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⑪
しおりを挟むそうか。
やっぱり、半分返ってくるのか。
そういうことなら、まず損はしないな。
「じゃあ……」
俺は、手元にあった小銭、合計288円を入れてみた。
チャリン──
硬貨のぶつかる音が小さく響いた。
「よし、寝るか……」
そして、ベッドに潜りこんだ。
明日、288円の半分、144円が手元にくる小さな小さなドキドキ感を胸に秘めて。
──翌日。
仕事が終わった午後5時半。
俺は、急いで銀行のATMに向かった。
なぜなら、今日は待ちに待った、給料の振込日。
残高を見るために、いつも恐る恐る押していた暗証番号も、この日ばかりは違う。
まるで、手が意思を持っているかのように、素早くボタン操作を行っていた。
「よし……」
そして、給料を確認。
俺は自然と笑みが浮かんだ。
良かった。
これで、しばらくはまともな生活が出来そうだ。
「さてと……」
とりあえず、スーパーにでも行くか。
今日ぐらいは少し豪勢な食事にしてもいいだろう。
ということで、少し金持ち気分になった俺は、久々のビールと唐揚げ、天ぷら、ほうれん草のおひたしなどを買い込み、家へ向かった。
──数時間後。
「う~ん、何もなかったな……」
夕飯を食べ終わった俺は、ポツリとつぶやいた。
結局、144円が戻ってくることはなかった。
「なぁ、ジェリック。昨日入れた288円の半分、戻ってこなかったぞ」
「それは、いつになるかはあたしにも分からないの。1時間後かもしれないし1週間後かもしれないし」
「そうなんだ」
そうか。
じゃあ、仕方ないな。
とりあえず俺は、空になったトレイを捨てようと、テーブルの上を片付け始めた。
「ん?」
すると、今日買った商品のレシートが目に入った。
「あれ……?」
じっくりとレシートを覗きこむ。
「あっ……打ち忘れたのかな……」
そう。
そこには、ほうれん草のおひたしの代金が載っていなかった。
「ま、まさか!」
これが、貯金箱の力か!?
俺は、トレイについている値札を覗きこんだ。
「あっ……」
180円……か。
そう。
値段は、俺が期待していた144円ではなかった。
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