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エピソード2【天才科学者の兄妹】

【11】

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大臣に続くように、花梨も重い口を開き始めた。


 「実は……2年ほど前から、不良品と呼ばれるアンドロイドが増え始めているの」

 「不良品……?」


ハルトの眉が、ピクッと動いた。

 不良品という言葉は聞いたことがある。

しかし、詳しい内容はまだ知らない。

 花梨の言葉に、さらに耳を傾ける。


 「ウイルスみたいなもので原因はわからないんだけど、ある日突然発症して、犯罪を犯したり人間に危害をおよぼしたりするの。プログラミングに忠実で、まじめなアンドロイドほど不良品になりやすいみたいなの……」

 「え……?」


 (な、なんだって……)


 想定していなかった話に、呆然とするハルト。

そして、大臣も再び話し始めた。


 「人間でいうと、うつ病みたいなものかもしれん。だからそういう事件を防ぐために、今後は単純な設計の労働用アンドロイドを作ってくれればいい」

 「…………」


ハルトは返事をすることなく、うつむき加減で黙り込んでいた。

その姿を目の当たりにする大臣も、複雑な心境だ。

 科学者の気持ちが分かっているのだろう。

より上を目指したい。

より技術を上げたい。

だが、それをすることが許されない。

このことが、科学者にとってどれほどの苦痛か理解していた。

だから、ハルトに対して、決して命令口調にはならなかった。


 「ハルトくん……」


 大臣は言った。


 「最初、君には驚かされたよ……今の世にまだアンドロイドを、1人の人間と同等の扱いをする科学者がいたとは……しかし、このような状況になっては世論が納得しない。アンドロイドは、あくまで人間の暮らしに利益を与えるものでなければならん。これが政治というもの……悪いがそういうことだ」

 「…………」


ハルトは、何も言わない。

 大臣は、さらに念を押す。


 「ハルトくん……分かってくれるね」


 大臣の言葉は、子を心配する親のようにやさしかった。

だが、ハルトは、


 (それって……感情を持たない、ただの鉄の機械を作れという事か……)


そういう思いが、頭の中を駆け巡っていた。

 短い時間の中で、深い深い悩みを抱えていた。

しかし、もちろん大臣の言うことも理解できる。

アンドロイドが人間を襲っていたら、本末転倒だ。

どうしよう。

どうすればいい。

いや、答えは1つしかない。


 「分かりました……」


ハルトは人間のことを第一に考え、結論を出すことにした。


 「原因がはっきりするまで、アンドロイドの製造は中止します……」

 「すまないな……」

 「あの、ちなみに……」


ハルトは、恐る恐る尋ねた。


 「今、存在しているアンドロイドは……?」

 「うむ……」


 大臣は言った。


 「当初は、全てのアンドロイドの廃棄も考えたが……今の世の中に、アンドロイドの労働力が必要不可欠なのも確かだ。多少、危険を伴うかもしれんが、今のまま働いてもらう」

 「良かった……」

 「そのために、こちらとしても対策を取っている。安心してくれ」

 「ありがとうございます!」


ハルトは、一転して体中から、喜びがあふれ出していた。

なぜなら、


 (これで、今まで通り、あいつらと一緒に働ける!)


そういう気持ちが、湧き上がっていたからだ。

ハルトは、それほどアンドロイドたちに愛着を持っている。

ふかふかのソファーに腰をかけると、ホッと胸をなでおろしていた。




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