上 下
110 / 113

110 潜入

しおりを挟む
 ペルラン伯爵の屋敷に近付いた所で僕は目を閉じて眠ったフリをした。

「少し窮屈な思いをさせるかもしれないが、我慢してくれよ」 
 
 アランはそう囁くとペルラン伯爵の屋敷の門へと向かう。

「アランか。今回は随分と時間がかかったな」

 そう話しかけて来たのは門番の一人だろう。

「少し遠くの町まで行ったからね」

 ガチャリと掛け金の外れる音がしてキィと門の開く音が聞こえた。

 薄目を開けると向こうに玄関の扉が見えるが、そこにも騎士が立っている。

 随分と厳重な守りだが、こんな中をランベール様が侵入出来るのだろうか?

 階段を上がるような揺れの後で扉が開く気配がした。

「アランか。その狐は私が預かろう。お前は自分の部屋に戻れ」 

 男の人の声がしたかと思うとヒョイと別の手が僕の体を片手で持ち上げた。

「待って! ブノワは元気なのか? ブノワに会わせてくれ!」 

 アランが叫ぶと僕を小脇に抱えた男は誰かに「アランに首輪を着けて連れて行け」と命じると、そのまま大股で歩き出した。

 薄目を開けると重厚な絨毯が敷かれた廊下がずっと続いている。

 やがて何処かの部屋の前に立ち止まると、そこの扉を開いて中に入った。

 部屋に入ると同時に様々な獣人の匂いが僕の鼻を刺激する。

 男は部屋の中を進んでいくと檻の扉を開けて僕を中に無造作に床に置いた。

 カチャリと掛け金のかかる音がして、足音が遠ざかり部屋の扉が開いて閉じた。

 人の気配が無くなった事で目を開けるとそこは檻がズラリと並んだ部屋だった。

 それぞれ個別に檻に入れられているが、その中で狐のいる檻に目をやった。

 兎のシリルの報告の通り、一匹はだらりと体を投げ出して横になっている。

 あれは、母さん?

 起き上がって檻に手を掛けて立ち上がり「母さん!」と呼びかけたが、返事どころか顔を上げる事すらしなかった。

 もしかしたら僕の声すら届いていないのかもしれない。

 僕が呼びかけた事でもう一匹の狐が檻に手を掛けて口を開いたが、その声が届く事はなかった。

 彼等は皆、声すら発する事が出来ないようにされているのだ。

 僕は幼児に姿を変えると檻の隙間から手を伸ばして駆け金を外した。

 檻の外に出ると幼児から青年に姿を変える。

 首輪は着いたままだが伸縮自在の仕様なので首が締まる事はない。

 この首輪はペルラン伯爵の目を欺く為にランベール様が持ってきてくれた物だ。

 僕は檻に手を掛けている狐に近付いた。

「父さん」

 呼び掛けると父さんの目から涙がポロリと溢れた。

 僕は檻を開けると父さんをそこから出した。

 檻から出てきた父さんは僕に飛びついてきた。

 その体は小さく子狐くらいの大きさだった。

 父さんだけでなく、この部屋に閉じ込められている獣人はすべて首輪によって小さく変えられている。

 僕は以前にカジミールから貰った魔法陣を床に広げるとその上に父さんを乗せた。

 魔法陣の文字がピカッと光り、首輪が外れてポトリと下に落ちる。

 途端に狐の体が一回り以上大きくなった。

「…大きさが、元に戻った…、…いや、喋れるぞ! …って事は、もしや!」

 父さんはそういうなり、狐の姿から人型へと変化した。

 久しぶりに見る父さんの姿に僕の胸は喜びで打ち震える。

「…父さん!」

 呼び掛けると父さんは喜びと困惑の入り混じった表情で僕を見つめる。

「シリル? 本当にシリルなのか?」

「そうだよ! 僕はシリルだよ! 父さん、会いたかったよ!」

 それでも父さんは困惑した表情を隠せないようだった。

「確かにシリルのようだが、どうしてそんなに大きくなったんだ」 
 
 僕は父さんに今までの事をかいつまんで話した。

「そうか。シリルはアーリン達とは別々だったんだな。それにしても僕達を助けに来れるなんて随分と成長したんだな」

 父さんは僕の成長を褒めてくれるが、今はそんなにゆっくり話をしている時間はない。

 ランベール樣達が突入し易いように騒ぎを起こすのだ。

「父さん。檻を開けるのを手伝って」

 僕と父さんは手分けをして檻を開放していった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

超時空スキルを貰って、幼馴染の女の子と一緒に冒険者します。

烏帽子 博
ファンタジー
クリスは、孤児院で同い年のララと、院長のシスター メリジェーンと祝福の儀に臨んだ。 その瞬間クリスは、真っ白な空間に召喚されていた。 「クリス、あなたに超時空スキルを授けます。 あなたの思うように過ごしていいのよ」 真っ白なベールを纏って後光に包まれたその人は、それだけ言って消えていった。 その日クリスに司祭から告げられたスキルは「マジックポーチ」だった。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

農民レベル99 天候と大地を操り世界最強

九頭七尾
ファンタジー
【農民】という天職を授かり、憧れていた戦士の夢を断念した少年ルイス。 仕方なく故郷の村で農業に従事し、十二年が経ったある日のこと、新しく就任したばかりの代官が訊ねてきて―― 「何だあの巨大な大根は? 一体どうやって収穫するのだ?」 「片手で抜けますけど? こんな感じで」 「200キロはありそうな大根を片手で……?」 「小麦の方も収穫しますね。えい」 「一帯の小麦が一瞬で刈り取られた!? 何をしたのだ!?」 「手刀で真空波を起こしただけですけど?」 その代官の勧めで、ルイスは冒険者になることに。 日々の農作業(?)を通し、最強の戦士に成長していた彼は、最年長ルーキーとして次々と規格外の戦果を挙げていくのだった。 「これは投擲用大根だ」 「「「投擲用大根???」」」

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

処理中です...