上 下
37 / 113

37 監禁部屋

しおりを挟む
 夕食をすっかり平らげて、侍女にお茶を淹れてもらってのんびりすすっていると、扉がノックされた。

 侍女が扉を開けると入ってきたのは二人の王子だった。

 慌てて立ち上がろうとする僕を片手で制して王子達は僕の前の席に腰を下ろした。

「やあ、シリル。勝手に部屋を移動してしまって済まなかったね。食事は済んだかい?」

 ファビアン様に問われて僕はコクリと頷いた。

「はい、とても美味しかったです。ありがとうございました」

 腹ごしらえも済んだ事だし、そろそろ僕に何かをやらせるつもりなんだろうな。

 そう思い、ファビアン様をじっと見つめると、その横にいるランベール様の方が先に口を開いた。

「シリル。君にやってもらいたい事があるんだけど、協力してくれるか?」 

 勿論、そのつもりで付いてきたのだから、僕にイヤという選択肢はない。

「もちろんです。…もしかして先程の幻影魔法を使うのですか?」

 二人に幻影魔法を見せた時にそう言われていたのを思い出した。

 誰に使うのかはわからないけれど、僕で役に立てるのならば協力しておいた方がいいだろう。

 そうすれば僕の家族がいる里についての情報も集めてもらえるかもしれない。

「その代わりと言ってはなんですが、僕の家族が住んでいる里について何かわかることがあれば教えてもらえますか?」

 僕がそう切り出すと、ファビアン様とランベール様は顔を見合わせると軽く頷きあった。

「それについてはテオ達に情報を集めるように頼んでおいた。何か分かり次第知らせてくれるそうだ」

 ファビアン様が請け負ってくれた事で僕はホッとした。

 僕が協力する事を確信したのか、ランベール様が何やら書かれた紙を僕に差し出してきた。

「…これは、何ですか?」

 僕がその紙を手に取って読み始めると、細々とした事が箇条書きにされていた。

「これから行ってもらう幻影魔法についての詳細だ。一度、私にかけて見せてくれ。変更してほしい箇所があれば伝える」

 どうやらこの通りの幻影魔法をランベール様にかけて見せなければいけないようだ。

 つまり予行演習って事かな。

「…わかりました。今、この場でかければよろしいですか?」

「ああ、頼む」

 ランベール様は淡々と答えるけれど、僕の心境は複雑だった。

 これを本当にランベール様にかけていいのか?

 そう思いチラリとファビアン様を見やると、少し悲しそうに微笑まれた。

 どちらかと言えばやりたくないけれど、協力すると言った以上、やらないわけにはいかない。

 僕は軽く息を吐くとランベール様に向かって幻影魔法をかけた。

 その後、変更点をいくつか挙げられて再度ランベール様に幻影魔法をかける。

 ……。

 長い沈黙の後でランベール様は満足そうに頷いた。

「完璧だよ、シリル。…それじゃ、その幻影魔法をかけるべき相手の所に行こうか」

「…はい」

 僕は思い腰を上げるとファビアン様とランベール様に連れられて部屋を出た。


 ******

 リリアーナはソファーに座るとぐるりと部屋の中を眺めた。

 部屋の中に置かれた家具はどれも高価な物で公爵令嬢であるリリアーナが使うには相応しい物ばかりだった。

 ただ一点、扉にはめ込まれた鉄格子さえ無ければの話だが…。

 会議室から連れ出されたリリアーナは騎士達によって、貴族の罪人が入れられるこの部屋へと連れてこられた。

 おそらくリリアーナの父親もこの近くにある部屋に連れてこられたに違いない。

 …何処で失敗したのかしら…。

 国王が亡くなったら自分の息子であるランベールを国王にして、憎いあの女とその息子に国王を殺した罪を着せて断罪するはずだったのに…。

 そのために父親である公爵が動いていたはずだったのに、気が付けば自分達親子が断罪をされていた。

 おまけに自分の息子であるランベールがやけに異母弟であるファビアンと仲が良さげなのが気になった。

 …一体どういう事? 

 ランベールの世話は乳母や使用人達に任せきりだったけれど、ファビアンとは仲が悪いともっぱらの噂だった。

 リリアーナ自身もあの二人が一緒にいる所を見た事はない。

 それなのにリリアーナの耳に入ってきていた情報は現実とは違ったものだったようだ。

 リリアーナはぐったりとソファーにより掛かるときつく目を閉じた。

 …これはきっと悪い夢だわ…

 次に目を開けたら違う世界が広がっているはず…

 目を閉じたリリアーナの耳に微かに赤ん坊の泣き声が聞こえてくる。

「嫌だわ、なんで赤ん坊なんかいるのよ」

 そう呟いたリリアーナがゆっくりと目を開けると、そこは先程とは別の場所だった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

俺の召喚獣だけレベルアップする

摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話 主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉 神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく…… ※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!! 内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません? https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

処理中です...