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「ちっ……高いな……」

ソファーにだらしなく座った俺は、携帯電話の画面に向かって1回舌打ちをした。

 俺は、お目当てのフィギュアを落札しようと必死だった。


 「あっ……やられた……」


 数分後、今度は大きく舌打ちをした。

 同じく落札を狙う競争相手に、自分より高値をつけられたからだ。

ちなみに俺が狙っているのは『ミレニアム・レジェンド』というアニメに出てくる主人公のステファン・ラインハルトのフィギュア。

 炎を吐く赤いドラゴンにまたがり、剣を構え今まさに必殺技を繰り出そうとするシーンをリアルに再現したフィギュア。

 限定品のため、今では中々手に入りにくい。

だから、3千円ほどの品だが、もちろん値段も高騰する。

 俺が出せる値段は、だいたい1万円まで。

しかし、ネットオークションでの相場は、約1万7千円。

 運がよければ1万5千円、悪ければ2万円を越す時だってある。

ということは、1万円までしか出せない俺には到底、落札不可能な品物だ。

でも、そこにチャレンジするのが面白い。

ひょっとしたら、誰も入札せずに落札できる時があるんじゃないか。

 俺は、そういう期待を込めて楽しんでいた。


だが、言い方を変えれば、ただの時間つぶしかもしれない。

 毎日とめどなく訪れるこの莫大に有り余った時間を費やすことができるのなら、何でも良かったのかもしれない。

 俺はこのフィギュアを落札できれば、満足できるのだろうか?

 今度はさらにやることが無くなって、より一層虚しさが沸き上がってくるんじゃないだろうか?

そんな出口のない悩みが、頭の中をグルグルと回っていた。


でも、そう思う反面、俺の中では、こういう考えもあった。

このフィギュアを1万円で落札できれば、何かが変わるんじゃないか。

もう1度、就職活動に前向きになれるんじゃないか。

こんなことを本気で考えていた。



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