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エイブラムさんに手を引かれて天幕の外に出ると、そこにいた数人の騎士がこちらを振り向いた。
皆物珍しげに私を見てくるけど、こんなに男の人達に囲まれるなんていたたまれない。
「団長、出かけられるのですか?」
「ああ。彼女はこの村の人間ではなく他国から攫われて来たらしい。ここに留めて置くわけにはいかないので、私の屋敷に連れて行ってくる。後の指揮は副団長に任せてあるのでそちらに従うように」
エイブラムさんも私がここにいる事で仕事に支障をきたすと思ったから、お屋敷の方に連れて行く事にしたのだろう。
エイブラムさんに連れられて行くとそこには数頭の馬と馬車が置いてあった。
その内の一頭にエイブラムさんと一緒に近付くと、馬は嬉しそうに尻尾を振っている。
…馬に乗るからズボンに着替えさせたのかしら?
あんなスカート姿じゃ、とても馬なんて乗れないものね。
ちなみに先程まで私が着ていた制服はエイブラムさんが布袋に入れて持たせてくれている。
この世界では着れないかもしれないけど、他人の手には渡したくないものね。
エイブラムさんに手を借りて馬の背に乗ると、想像以上に視界が高くなってびっくりした。
驚いている私の後ろにエイブラムさんが乗ってきて、私の両脇から手を伸ばして手綱を握った。
体が密着しないようにしてくれているみたいだけど、こんなふうに男の人に後ろにいられるなんて、妙に気恥ずかしい。
「少々不快かもしれないが、しばらくは我慢してくれ。落ちないように保護魔法をかけておくが、怖いならたてがみを掴んでいいぞ」
確かに私が手綱を握るわけにはいかないから、持つ所と言ったらたてがみくらいしかないけど、掴んでも大丈夫かしら。
「私がたてがみを掴んだら馬が痛がったりしないんですか?」
引っ張り過ぎて毛を抜いてしまわないかと思ってエイブラムさんに聞いたら、クスリと笑われた。
「女性に掴まれたくらいで痛がるような訓練はされていないから大丈夫だ。ケルビー、行くぞ」
どうやらこの馬の名前はケルビーと言うらしい。
団長さんに名前を呼ばれたケルビーは軽く嘶くと走り出した。
最初は緩やかな速さだったが、徐々にスピードが上がって行く。
…馬ってこんなにスピードが出るものなの?
実際に馬に乗るのは今日が初めてだからわからないけど、テレビで見る馬はこんなに速くはなかったような気がする。
保護魔法をかけるから落ちることはないと言われたけど、流石にこのスピードではたてがみを掴まずにはいられない。
それでも少しは周りを見る余裕が出てきたようで、森を抜けて街道を走っていると前方に街が見えてきた。
街道を行き交う馬車や人々を追い抜いて走っていたケルビーが徐々にスピードを落としていった。
街に入る門に辿り着くと門番の所で一旦ケルビーは立ち止まった。
「エイブラム様、お帰りなさいませ。おや、そちらの女性は?」
門番は知り合いらしく声を掛けてきたが、私を見て怪訝な顔をしてくる。
「パーセル村で保護した女性だ。通るぞ」
門番は何も言わずに私達を通すと次の人の対応に移った。
ケルビーは少し軽やかな足取りで街の中を進んで行く。
テレビや映画で見るような中世ヨーロッパのような街並みにキョロキョロしていると
「この街が珍しいのか?」
少し身をかがめてきたエイブラムさんが耳元で囁いた。
顔だけでなく、声までイケボイスなんて反則よ。
「は、はい。私が住んでいた所とは違うので…」
「そうか。アリスを元の国に返せる方法が見つかればいいのだがな」
エイブラムさんはそう言ってくれるけれど、異世界転移して来たのならば、同じ条件にならないと元の世界に戻れないんじゃないかと思う。
やがて前方にまた門が見えてきた。
街の外に出るの?
そう思ったが、近付くにつれてそこが大きな庭を持つお屋敷だと気付いた。
これってお家?
お城じゃなくて?
ケルビーが近付くと門番は私達を止める事もなく門を開いた。
門を入ったけれどお屋敷の玄関までは相当距離がある。
当然、ケルビーは玄関に向かって走り出した。
「わわっ!」
いきなり走り出されて不意を突かれた私はバランスを崩しそうになったが、エイブラムさんが片手で私のお腹を支えてくれた。
そのせいでエイブラムさんと体が密着してしまった。
お姫様抱っこされた時も思ったけれど、エイブラムさんは意外と筋肉質だ。
団長という立場なんだから鍛えていて当然なんだろうけどね。
玄関に到着すると、エイブラムさんはヒラリとケルビーから降りて私が降りるのに手を貸してくれた。
玄関にも警備らしき人が立っていて、私達が近付くと扉を開けてくれた。
ケルビーはその場に留められているが、エイブラムさんが別の人に「水をあげてくれ」と指示をしていた。
玄関を入ると使用人とおぼしき人がズラリと並んで私達を出迎えてくれた。
「エイブラム様、お帰りなさいませ。突然どうされましたか?」
如何にも執事らしき男の人がエイブラムさんに声を掛けてきた。
「パーセル村で彼女を保護してね。母上はおられるか?」
エイブラムさんの問い掛けに呼応するように前方にある階段の上から声がした。
「まあ! あなたが女性を連れてくるなんて珍しい事。明日は雨かしらね」
見上げるとエイブラムさんによく似た女性がこちらを見下ろしていたが、私と目が合うとハッとしたように息を止めた。
皆物珍しげに私を見てくるけど、こんなに男の人達に囲まれるなんていたたまれない。
「団長、出かけられるのですか?」
「ああ。彼女はこの村の人間ではなく他国から攫われて来たらしい。ここに留めて置くわけにはいかないので、私の屋敷に連れて行ってくる。後の指揮は副団長に任せてあるのでそちらに従うように」
エイブラムさんも私がここにいる事で仕事に支障をきたすと思ったから、お屋敷の方に連れて行く事にしたのだろう。
エイブラムさんに連れられて行くとそこには数頭の馬と馬車が置いてあった。
その内の一頭にエイブラムさんと一緒に近付くと、馬は嬉しそうに尻尾を振っている。
…馬に乗るからズボンに着替えさせたのかしら?
