30 / 52
30 報告(コンラッド視点)
しおりを挟む
コンラッド国王はアリスの話を聞いて愕然とした。
十七年前、クリスティンが産んだばかりの娘がすり替えられていたと判明した時は、この国の何処かにいるはずだとたかをくくっていた。
だからこそ、国内の孤児院や生まれたばかりの赤ん坊がいる家を虱潰しに探したのだ。
それでも見つからなかったので、既に殺されて何処かに埋められているかもしれないと、半ば諦めていた。
その娘が突然、自分の前に現れた。
その娘のうなじには紛れもなく王家の紋章が刻まれていた。
クリスティンそっくりに育っていたアリスは、「自分は異世界から来た」と告げた。
にわかには信じ難い話ではあるが、それが事実であればアリスが見つからなかった事にも説明がいく。
それに確か古い魔法の文献には異世界転移についての記述があったはずだ。
まさかアリスの行方に魔術師が関係しているとは思っていなかったから、あの頃は魔術師については調べていなかった。
早速、アイリスを産んだ女性の周りを再調査させると、ある魔術師との関係が浮かび上がってきた。
「アンドリュー、これを見てくれ」
コンラッド国王は調査報告書を息子のアンドリュー王子へと渡した。
アンドリュー王子はその報告書に目を通していたが、ある一文を見て表情を険しくする。
「父上、この報告書に間違いは無いんですか?」
コンラッド国王はアンドリュー王子がどの部分に反応するのかわかっていた。
「間違いない。アイリスの母親が懇意にしていた魔術師はサイラス、つまり今王宮魔術師団にいるグレンダの父親だ」
グレンダは平民にしては魔力が高いと評価されて、王宮魔術師団に入団してきた。
父親のサイラスもそれなりに魔力があると噂されている。
もしかしたらサイラスは何処かの貴族の落し胤かもしれない。
「それで? サイラスは今何処にいるのですか?」
アンドリュー王子に尋ねられたが、それに関してはコンラッド国王も答えられなかった。
「わからない。サイラスの家に人をやったが、もぬけの殻だったそうだ。グレンダは別の場所に住んでいるのだったか?」
王宮魔術師団に入団してからは父親とは別の住まいを構えたと聞いている。
だが、アンドリュー王子はそれよりも他の事が気になった。
「父上。最近エイブラムがグレンダに入れあげているとの噂がありますが、ご存知ですか?」
アンドリュー王子の言葉どおり、エイブラムがグレンダを気にかけているという噂を耳にしている。
エイブラムはアンドリュー王子と同い年で、子供の頃から良く知っている。
女嫌いで通っていた彼が、最近やたらとグレンダと接触していると噂になっていた。
身分違いの恋もよく聞く話ではあるが、それにしてはあまりにも唐突過ぎる。
むしろ妙な不自然さを感じているのはコンラッド国王だけではない。
アンドリュー王子もエイブラムの両親であるジェンクス侯爵夫妻も、エイブラムの行動に疑問を抱いていた。
「…まさか、媚薬が使われたか? いや、それならば責任を取って婚姻という形になるだろう。だとすれば、魅了の魔法を使われたか?」
媚薬が使われたならば、欲情を吐き出すまで効き目が切れる事はない。
グレンダに対してそういう行為をしたならば、真面目なエイブラムは責任を取るだろう。
コンラッド国王の呟きにアンドリュー王子は眉をひそめる。
「魅了の魔法ですか? それも既に禁術とされている魔法ではないですか。だとすれば、サイラスとグレンダは禁術に手を出していたと言う事ですか?」
「この一連の魔術がこの二人の仕業ならばそうだと言えるだろう。だが、彼等が禁術を使ったという証拠は何処にもない」
コンラッド国王の指摘にアンドリュー王子は唇を噛み締める。
確たる証拠も無しにサイラスとグレンダを拘束する事は出来ない。
グレンダはともかく、サイラスは何処にいるのかも掴めていないのだ。
「引き続きサイラスの行方を追わせている。アンドリューはエイブラムの様子を気にかけてやってくれ」
だが、この話し合いが持たれた数日後、コンラッド国王とアンドリュー王子の元に衝撃の報告がなされた。
「大変です! アリス王女の姿が消えました!」
十七年前、クリスティンが産んだばかりの娘がすり替えられていたと判明した時は、この国の何処かにいるはずだとたかをくくっていた。
だからこそ、国内の孤児院や生まれたばかりの赤ん坊がいる家を虱潰しに探したのだ。
それでも見つからなかったので、既に殺されて何処かに埋められているかもしれないと、半ば諦めていた。
その娘が突然、自分の前に現れた。
その娘のうなじには紛れもなく王家の紋章が刻まれていた。
クリスティンそっくりに育っていたアリスは、「自分は異世界から来た」と告げた。
にわかには信じ難い話ではあるが、それが事実であればアリスが見つからなかった事にも説明がいく。
それに確か古い魔法の文献には異世界転移についての記述があったはずだ。
まさかアリスの行方に魔術師が関係しているとは思っていなかったから、あの頃は魔術師については調べていなかった。
早速、アイリスを産んだ女性の周りを再調査させると、ある魔術師との関係が浮かび上がってきた。
「アンドリュー、これを見てくれ」
コンラッド国王は調査報告書を息子のアンドリュー王子へと渡した。
アンドリュー王子はその報告書に目を通していたが、ある一文を見て表情を険しくする。
「父上、この報告書に間違いは無いんですか?」
コンラッド国王はアンドリュー王子がどの部分に反応するのかわかっていた。
