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 もう一つの「狐」と書かれた項目に目を走らせると「ルナール王国 デュラン公爵」と書かれていた。

 ここに兄さんがいるという事だろうか。

「シリル。そこに書かれている通り、君の兄はルナール王国にいると思われる」

 僕が書類から目を離して顔を上げると厳しい表情のランベール様と目があった。

 どうやらあまりいい話ではないようだ。

 僕は緊張の面持ちでランベール様の次の言葉を待った。

「奴隷商はかなりの高額でデュラン公爵に君の兄を売りつけたようだ。…実を言うとルナール王国と我が国はあまり交易が無くてね。素直に君の兄を返してくれるかどうかはわからない。それでも行くのか?」

 そんな事は聞かれるまでもない。

 兄さんの居場所がわかった以上、行かないなんて選択肢はない。

「勿論です。たとえすぐに返してもらえなくても兄さんを返してもらえるまで、何度でも訪ねるつもりです」

「そうだな。一応ファビアン、いや陛下に書状を書いて貰うつもりだが、それで向こうが返してくれるという保証はない。それでもいいか?」 

「はい。よろしくお願いします」

 ランベール様は少し微笑むと、王家の封蝋が押してある手紙を僕に差し出してきた。

 なんのことはない。既にファビアン様から手紙を預かってきていたようだ。

「最初にシリルの兄を連れ戻しに行くんだろう。それが終わったら他の獣人達の開放もしてもらえると助かる」 

 こうして売られた獣人達のリストが手に入った以上、知らん顔は出来ないだろう。

 それにあちこち旅をしていれば、どこかで父さん達に会えるかもしれない。

 それよりも先に父さん達が里に帰ってビリー兄さんに会ってくれるのが一番いいんだけどね。

 ランベール様からデュラン公爵に返すお金を受け取ると僕達は王宮を後にした。

 テオの家に帰る道すがら、ルナール王国についての話を聞いた。

 ルナール王国はこのガヴェニャック王国の東側に位置する国で、以前戦争をしていた事があったらしい。

 それにルナール王国では奴隷制度が今でも残っているそうだ。

「もしかして獣人も奴隷にされているの?」

「さあ、どうだろうな? あの国の奴隷は借金のカタか、犯罪者が奴隷になるからな。獣人だからって奴隷にされるわけじゃない」 

 テオに言われてちょっとホッとした。

 だけど借金のカタに奴隷にされるなんて可哀想すぎる。

 それを言うとエリクはちょっと微妙な顔をした。

「だけど貧困にあえいで飲まず食わずの生活をするよりは、奴隷として働いて衣食住を保証される方を選ぶ人もいるからな。雇い主がいい奴だったら借金がなくなれば解放されるしな」

 犯罪者の場合はかなりきつい強制労働を強いられるようだ。

 それでも処刑されて命を奪われるよりはマシなのかもしれない。

 エリクは旅の準備をしてくると言って自分の家に帰って行った。

 旅の準備じゃなくてジャンヌさんに会いに帰ったんだろうけどね。

 テオの家に戻ったが、さしてする事もなくエリクが来るのを待っていた。

 だが、なかなかエリクがやってくる気配がない。

 テオが焦れて今にもエリクの家に押しかけようとした頃になってようやくエリクが顔を出した。

「随分と遅かったじゃないか」

 テオの地を這うような声にもエリクはどこ吹く風だ。

「せっかくジャンヌとゆっくり過ごせるかと思ってたのに、また旅に出るんだろ。少しくらい別れを惜しんでもバチは当たらないと思うけどな」

「お前の場合は度が過ぎてると思うけどな。早く終わらせたいならさっさと来ればよかったんだよ。ほら、行くぞ」 

 僕達はテオのお母さんに見送られてルナール王国へと旅立った。

 ルナール王国の王都はここからかなり遠くにあるらしい。

 僕には周辺国の地理なんてさっぱりわからないので、テオ達に付いて行くしかない。

 二人の後に付いて旅を続けた後、ようやくルナール王国の王都に辿り着いた。
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