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エピソード4【特別と普通】

【1】

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──半年後。


 都会の中にあるとは思えないような美しい川が流れている側に、ハルトが責任者を勤める宇宙船工場があった。

 最新の設備が搭載された、かなり大きく立派な工場。

その工場に隣接するように、造りかけの宇宙船が顔を覗かせている。

 直径80メートル、高さも40メートルはあろうかというドーム型の宇宙船。

 結構な大型だ。


これからまた宇宙船の完成に向けて作業が始まるのだろう。

 数人が中央に集まって、仕事前の準備運動をしている。

しかし、体を動かしているのは人間ではない。


ここにいる者は皆、アンドロイド。


 見た目では全く見分けはつかないが、まぎれもなく人間そっくりの機械。

ちなみに、宇宙船製造のために、外見が明らかに機械的な労働用ロボットは多数いる。

しかし、それは決められたことを淡々とこなすだけの単純な機械。

そんな機械とは『月とスッポン』ぐらい比べものにならなかった。


 今でこそ、優秀な科学者であれば高度なアンドロイドを作り出すことは可能になった。

だが、もともと人間のような喜怒哀楽の感情を持つアンドロイドを開発したのは、まぎれもなくハルトとレイナの2人だった。


「よーし、今日も一日がんばるぞ!」


アクセサリーをきらきらさせたお姉系のアンドロイド、ジュリアが元気よく先頭に立って掛け声をあげる。

ジュリアとはもちろん、ハルトが初めて人間に近いアンドロイドに成功した、あのジュリアだ。


あれから、4年半ほどの月日が流れていた。


 当時はカタコトだったジュリアの口調も、今ではすっかり滑らかになっている。

 色んな知識も吸収して、今ではすっかりこの工場のリーダー的存在。

そして、ジュリアの声に便乗するように全員のテンションが上がり、それぞれ持ち場につこうと動き始めた。


その時──


その空間へ、おどおどした感じでやってくる青年が一人。

ハーフパンツにブーツ。

エプロンを身につけ、スリムな体型にちりちりのパーマ。

そんな風貌のアンドロイドがよそよそしく入ってきた。

その青年は、周りをキョロキョロ見渡すと、


 (ウワ~、全員、個性的な服装をしているナ~。あんな格好で仕事するのカナ……)


 少し異様な光景に、腰がひけていた。

そう。

 彼が不思議に思うのも無理はない。


 忍者服。

 西部劇の主人公のような者。

ハカマや浴衣を着ている男女。


パッと見ただけでも、これだけの驚きがある。


 (変な所に来ちゃったナ~……でも、こんな事で怯んでちゃダメダ!)


 青年は、意を決して異質な空間の中へ入って行った。


 「アノ……」


しかし、誰にも相手にされない。

全員、青年の存在に気づかず、せわしなく動いていた。


 (誰も気づいてくれナイ……どうしよウ……)


 数秒の間、どうすることもできず、立ち尽くしていたが、


 (ダメダ! こんな事で悩んでちゃダメなんダァァ! よし、今度コソ!)


 頬をパンパンと叩くと、体中から力を振り絞り、


 「アノォォォ!!!」


 今までより何倍も大きな声を吐き出した。

そして、その効果はすぐに現れる。

 自分たちに訴える強い声に気がつき、やっと全員が振り向いた。


 (やっタ! 気づいてくれタ!)


 喜びを噛み締めていると、忍者服を着ている男、その名も『ニンジャ』が不思議そうに尋ねてきた。


 「おまえ、誰だ?」

 「はい! 今日からこちらの宇宙船工場に転勤になりまシタ。一応、ロボット検定に合格しているアンドロイドデス。よろしくお願いしマス!」


 新しい職場に胸を躍らせながら自己紹介をする青年。

すると浴衣姿の少女『コマチ』も質問をし始める。


 「言葉を喋るのは、まだ慣れていないんですか?」

 「これでも上達したほうなんデス。感情システムも最近は上手く使えるようになってきたので、これからもっとがんばりマス」


 確かに青年の喋り方は、他のアンドロイドに比べて、少しカタコトぎみで下手くそだ。

そして、さらにコマチは丁寧な口調で青年に尋ねた。


 「お名前は、なんとおっしゃるんですか?」

 「私は、製造番号141421356デス」

 「えっ? え~と……」



141421356……



う~ん……



 …………長い。



そこにいる誰もがそう思った。

そして、全員から青年に対しての質問タイムは、さらに勢いを増し始める。


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