「間違いない。アイリスの母親が懇意にしていた魔術師はサイラス、つまり今王宮魔術師団にいるグレンダの父親だ」
グレンダは平民にしては魔力が高いと評価されて、王宮魔術師団に入団してきた。
父親のサイラスもそれなりに魔力があると噂されている。
もしかしたらサイラスは何処かの貴族の落し胤かもしれない。
「それで? サイラスは今何処にいるのですか?」
アンドリュー王子に尋ねられたが、それに関してはコンラッド国王も答えられなかった。
「わからない。サイラスの家に人をやったが、もぬけの殻だったそうだ。グレンダは別の場所に住んでいるのだったか?」
王宮魔術師団に入団してからは父親とは別の住まいを構えたと聞いている。
だが、アンドリュー王子はそれよりも他の事が気になった。
「父上。最近エイブラムがグレンダに入れあげているとの噂がありますが、ご存知ですか?」
アンドリュー王子の言葉どおり、エイブラムがグレンダを気にかけているという噂を耳にしている。
エイブラムはアンドリュー王子と同い年で、子供の頃から良く知っている。
女嫌いで通っていた彼が、最近やたらとグレンダと接触していると噂になっていた。
身分違いの恋もよく聞く話ではあるが、それにしてはあまりにも唐突過ぎる。
むしろ妙な不自然さを感じているのはコンラッド国王だけではない。
アンドリュー王子もエイブラムの両親であるジェンクス侯爵夫妻も、エイブラムの行動に疑問を抱いていた。
「…まさか、媚薬が使われたか? いや、それならば責任を取って婚姻という形になるだろう。だとすれば、魅了の魔法を使われたか?」
媚薬が使われたならば、欲情を吐き出すまで効き目が切れる事はない。
グレンダに対してそういう行為をしたならば、真面目なエイブラムは責任を取るだろう。
コンラッド国王の呟きにアンドリュー王子は眉をひそめる。
「魅了の魔法ですか? それも既に禁術とされている魔法ではないですか。だとすれば、サイラスとグレンダは禁術に手を出していたと言う事ですか?」
「この一連の魔術がこの二人の仕業ならばそうだと言えるだろう。だが、彼等が禁術を使ったという証拠は何処にもない」
コンラッド国王の指摘にアンドリュー王子は唇を噛み締める。
確たる証拠も無しにサイラスとグレンダを拘束する事は出来ない。
グレンダはともかく、サイラスは何処にいるのかも掴めていないのだ。
「引き続きサイラスの行方を追わせている。アンドリューはエイブラムの様子を気にかけてやってくれ」
だが、この話し合いが持たれた数日後、コンラッド国王とアンドリュー王子の元に衝撃の報告がなされた。
「大変です! アリス王女の姿が消えました!」
0
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。
櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。
ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。
気付けば豪華な広間。
着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。
どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。
え?この状況って、シュール過ぎない?
戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。
現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。
そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!?
実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。
完結しました。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
大好きだけど、結婚はできません!〜強面彼氏に強引に溺愛されて、困っています〜
楠結衣
恋愛
冷たい川に落ちてしまったリス獣人のミーナは、薄れゆく意識の中、水中を飛ぶような速さで泳いできた一人の青年に助け出される。
ミーナを助けてくれた鍛冶屋のリュークは、鋭く睨むワイルドな人で。思わず身をすくませたけど、見た目と違って優しいリュークに次第に心惹かれていく。
さらに結婚を前提の告白をされてしまうのだけど、リュークの夢は故郷で鍛冶屋をひらくことだと告げられて。
(リュークのことは好きだけど、彼が住むのは北にある氷の国。寒すぎると冬眠してしまう私には無理!)
と断ったのに、なぜか諦めないリュークと期限付きでお試しの恋人に?!
「泊まっていい?」
「今日、泊まってけ」
「俺の故郷で結婚してほしい!」
あまく溺愛してくるリュークに、ミーナの好きの気持ちは加速していく。
やっぱり、氷の国に一緒に行きたい!寒さに慣れると決意したミーナはある行動に出る……。
ミーナの一途な想いの行方は?二人の恋の結末は?!
健気でかわいいリス獣人と、見た目が怖いのに甘々なペンギン獣人の恋物語。
一途で溺愛なハッピーエンドストーリーです。
*小説家になろう様でも掲載しています
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる