23 / 52
23 宰相と侍女
しおりを挟む
お父様とお兄様と話をしていると
「昼食の支度が整いました」
と、声がかけられた。
「それじゃあ、行こうか」
お父様とお兄様は立ち上がると、それぞれ私に手を差し出してくる。
この場合、どちらの手を取れば正解なのかと考えるまでもなく、両方の手を取るのが正解だろう。
私が左右の手を差し出された手に重ねると、お父様とお兄様は私をソファーから立ち上がらせてくれた。
そのまま三人で連れ立って食堂へと向かう。
王宮での食事だから、フランス料理のようにナイフとフォークがズラリと並んでいたらどうしようかと思ったけれど、そんな事もなく少しホッとした。
緊張しながらの昼食を無事に終えて、食後のお茶を飲んでいると、食堂の扉ガブリエラ開かれ誰かが入って来た。
「陛下、アンドリュー王子。食事が済みましたら速やかに執務に戻ってください!」
お父様とお兄様に向かってこれだけ強気の発言が出来ると言う事は、この人が宰相様なのかしら?
お父様とお兄様は不満そうな顔を隠さずに宰相様に反論する。
「せっかくアリスと過ごせると思っていたのに、少しくらいよいではないか」
「まだ王宮の中を案内してないんだよ。それが終わってからでも…」
「なりません! 大体午前中の予定も放りだしてしまわれたんですから、その皺寄せが来ているんです! アリス様との時間を作りたいのであれば、今のうちに片付けてしまってください!」
宰相様のお説教にお父様とお兄様は渋々と席を立って私の元へ来た。
「アリス。せっかく王宮の中を案内しようと思っていたのに…。すぐに仕事を片付けて来るからね」
お兄様はそのまま、別の文官らしき人に引っ張られるようにして食堂を出て行った。
「アリス。この無粋な男が宰相のダグラスだ。ダグラス、せめて自己紹介くらいしておけ」
お父様の隣に立った宰相様は軽く微笑むと私に対して腰を折った。
「はじめまして、アリス王女。宰相を務めておりますダグラス・ロックウェルと申します。以後、お見知りおきを」
宰相様はお父様と同じ歳くらいのやはりこちらもイケオジだった。
立って挨拶をするべきなのか、座ったままでいいのか迷っていると、宰相様は一人の女性を呼び寄せた。
「アリス王女。こちらはこれからあなた様のお世話をするセアラです。元はクリスティン王妃の侍女でした」
お母様の侍女?
もしかしてお母様が出産の時に同行していたという侍女なのかしら?
お母様よりも少し年上のように見えるその女性は、私の前に来るとそのまま膝を付いて頭を下げた。
この世界にも土下座ってあるのかしら?
初めて会った女性にいきなり土下座をされて、私はパニック状態だ。
「アリス王女様。申し訳ございません。私がしっかり王女様を見ていればこのような事には成らなかったのに…。王妃様が亡くなられた事に気を取られて王女様から目を離してしまいました。王女様がいなくなられてすぐに責任を取って自害しようとしましたが、皆に止められました。こうして王女様が戻られてようやく私も責任を取ることが出来ます。どうか私に死刑を言い渡してくださいませ」
ええっ!
土下座の上に極刑のお願いって、いくらなんでもそんなの無理!
お父様と宰相様を見ると私がどう判断を下すのかを見ているだけのようだ。
私は椅子から立ち上がると、土下座をしているセアラの手を取った。
「セアラ、顔を上げてください。セアラは悪くありません。生まれたばかりの私を攫う人の方が悪いんです。それにお母様が亡くなられたばかりでそちらに気が行ってしまうのは仕方がない事です。こうして戻って来られたんですから、これからは私の侍女として仕えてください」
セアラは両手で私の手を握ると涙を流し始めた。
「王女様、ありがとうございます。誠心誠意お仕えさせていただきます」
やれやれ、とため息をつくとお父様と宰相様も安堵したような表情を浮かべている。
もしかして私が本当にセアラに死刑を宣告するとでも思っていたのかしら。
ちょっと心外だわ。
それからお父様は宰相様に引っ張られて食堂を出て行った。
一人残された私にセアラが退室を促す。
「王女様。間もなく仕立て屋が参ります。王女様の部屋に戻りましょう」
私はセアラを連れて私の部屋ヘと戻った。
「昼食の支度が整いました」
と、声がかけられた。
「それじゃあ、行こうか」
お父様とお兄様は立ち上がると、それぞれ私に手を差し出してくる。
この場合、どちらの手を取れば正解なのかと考えるまでもなく、両方の手を取るのが正解だろう。
私が左右の手を差し出された手に重ねると、お父様とお兄様は私をソファーから立ち上がらせてくれた。
そのまま三人で連れ立って食堂へと向かう。
王宮での食事だから、フランス料理のようにナイフとフォークがズラリと並んでいたらどうしようかと思ったけれど、そんな事もなく少しホッとした。
緊張しながらの昼食を無事に終えて、食後のお茶を飲んでいると、食堂の扉ガブリエラ開かれ誰かが入って来た。
「陛下、アンドリュー王子。食事が済みましたら速やかに執務に戻ってください!」
お父様とお兄様に向かってこれだけ強気の発言が出来ると言う事は、この人が宰相様なのかしら?
