上 下
24 / 52
エピソード2【天才科学者の兄妹】

【10】

しおりを挟む



「フフフッ」


してやったりといった顔で笑っているメガネの女性の姿があった。


 (また、花梨さんだ! ハア……ほんと、おしゃべりな人だな……)


どうやら、犯人は花梨のようだ。


 「い、いや、そんなことは……あ、ハハハ……」


ごまかすように笑うハルト。

その間も、チラチラと花梨に恨めしい視線を送るが、メガネ美人は気にもとめずに、にこやかな顔で笑うばかり。

ハルトは、その姿を横目で見つめながら、


 (花梨さんに、あんまりペラペラ喋っちゃダメだな……)


と、固く心に誓っていた。

すると、慌てるハルトの姿を見た大臣は、にっこりと目を細め、大きな声で笑い始めた。


 「ほっほっほっ、まあ、気にしとらんわ。 年寄りに加齢臭はつきもんじゃからのう」

 「す、すみません……」


 (ハア……つ、疲れた……)


ホッと息を吐き、落ち着きを取り戻すハルト。

 大臣の心の広さに救われたようだ。

そして、笑い声がおさまり始めた時、


 「いいか……」


 大臣の表情が、国のトップの顔に変わり始めた。


 「1つ約束してくれ……何百年か前の科学者が、地球から脱出した時の宇宙船を越えるような……最高の宇宙船を作ってくれ。同じ天才科学者として……」

 「ええ……」


 大臣の気持ちが伝わったのか、ハルトも真面目に答える。


──しかし。


無意識に頷いたハルトの一言を、レイナは見逃さない。


 「あっ! 今、自分のこと天才って認めた!」

 「え!?」


 顔を真っ赤にして取り乱し始めるハルト。


 「ち、違うよ! 今のは、その、天才じゃなくて、て、てんぷらって聞こえたんだよ! は、ははは!」


おぉぉぉ~~~~!!

かなり苦しい言い訳だ~~~~!!


そして、ハルトの言い訳をさらに見逃さない人物が!

それは、近藤だ!

ゆっくりとハルトの側に近づき、右手の甲でポンと胸を叩くと──



「なんでやねん」



つっこんだ~~~~!!


 部屋の空気が、一瞬にして凍りついた。

しかし、近藤は、かなり満足そうな表情を浮かべている。


 「吸収した知識は、活用していかないと意味がないので」


 得意気に、そう言い放つ近藤。

そこには、1つの仕事をやり遂げたような凛々しい男の顔があった。

 全員、唖然とただ、ただ、近藤を見つめている。


──しかし。


大臣だけは、表情が緩んでいない。

 椅子から立ち上がると、


 「実は……」


ハルトの肩に手を添えながら言った。


 「今日来てもらったのは、1つ頼みたい事があるんじゃ……」

 「なんですか?」

 「アンドロイドの製造のことなんだが……」

 「あぁ、順調ですよ」


 嬉しそうに話し始めるハルト。


 「目標だった人間に近いアンドロイドの製造に成功してからは、いろんなタイプのアンドロイドも開発できています」


さらに、テンションが上がり始める。


 「本当に彼らはいい奴らで、それによく働いてくれるんですよ。でもなんかあいつらといると、人間と話しているような感覚になるんですよ。やはり感情システムを上手に成長させるには、人間の接し方が左右するように思いますね」


ハルトは、笑いながら楽しそうに喋っていた。

アンドロイドの話になると止まらない。

 好きで好きでたまらない。

 誰の目にも、明らかにそう映っていた。

しかし、大臣はその姿を見て、さらに話しづらそうに険しい表情を浮かべていた。


やがて、小さく息を吐き出すと──


「そのことなんだが……」


ゆっくりと口を開き始める。


 「これからは、感情システムを搭載しているような高度なアンドロイドは作らないでくれ……働くだけのアンドロイドを作ってくれればいい」

 「え?」


 何だ?

 何を言ってるんだ?


ハルトは耳を疑った。


 聞き間違い?

 軽いジョーク?

 『なんでやねん』とつっこむ所?


そういう考えも頭をよぎる。


──だが。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...