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エピソード4【特別と普通】

【8】

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そして、そんな仲むつまじい2人の姿を見て、


「あのねぇ~」


メモリンがルート2に言った。


 「サムライってぇ~、コマチの言う事だけは良く聞くんだよぉ~」

 「そうなんデスカ」

 「まっ、それだけ妹思いって事だよねぇ~」

 「フ~ン、良い兄妹なんデスネ」


(すごく、仲が良い2人なんだロウナ)


コマチとサムライには、誰にも割り込めない固い絆がある。

 2人の姿を見つめながら、ルート2はそう思っていた。


──すると、その時。


 「本当に、見てて微笑ましいですね」

「え?」


(い、今の声ハ……!)


ルート2の耳に、小鳥のさえずりのような綺麗な声が飛び込んできた。

その麗しい声に吸い寄せられるように、後ろを振り返ると、


(ハッ! さ、さっきの人ダ!)


ルート2の体は、接着剤をかけられたように緊張で固まってしまう。

その声の主は、作業着を着た目の大きく髪のきれいなあの女性。

 例の、ルート2の憧れのアイドルだ。


「あ、アノ……」


目があった瞬間、とたんに照れくさそうにチリチリパーマの頭をかきむしりながら、


 「エ~ト……こ、こんにちハ」

 「初めまして。こんにちは」


ルート2は、透き通った声でやさしく受け答えるその女性と初めて会話を交わし、


(ハァ……やっぱりかわイイ~)


ますます好意を抱いた。

そして、もっと情報を知りたくなったのだろう。

いちファンとして、もう一つ肝心なことを尋ね始める。


「あ、あの、お名前ハ?」

 「私は、製造番号『XY-999』です」

 「え?」


 (XY-999……? あれ……?)


この言葉を聞いたルート2は、すぐに違和感を感じた。

なぜなら、この工場のアンドロイドには人間のような名前がついているはず。

そう思ったからだ。

すると、その疑問に答え始めたのは、やはりリーダー格のジュリアだった。


 「こいつは最近、ハルトが作ったアンドロイドだ。まだ、ここに来て3日しか経っていないから、おまえと同じ新入りだ」

 「エッ!? そうだったんデスカ!!」


 (やった! 同じ新入りだ!)


ルート2は、一気に親近感が湧いてきた。

 続けてジュリアは、


 「実は……」


ツヤのある黒髪をかきあげながら言った。


 「ハルトの奴、宇宙船作りに没頭してたから、こいつはまだ名前をつけてもらってないんだ。言葉はちゃんと話せるんだが、まだ感情システムが未熟な部分がある。まあ、こいつの頭脳は最新型の『LMP800』だからすぐに覚えるだろうけどな」

 「そういうことなんデスカ」


 (なるほド~……)


ルート2は、うんうんと首を縦に振って頷いていた。

あいかわらず、ジュリアの説明が分かりやすかったのだろう。

そして、紹介されたその女性は、改めて丁寧にペコリと頭を下げ始めた。


また、ジュリアの話によって、いくつかその女性について分かったことがある。

 頭脳は最新型の『LMP800』

 一番、高性能なコンピューターを搭載している。

しかし、まだ感情システムは完璧ではない。

だが、それはまだ日が浅いから。

これから学習して、徐々に発達していくのは間違いない。

そして、彼女は、この工場に来て3日目。

ということは、ハルトがこの女性を完成させたのは3日前か、遅くともここ最近なのは間違いない。


(ウ~ン……)


この事が、ルート2は少し引っかかっていた。


 「アノ……ジュリアさん……」

 「どうした?」

 「噂で聞いたんですケド……アンドロイドの製造って、今は休止されてるはずジャ……」


そう。

ルート2の考えは当っていた。

それは、増え続ける不良品を防ぐための、大臣の苦渋の決断。

もちろん、ジュリアたちも噂程度だが耳にしたことはある。


 「ああ、理由は分からないが、そうらしいな。だが、宇宙船製造のために労働力が欲しかったんだろう。大臣に頼みこんで一体だけ製造許可をもらったみたいだ」

 「へ~、そうなんデスカ」

それは、ハルトが懇願した結果によるもの。

そう。

 断られても、断られても、ハルトはひたすら頭を下げてお願いした。

ハルトは、今のアンドロイド世界を作り上げた功労者。

 大臣は、その功労者の頼みを頭ごなしに突っぱねるわけにもいかず、一体だけという約束で了承。

このように、この女性が誕生した裏側には、ハルトの強い要望があった。

そしてルート2に、その女性『XY-999』は改めて自己紹介をし始める。


 「私は読書が趣味なだけで、何の能力もとりえもありませんが一生懸命働きます。これからよろしくお願いします」

 「え……?」


 (能力が何もない?? あの天才のハルトさんガ作ったノニ??)


ルート2は、一瞬耳を疑った。

しかし、


 (アッ! そうカ……急いで作ったから、時間がなくて……特殊能力が備わってナインダ……)


そういう考えが、すぐに浮かんだ。

 確かに、そう考えるのが自然な発想。

 宇宙船製造のための労働力は、一日でも早いほうがいい。

だから、今回は特殊能力を省いた。

ルート2の頭の中では、そういう答えが導き出されていた。


 「これから、よろしくお願いシマス」

 「はい、こちらこそ」


そして、ルート2は憧れのアイドル『XY-999』と照れくさそうに握手を交わし始める。

 『同じ新入り同士、仲良くしてね』

そんな思いを右手に込めて、やさしく握っていた。


この工場の人達と、これから一緒に楽しく働いていこう。

 立派な宇宙船を完成させよう。

そう心に誓い、目をキラキラ輝かせていた。


すると、その時──



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