お父様とお兄様は不満そうな顔を隠さずに宰相様に反論する。
「せっかくアリスと過ごせると思っていたのに、少しくらいよいではないか」
「まだ王宮の中を案内してないんだよ。それが終わってからでも…」
「なりません! 大体午前中の予定も放りだしてしまわれたんですから、その皺寄せが来ているんです! アリス様との時間を作りたいのであれば、今のうちに片付けてしまってください!」
宰相様のお説教にお父様とお兄様は渋々と席を立って私の元へ来た。
「アリス。せっかく王宮の中を案内しようと思っていたのに…。すぐに仕事を片付けて来るからね」
お兄様はそのまま、別の文官らしき人に引っ張られるようにして食堂を出て行った。
「アリス。この無粋な男が宰相のダグラスだ。ダグラス、せめて自己紹介くらいしておけ」
お父様の隣に立った宰相様は軽く微笑むと私に対して腰を折った。
「はじめまして、アリス王女。宰相を務めておりますダグラス・ロックウェルと申します。以後、お見知りおきを」
宰相様はお父様と同じ歳くらいのやはりこちらもイケオジだった。
立って挨拶をするべきなのか、座ったままでいいのか迷っていると、宰相様は一人の女性を呼び寄せた。
「アリス王女。こちらはこれからあなた様のお世話をするセアラです。元はクリスティン王妃の侍女でした」
お母様の侍女?
もしかしてお母様が出産の時に同行していたという侍女なのかしら?
お母様よりも少し年上のように見えるその女性は、私の前に来るとそのまま膝を付いて頭を下げた。
この世界にも土下座ってあるのかしら?
初めて会った女性にいきなり土下座をされて、私はパニック状態だ。
「アリス王女様。申し訳ございません。私がしっかり王女様を見ていればこのような事には成らなかったのに…。王妃様が亡くなられた事に気を取られて王女様から目を離してしまいました。王女様がいなくなられてすぐに責任を取って自害しようとしましたが、皆に止められました。こうして王女様が戻られてようやく私も責任を取ることが出来ます。どうか私に死刑を言い渡してくださいませ」
ええっ!
土下座の上に極刑のお願いって、いくらなんでもそんなの無理!
お父様と宰相様を見ると私がどう判断を下すのかを見ているだけのようだ。
私は椅子から立ち上がると、土下座をしているセアラの手を取った。
「セアラ、顔を上げてください。セアラは悪くありません。生まれたばかりの私を攫う人の方が悪いんです。それにお母様が亡くなられたばかりでそちらに気が行ってしまうのは仕方がない事です。こうして戻って来られたんですから、これからは私の侍女として仕えてください」
セアラは両手で私の手を握ると涙を流し始めた。
「王女様、ありがとうございます。誠心誠意お仕えさせていただきます」
やれやれ、とため息をつくとお父様と宰相様も安堵したような表情を浮かべている。
もしかして私が本当にセアラに死刑を宣告するとでも思っていたのかしら。
ちょっと心外だわ。
それからお父様は宰相様に引っ張られて食堂を出て行った。
一人残された私にセアラが退室を促す。
「王女様。間もなく仕立て屋が参ります。王女様の部屋に戻りましょう」
私はセアラを連れて私の部屋ヘと戻った。
0
お気に入りに追加
93
あなたにおすすめの小説
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。
櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。
ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。
気付けば豪華な広間。
着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。
どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。
え?この状況って、シュール過ぎない?
戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。
現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。
そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!?
実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。
完結しました。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
大好きだけど、結婚はできません!〜強面彼氏に強引に溺愛されて、困っています〜
楠結衣
恋愛
冷たい川に落ちてしまったリス獣人のミーナは、薄れゆく意識の中、水中を飛ぶような速さで泳いできた一人の青年に助け出される。
ミーナを助けてくれた鍛冶屋のリュークは、鋭く睨むワイルドな人で。思わず身をすくませたけど、見た目と違って優しいリュークに次第に心惹かれていく。
さらに結婚を前提の告白をされてしまうのだけど、リュークの夢は故郷で鍛冶屋をひらくことだと告げられて。
(リュークのことは好きだけど、彼が住むのは北にある氷の国。寒すぎると冬眠してしまう私には無理!)
と断ったのに、なぜか諦めないリュークと期限付きでお試しの恋人に?!
「泊まっていい?」
「今日、泊まってけ」
「俺の故郷で結婚してほしい!」
あまく溺愛してくるリュークに、ミーナの好きの気持ちは加速していく。
やっぱり、氷の国に一緒に行きたい!寒さに慣れると決意したミーナはある行動に出る……。
ミーナの一途な想いの行方は?二人の恋の結末は?!
健気でかわいいリス獣人と、見た目が怖いのに甘々なペンギン獣人の恋物語。
一途で溺愛なハッピーエンドストーリーです。
*小説家になろう様でも掲載しています
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる