食べ物ハ?」
「よくぞ、聞いてくれた!」
ニンジャは腰に手を当て、胸を突き出して答える。
「バナナだ!」
さらに、首からぶら下げている銀色の物を見せつけ、
「ふっふっふっ、このバナナケースが便利でね、いつでもどこへでも持っていけるんだよね。それにこのケースは『アルバリィード合金』を使っている特別製だから、3ヶ月間もバナナを腐らずに保管できるんだぜ。フフフ…………」
「は、ハア……」
(ウ、ウワッ……全くもって、どうでもいい情報ダナ……)
ルート2は、さらに輪をかけて愛想笑いをするばかりだった。
ちなみに、この『惑星メデュー』に存在するアンドロイドたちは、人間が食べる物と同じ物を食べ、エネルギーに変えて動いている。
それほど、この星でのアンドロイド製造の技術は高度なものがあった。
そして、ニンジャはさらに笑みを振りまきながらルート2に詰め寄った。
「で、他には?」
「イ、いえ、もう特ニハ」
ルート2は断る。
しかし、ニンジャはさらに詰め寄る。
「何言ってんの~、大事なことがあるでしょ~」
「ハ?」
ニンジャは、もっとぐいぐい詰め寄る。
「じらさないで~ 早く聞いてよ~」
「な、なにをデスカ?」
「だ~~か~~ら~~!!」
これでもかというぐらいガンガンに詰め寄る。
「あのさ!」
そしてニンジャは、少し怒り顔で声を荒げた。
「能力を聞いてって言ってんの! 俺もわりとすげえんだから!!」
おぉぉぉ~~~~!
なんということでしょう!
ついに自分から言ってしまった!
首からぶら下げた金属性のバナナケースを揺らしながら、ニンジャの鼻息はさらに荒くなる。
「よく聞けよ! 俺の能力はなんと!」
その能力とは!?
「金縛りの術だ!」
そう!
それは、意外にすごい特殊能力!
「さっそく、見せてやる!」
そう言うとニンジャはルート2に、手の平を向け両手をかざし、
「てぃやあぁぁぁ!!」
大声で奇声を発した。
それは、鼓膜に響き渡るような、すさまじくかん高い音。
言い換えれば、ご近所迷惑この上ない大騒音。
超音波のような声の余韻が、しばらくその空間にとどまっていた。
「ふっふっふっ……」
何秒か静寂な時間が流れたあと、ニンジャは勝ち誇ったようにつぶやいた。
「これで、もう動けまい……」
心の中でニンジャは、自分で自分に拍手を送っていた。
『俺って、最高にかっこいい』
そう思っているのは、誰の目にも明らかだった。
しかし──
(エッ!?)
ルート2の口は、あんぐりと開いたままふさがらなかった。
それもそのはず。
なぜなら、余裕で自由に動けているからだ。
いつもと何一つ変わらない穏やかな日常がそこにはあった。
(こ、こういう場合ハ、どうしたらいいんダロウ……)
だが、自信満々のニンジャの顔を見ていると、逆に困ってしまう。
ルート2からすれば、この工場の先輩。
否定していいものかどうか分からない。
(よ、ヨシ、こうなったラ……)
そこで、ルート2は、
「ア~、今日もいい天気ダナ~」
いち、に!
さん、し!
さりげなく気づかせようと、軽く体を動かし柔軟体操をし始める。
すると──
「……え?」
ニンジャは、目玉が飛び出しそうなほど、大きく目を見開いた。
何だ!?
どうなってるんだ!?
訳が分からないといった感じで頭を抱え、慌てふためいていた。
そして、困ったあげく『コホン!』とわざとらしく咳払いをして、
「新入り! 今のは冗談だ!」
と、再び大きく胸を張った。
「いいか、新入り!」
「ハ、ハイ!」
「そろそろ、本当の特殊能力を見せてやる! その名は!」
(その名ハ!?)
「雲隠れの術だ!」
(オ~! す、凄そうダ!)
ルート2は、ニンジャの勢いに、ただただ圧倒されるばかり。
正直、さっきの件で、まだ半信半疑なのは間違いない。
ただ、このニンジャの自信と、何よりハルトが製造したという事実、そういう要素を考えると、やはり期待してしまう。
(次ダ! 次こそ、びっくりする能力が披露されるに違いナイ!)
「行くぞぉぉぉ!!」
そう叫ぶとニンジャは、両の手の平を天にかざし、
「ていやおあぁぁぁ!!」
先ほどよりも、より大きく強い奇声を発した。
真夏にカキ氷を一気に食べた時のように、頭にキンキンと響く。
家の側に空港が出来たような大騒音。
確実に、ご近所迷惑この上ない大声だった。
だが、ニンジャは満足げだ。
体中を駆け巡る心地よい快感に襲われているのだろう。
そして、再び静寂な時間が流れたあと、ニンジャは拳を握りしめてつぶやいた。
「……もう、私の姿は見えまい」
決まった!
今度こそ決まった!
ニンジャは、自分のかっこよさに失神寸前!
しかし!
(エッ~~~~~!!??)
再び、ルート2は、開いた口がふさがらなくなった。
なぜなら、くっきり、はっきり見えているからだ。
完全に、目の前には、胸を張って自信満々に佇むニンジャの姿があった。
(ド、どうしヨウ……)
ルート2は、再び頭を抱え始める。
ここは先輩の顔を立てて、見えないふりをするべきか、それともはっきり言うべきか……
考える。
考える。
さらに、さらに考える。
(ヨ、ヨシ!)
やがて、悩みに悩んだ結果、選んだ答えは──
「アノ……丸見えデス……」
おぉぉ~~~~!
なんて嘘のつけない正直な子!
「へ? ま、丸見え……?」
ニンジャの顔は、一気に青ざめていく。
「な、なんでなんだ!?」
やがて、もう自分でも訳が分からなくなったのだろう。
「な、なぜだぁぁぁ!!」
パニック状態に陥り、今日一番の絶叫が響き渡った。
しかし、ニンジャの気持ちとは裏腹に、周りはお腹を抱えて大笑い。
すると、その時──
「みんな~! お久しぶり~!」
メイン作業室に飛び込んできたのは、ポニーテールがトレードマークの女性。
ハルトの妹、レイナだった。
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