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エピソード3【約束】

【1】

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──2時間後。


 政府の建物『スリー・アロー』のロビーで少しくつろいだ後、ハルトとレイナは自宅へと向かっていた。


 「やった~! 宇宙船が作れるぞ~!」


ハルトは念願の宇宙船が作れることで、嬉しさを押さえきれない。

 帰り道、スキップをしたり、カエルのようにピョンピョンと飛び跳ねたり、子供のように喜んでいた。

しかし、その横で、


 (…………)


 不機嫌そうな顔を浮かべるレイナ。

もちろんハルトも、妹のふくれっ面にすぐに気がつく。


 「もう、機嫌直せよ~」


 頭をポリポリかきながら、空気を変えようとし始めた。


 「あの設計図を勝手に大臣に見せたことは謝るからさ。でも、これでお金の心配しなくてすむし、宇宙船を作って歴史に名を刻もうぜ!」


 宇宙船製造のための資金を気にしなくてすむ。

この事が、ハルトを喜ばせている一番の要因だった。

しかし、レイナの表情は変わらない。


 「そんなんじゃないよ……2人で約束したのに……あんな大きな宇宙船じゃなくてもいいのに……」

 「ん? 約束? 何のことだ?」


 (何だ? 何を言ってるんだ?)


ふざけている訳でもなく、普通に聞き返すハルト。

その瞬間、レイナはびっくりしたように目を見開いた。


 「え……覚えてないの……?」

 「何を?」

 「別に……なんでもない」

 「なんだよ~……あっ!」


 (あれか! あのことか!)


ハルトは手をポンと叩き、あることを思い出した。


 「俺がおまえをずっと守ってやるって約束か! 心配するな、もちろんずっと守ってやるから」

 「それじゃなくて……」


 (もう……なんで……なんでなのよ……)


レイナの機嫌は戻らない。

どんどんと、曇り顔になっていく。

だが、ハルトはさらに包み込むような笑顔を見せ、レイナの肩に手を置いた。


 「安心しろって。何も不安にならなくていいから。だから機嫌直せよ」

 「もう!」


レイナは声を荒げ、ハルトの手を振り払った。


 「だから、何でもないって! 放っといてよ!」


ポニーテールを揺らしながら、ハルトを少し睨みつける。

ハルトは、振り払われた手をブラブラとさせながら、


 (何だ……? 変な奴だな……)


 呆れるようにキョトンとしていた。

 分からない。

 分からない。

 妹が何を考えているのか全く分からない。

ハルトは、何も喋ることが出来なかった。

そして、5秒ほど無言の時間が流れたあと、


「それで……」


レイナは少し落ち着こうとしたのか、自ら話題を変え始める。


 「……宇宙船の名前は決めてるの?」

 「え?」


 『宇宙船』というキーワードが、ハルトを食いつかせた。


 「おっ! そうだな、決めなきゃな!」


ハルトは、腕を組み考え始める。


「歴史に名を刻む宇宙船だから……名前はハルトとレイナから一文字取って『宇宙船ハレ!』……ん~、良い響きだ……」


ハルトは、まだ見ぬ完成した宇宙船の姿を想像しながら、クラクラと酔いしれていた。


──だが。


(…………)


レイナの様子は、やはりおかしい。

 口を真一文字に結んだまま、何も喋ろうとしない。

いつものように、からかってもこない。

ハルトも気になってはいるが、


 (まいったな……でも、こういう時こそひょうきんに……)


 空気がどんよりするのを避けるように、あえて明るく振舞う。


 「ん? 気に入らないか?」


あっ、そうか! とハルトはわざとらしく手を叩いた。


 「元々、お前の設計だから『宇宙船レイト』……これでどうだ!?」


 嬉しそうに、名前の候補をあげるハルト。

しかし、やはりレイナの不機嫌そうな顔は変わらない。

うつむいたまま黙り込み、何も喋ろうとはしない。

ハルトは、大きなため息を吐き出し、手の平で顔を覆った。


 (何だよ……いったい、何なんだよ……)


 原因が全く分からないハルトは、もうお手上げ状態。

 女心をこれ以上、読みきるのは不可能のようだ。


 「なあ……いったい、どうしたんだよ、レイナ」


 今までになく、深刻な顔を浮かべるハルト。

その表情から、ふざけている雰囲気は一切なくなっていた。

するとレイナは、うつむいていた顔を少しずつ持ち上げ、


 「……ううん、何でもないよ。ごめんね」


これ以上、兄に変な心配をかけさせたくなかったのだろう。

ペコリと頭を下げて、きちんと謝り始めた。

その姿を見て、やっとハルトもホッとしたようだ。


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