ただいま、入札中【短編】

⑦

「で、でも……」


もし、これが毒だったら？

 一瞬で死んでしまうような毒薬だったら？

いや、それはないか。

この薬を送ってくれた人の名前も住所も分かっているんだし。

それに、この人の出品者評価を見ても『非常に良い』という評価ばかりだ。

さらに、その評価から分かることがもう１つある。

それは、この人は過去にも何度か『行動力』を出品してるということ。

そして、それを受けとった落札者から感謝の言葉を貰っているということ。


 『おかげさまで行動力が身につきました』

 『目標に向かって突き進む気力がみなぎってきました』


などという喜びの書き込みが何件かあった。


だから、大丈夫。

この薬は何も問題ないはずだ。


 「よ、よし……」


 俺は、コップに水を用意し薬を手に持った。

そして、深呼吸を２回して気持ちを落ち着かせたあと、一気に薬を飲み込んだ。


 「これで……俺に行動力が……？」


しかし、薬を飲んだあとも、これといった変化は何も現れなかった。

だが、俺は期待していた。

 大きな大きな変化が現れるのを期待していた。

 気持ちの問題かもしれない。

 薬は、なんら変哲のないビタミン済かもしれない。

でも、俺はこれをきっかけに変わりたい。


 変わりたい。

 変わりたい。

 俺は変わりたいんだ。



――１ヶ月後。


 「はい！　ありがとうございます！」


 電話を切った俺の顔には、笑顔があふれていた。

 今まさに、念願だった広告代理店の会社から内定を貰ったのだ。


 全てはあの日から。

 行動力の薬を飲んだあの日から始まった。