あんなスカート姿じゃ、とても馬なんて乗れないものね。
ちなみに先程まで私が着ていた制服はエイブラムさんが布袋に入れて持たせてくれている。
この世界では着れないかもしれないけど、他人の手には渡したくないものね。
エイブラムさんに手を借りて馬の背に乗ると、想像以上に視界が高くなってびっくりした。
驚いている私の後ろにエイブラムさんが乗ってきて、私の両脇から手を伸ばして手綱を握った。
体が密着しないようにしてくれているみたいだけど、こんなふうに男の人に後ろにいられるなんて、妙に気恥ずかしい。
「少々不快かもしれないが、しばらくは我慢してくれ。落ちないように保護魔法をかけておくが、怖いならたてがみを掴んでいいぞ」
確かに私が手綱を握るわけにはいかないから、持つ所と言ったらたてがみくらいしかないけど、掴んでも大丈夫かしら。
「私がたてがみを掴んだら馬が痛がったりしないんですか?」
引っ張り過ぎて毛を抜いてしまわないかと思ってエイブラムさんに聞いたら、クスリと笑われた。
「女性に掴まれたくらいで痛がるような訓練はされていないから大丈夫だ。ケルビー、行くぞ」
どうやらこの馬の名前はケルビーと言うらしい。
団長さんに名前を呼ばれたケルビーは軽く嘶くと走り出した。
最初は緩やかな速さだったが、徐々にスピードが上がって行く。
…馬ってこんなにスピードが出るものなの?
実際に馬に乗るのは今日が初めてだからわからないけど、テレビで見る馬はこんなに速くはなかったような気がする。
保護魔法をかけるから落ちることはないと言われたけど、流石にこのスピードではたてがみを掴まずにはいられない。
それでも少しは周りを見る余裕が出てきたようで、森を抜けて街道を走っていると前方に街が見えてきた。
街道を行き交う馬車や人々を追い抜いて走っていたケルビーが徐々にスピードを落としていった。
街に入る門に辿り着くと門番の所で一旦ケルビーは立ち止まった。
「エイブラム様、お帰りなさいませ。おや、そちらの女性は?」
門番は知り合いらしく声を掛けてきたが、私を見て怪訝な顔をしてくる。
「パーセル村で保護した女性だ。通るぞ」
門番は何も言わずに私達を通すと次の人の対応に移った。
ケルビーは少し軽やかな足取りで街の中を進んで行く。
テレビや映画で見るような中世ヨーロッパのような街並みにキョロキョロしていると
「この街が珍しいのか?」
少し身をかがめてきたエイブラムさんが耳元で囁いた。
顔だけでなく、声までイケボイスなんて反則よ。
「は、はい。私が住んでいた所とは違うので…」
「そうか。アリスを元の国に返せる方法が見つかればいいのだがな」
エイブラムさんはそう言ってくれるけれど、異世界転移して来たのならば、同じ条件にならないと元の世界に戻れないんじゃないかと思う。
やがて前方にまた門が見えてきた。
街の外に出るの?
そう思ったが、近付くにつれてそこが大きな庭を持つお屋敷だと気付いた。
これってお家?
お城じゃなくて?
ケルビーが近付くと門番は私達を止める事もなく門を開いた。
門を入ったけれどお屋敷の玄関までは相当距離がある。
当然、ケルビーは玄関に向かって走り出した。
「わわっ!」
いきなり走り出されて不意を突かれた私はバランスを崩しそうになったが、エイブラムさんが片手で私のお腹を支えてくれた。
そのせいでエイブラムさんと体が密着してしまった。
お姫様抱っこされた時も思ったけれど、エイブラムさんは意外と筋肉質だ。
団長という立場なんだから鍛えていて当然なんだろうけどね。
玄関に到着すると、エイブラムさんはヒラリとケルビーから降りて私が降りるのに手を貸してくれた。
玄関にも警備らしき人が立っていて、私達が近付くと扉を開けてくれた。
ケルビーはその場に留められているが、エイブラムさんが別の人に「水をあげてくれ」と指示をしていた。
玄関を入ると使用人とおぼしき人がズラリと並んで私達を出迎えてくれた。
「エイブラム様、お帰りなさいませ。突然どうされましたか?」
如何にも執事らしき男の人がエイブラムさんに声を掛けてきた。
「パーセル村で彼女を保護してね。母上はおられるか?」
エイブラムさんの問い掛けに呼応するように前方にある階段の上から声がした。
「まあ! あなたが女性を連れてくるなんて珍しい事。明日は雨かしらね」
見上げるとエイブラムさんによく似た女性がこちらを見下ろしていたが、私と目が合うとハッとしたように息を止めた。
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