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45 出発

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 ジャンヌにこれでもか、というくらいに構い倒された僕は既に疲労困憊である。

 ぐったりとソファーに座り込んだ僕をよそに、エリクとジャンヌはイチャイチャと旅の準備をしている。

「すまんな。目の毒だとは思うが、あいつらは結婚したばかりなんで大目に見てやってくれよ」 

 テオがため息交じりに僕に謝罪してくるが、結婚したばかりのエリクを僕が連れ出してもいいのだろうか?

「新婚ホヤホヤならば仕方がないですよ。だけどエリクさんを僕と一緒に旅をさせてもいいんですか?」

 テオは僕の耳にしか聞こえないような声で話しだした。

「実はうちの親父がジャンヌに会いたいってうるさいんだよ。エリクが留守になれば一人暮らしは危険だからって家に呼べるだろ。そうすれば親父もしばらくは大人しくなるってもんさ」

 テオによると二人の父親はエリクとの結婚に猛反対していたそうだ。

 ジャンヌが家出をしてでも結婚するって言い張ったので渋々結婚を承諾したらしいが、今でも酔っ払うとグチグチ言っているらしい。

 それにつきあわされるテオは辟易しているそうだ。

「孫でも生まれれば少しは変わるかもしれないが、今度は孫相手に暴走しそうだからな。エリクには悪いが親父の為にしばらくは旅をしてもらうさ」

 娘に彼氏が出来ると父親の機嫌が悪くなるとかよく聞くけれど、結婚しても諦めがつかないのもどうかと思うけどね。

 エリクが旅に出てもジャンヌさんがこの家に一人で取り残されるんじゃないとわかって少しホッとした。

 向こうでいちゃついている二人が抱き合ったと思ったら顔が近付いて…とそこで僕の視界がテオの手によって塞がれた。

 前世の記憶があるからラブシーンなんて大した事ではないのだが、テオにしてみれば他人の僕に妹のラブシーンなんて見られたくないのかもしれない。

 ここは何も知らない子供の振りをしてキョトンとした顔でも作っておこう。

「いつまでいちゃついているんだ? 準備は出来たのか?」

 テオの声と同時に僕の視界もクリアになり、エリクとジャンヌがこちらにやってきた。

「いい所で邪魔すんなよー」

 エリクはぼやいているが、ジャンヌはちょっと顔を赤らめている。

 どうやら僕達がいることを忘れていたみたいだ。

 それだけ二人の世界に没頭していたのかな?

 そのまま玄関へと向かい、僕達はジャンヌに別れを告げる。

「ジャンヌさん。それじゃエリクさんをお借りしますね」

 僕の挨拶にジャンヌはほうっとため息を付く。

「さっきの姿のままで良かったのに…。でもあんなに可愛いと攫われちゃいそうだからこの姿の方が正解かもね。ご家族と会えればいいわね。気を付けて行ってらっしゃい」

 …攫われるって…

 これ以上家族と引き離されるわけにはいかないから、無闇矢鱈に子供の姿になるのはやめよう。

「ジャンヌ。すぐに帰って来るからね。変な奴が来ても家に入れちゃ駄目だよ」

 エリクがジャンヌに抱きつこうとするのをテオが無理矢理中に割って入る。

「ジャンヌ。エリクがいない間は家に帰っていればいい。そうすればエリクも゙安心出来るだろう」

 テオが如何にも今思いついたとばかりに提案しているが、きっと隙あらば二人を引き離そうと、画策していたに違いない。

 …もしかして…

 親父云々はテオの口実で実はテオが極度のシスコンという可能性もあるな。

 まあ、他人の家庭内の事など首を突っ込むと碌な事にはならないからほっておこう。

「俺は二人を途中まで見送ってくる。その間に準備をしておけよ」 

 テオはそう言って僕達を連れて家を後にした。

 これから向かうのはこの町に一番近い獣人の里だ。

 町の外に通じる門の所までテオは僕とエリクを見送ってくれた。

「シリル。無事に家族と会えるといいな。エリク、シリルを頼んだぞ」

 テオがエリクに向かって念を押すと、エリクはニカッと笑った。

「任せとけ。これでも元冒険者だからな。旅は心得てるよ」

 テオがエリクを僕に付けてくれたのはエリクが元冒険者だと言うのもあったようだ。

「シリル。縁があったらまた会おう」

「はい。テオさんも元気で。行ってきます」

 こうして僕はエリクと一緒に旅に出発した。
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