みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

97 帰宅

  　里の入り口に着くと、そこに立っている門番が僕達を迎えてくれた。

「よお、シリル。帰ったか。…ん？　一緒にいるのはもしかして？」

　門番のおじさんが目ざとく僕の横にいるアーリン兄さんを見やる。

「こんにちは。やっとアーリン兄さんを見つけました。…父さん達は帰ってないですよね…」

　父さん達が帰って来たのなら門番のおじさんが僕に言わないわけがない。

　何も言って来ないと言う事は父さん達はまだ戻っていないという事だ。

「ああ、まだ帰って来ないな。…お前達を探しに行ったという事はわかっているが、たまにはこっちの様子を見に帰って来ればいいのにな」

　門番のおじさんはため息混じりに漏らすとやれやれと首を振る。

　僕とアーリン兄さんは門番のおじさんに手を振って家へと駆けていった。

　だからその後のおじさんの呟きは聞こえなかった。

「…まさか、何処かで捕まってたりしないよな…」


　少しでも早くビリー兄さんに会いたくて僕とアーリン兄さんは門からすぐに家に向かって走った。

　僕はこの前帰ったばかりだけれど、兄さんにとっては久しぶりの帰郷だ。

　僕よりも先に家に辿り着くと待ちきれないように呼び鈴を何度も鳴らしている。

　うるさいくらいに鳴り響く呼び鈴の中、ガチャリと扉が開かれてビリー兄さんが顔を出した。

「うるさいな！　誰だよいった…」

　そこまで言いかけたビリー兄さんにアーリン兄さんが抱きついた。

「！　アーリン兄さん？」

「ビリー！　会いたかった！」

　アーリン兄さんはビリー兄さんに抱きついてボロボロと涙を零す。

　戸惑ったようなビリー兄さんが僕を見てくるので頷いてやると、アーリン兄さんを抱きしめ返している。

「アーリン兄さん。無事に帰って来たんだね。会いたかったよ」

　二人が再会を喜んでいるのを見て僕も目頭が熱くなる。

　二人が落ち着いた頃を見計らってパンパンと手を叩いた。

「ほらほら、二人共。こんな所で立ち話も何だから家へ入ろうよ」

　僕が促すとアーリン兄さんとビリー兄さんは少し照れたように笑いながら体を離した。

　アーリン兄さんはビリー兄さんの体をすり抜けて先に家の中に入って行く。

　僕とビリー兄さんはそんなアーリン兄さんの様子に肩を竦めて後を追った。

　リビングに入るとそこには呆然としたようにアーリン兄さんが立ち尽くしていた。

「…本当に、父さん達はいないんだね…」

　ポツリと呟くアーリン兄さんの肩をポンポンと叩くとキッと睨まれた。

　…僕、何かした？

「シリル。もう家に帰って来たんだから、いつまでもそんな格好でいるのはやめろよ」

「そうだよ。お前は僕達の弟なんだから小さい姿でいいんだよ」　

　確かに最後に生まれたから弟だけど、三つ子だから同じ大きさでも構わないはずだよね。

　何だかちょっと不満は残るが、二対一では勝ち目がない。

　仕方なく僕は青年の姿から兄さん達より少し小さい子供の大きさへと変化した。

　途端に兄さん達は僕を構い倒してくる。

「あー、これこれ！　やっぱりシリルはこの大きさでなきゃ」

「まったくだ！　あー、この感触。癒やされるー」

　二人に良いようにおもちゃにされてちょっと納得がいかないんだけどな。

　あと少しだけ耐えるとするか。

　…と、思ったが、流石にうざくなってきたので、パッと狐の姿になって逃げ出すと、兄さん達も同じように狐の姿になって追いかけてくる。

　そうしてひとしきり追いかけっこをしていたが、いつも母さんがいたキッチンに来た所で足を止めた。

　こんな風に僕達が騒いていたら、いつも母さんが「こらっ！」って怒っていたのに、その声が聞こえないなんて…。

　追いついてきた兄さん達が僕を慰めるようにペロペロと顔を舐めてくる。

「…早く母さん達に会いたいよ」　

「そうだね」

「早く帰って欲しいよね」　

　僕達はベッドで抱き合うようにひとかたまりになって眠った。