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61 聞き込み

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 王宮からそう遠くない所に治療院はあるらしく、それほど時間はかからずに治療院に到着した。

 危惧していたような事態は起こらずに無事に治療院に辿り着いた事にホッとする。

 馬車の扉が開かれ、ランベール樣の護衛騎士が顔を見せる。

 先にテオが降りて周りを確認した後で、ランベール樣が降りて僕とエリクが後に続く。

 この世界では魔法が使えるけれど、皆が皆ヒールを使える訳では無い。

 それにヒールを使える人でも、魔力量によっては完全に治療が出来ない場合もある。

 治療院はそういう人達の為にお金を払って治療をしてもらう場所だ。

 先程保護した獣人達も、僕が多少ヒールをかけたとはいえ、完璧に治したわけではないのでこちらに連れてこられた。

 治療の為もあるけれど、それぞれに話を聞きたい為にここに集められたというのもあるけどね。

 ランベール樣と一緒に治療院に入るとすぐに受付のカウンターがあり、女の人が二人立っていた。

「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件ですか?」

 受付の一人が話しかけてきたけど、ランベール樣を見てちょっと頬を染めている。

「先程、騎士団に連れてこられた人達に会いに来たんだが…」

 その一言で受付の女の人はランベール様が誰なのかわかったようで、更に頬を赤く染める。

「ご案内いたしますわ。こちらへどうぞ」

 ニコニコと愛想を振りまいてランベール樣を案内するが、当のランベール樣はそんな彼女に素っ気ない態度を取っている。

 受付の女の人の後を僕達はゾロゾロとついて行った。

 長い廊下を歩いて行くと、前方に開放された入り口が見えた。

 そこに入ると沢山のベッドが並べられていて、先程保護された獣人達が寝かされている。

 中にはそれほど悪くはないのか、ベッドに座っているだけの人もいた。

「ありがとう。もう戻ってもいいよ」

 まだ側に居たそうな受付の女の人にランベール樣はさっさと退室を促す。

 彼女はあからさまにがっかりしたような顔をしたが、これ以上側にいて嫌われては堪らないとばかりに受付へと戻って行く。

 ランベール樣はとりあえず比較的元気そうな獣人から話を聞くために、ベッドに腰掛けている獣人の元に寄った。

 ベッドに腰掛けている獣人は少しぼんやりとしていたが、ランベール樣が近付いて来るのに気付いてハッと顔を上げた。

「楽にしていていいぞ。少し話を聞かせて貰えるか?」

 ランベール樣の後ろに獣人である僕達が一緒にいるのに気付いて獣人は少し警戒を解いた。

「は、はい。私に分かる事なら何なりと…」

 まだ年若い女性の獣人だが、栄養状態が悪かったらしく手足は細くてガリガリだ。

 奴隷商に捕らえられてからろくに食事を与えられなかったに違いない。

「あの店の店主が姿をくらましたのだが、行き先に何か心当たりはないか? それと狐の獣人の行方も知っていたら教えて欲しい」

 ランベール樣は奴隷商だけでなく、僕の兄さん達の事も忘れずに聞いてくれたのがとても嬉しかった。

 彼女はしばらく考えていたが、ポツリポツリと思い出すように話し始めた。

「あの男はめぼしい獣人達を別の所に移動させると、買い手もつかないような私達だけをあの檻に閉じ込めました」

 彼女は一旦そこで言葉を打ち切ると、頭に手を当てて言葉を絞り出す。

「声しか聞こえなかったのですが、何処かの王女様に献上して受け入れて貰うような事を言っていました」

 王女様に献上?

 それって僕の兄さん達の事なのだろうか?

「何処の国かは聞いてないのか?」 

 ランベール様が問い詰めると彼女はかぶりを振った。

「わかりません。声しか聞こえなかったし、その献上するものが何かもわからないんです」

「お役に立てずすみません」と言って彼女は泣き出した。

 すかさずテオが彼女を宥めて落ち着かせる。

 ランベール樣は女性の扱いには手慣れていないようだ。

 だが、奴隷商の言う王女様とは何処の国の人なのだろうか?

「まさか、隣の国のマルモンテル王国の王女樣ですか?」 

 近隣の国の事を何も知らない僕はランベール樣に尋ねたが、ランベール樣はそれを否定した。

「いや。マルモンテル王国には王女はいない。この近隣で王女が居るのは北側にあるパストゥール王国だろう」
 
 ランベール樣によるとパストゥール王国では奴隷も愛玩動物も普通に取引されているそうだ。

 もしかしたらそこに、兄さん達が?

 僕は今すぐにでも飛び出したい気持ちをぐっと抑えた。
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