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36 王太子の決定
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リリアーナの失言に真っ先に反応したのは父親である公爵だった。
「リリアーナ! 余計な事を言うのではない! ここは陛下の回復を喜ぶべきだろうが!」
その公爵の発言自体も自らの墓穴を掘っている事になるのだが、公爵自身もまさか国王がこの場に姿を見せる事が出来るほどの状態だとは思ってもいなかった。
だからこそ、国王の姿に動揺し、国王の容態に自分達が関わっていると認めるような発言をしてしまったのだ。
公爵の発言に周りの貴族達は、その言葉の意味を正しく理解し、冷ややかな目を公爵とリリアーナに向ける。
周りの空気が変わった事に気付いた公爵がようやく自分の失態に気付いたが既に遅かった。
騎士達は容赦なく二人を拘束し、その場に跪かせた。
国王は杖を突きながらゆっくりと、拘束された二人の側に歩み寄る。
「…リリアーナ。そなたは何故、私を亡き者にしようとしたのだ?」
国王は静かな口調でリリアーナに問いかけるが、リリアーナはキッと国王を睨みつけると憎々しげに口を歪めた。
「何故? その言葉、そっくりお返しするわ! 何故陛下は私を側妃にしたの? ルイーズと正妃争いをしていた時も私よりも彼女を選んだくせに、彼女に子供が出来ないからって私を側妃にして…。しかも義務的に行為を済ませるとさっさとルイーズの元に帰って行ったわ。私が身籠った途端、見向きもしなくなり、挙げ句にはルイーズまで身籠るなんて!」
王族である以上、跡継ぎを残すのは当然ではあるが、流石にそんな国王の態度はいただけないと、その場にいる貴族達は誰もがそう思ったが、それを口に出す者はいなかった。
本来ならば、ルイーズよりも身分が高いリリアーナが正妃に選ばれるはずだったのだが、国王はルイーズと恋仲だったため、迷わずルイーズを選んだ。
そこで終わっていればリリアーナも特に何も思わなかったのに、子供を産むためだけの側妃として召し上げられたのが癪に障った。
しかもルイーズまで同時に身籠ったと聞いては、火に油を注ぐようなものだ。
リリアーナにすれば側妃として迎えられた以上、少しは寄り添ってもらえると思っていたのが、子供を産む道具としての扱いに愕然とした。
『可愛さ余って憎さ百倍』
リリアーナが国王に対して殺意を抱くのはある意味当然だったのかもしれない。
「リリアーナ殿。その点に関しては我等にも責任はある。しかし、だからといって陛下に毒を盛っていいとはならないだろう」
宰相の言葉にリリアーナは、フン、とそっぽを向く。
その唇が微かに震えているのを気付く者は誰もいなかった。
「さて、公爵。そなたはリリアーナが側妃になったのをいい事に陰で色々と暗躍していたようだな。我が国にある獣人の里に対して獣人狩りをしていたという証拠があがっている」
宰相から突きつけられた証拠の数々に公爵は反論すら出来なかった。
宰相が合図をすると騎士達は公爵とリリアーナを貴族用の監禁部屋へと連行していった。
彼等が会議室を出ていくと王妃は立ち上がり、国王に席を譲った。
国王はゆっくりとした歩みで席に腰を下ろすと、会議室にいる貴族達に視線を向けた。
「公爵達の処罰については確定次第通達する。本日は王子達についての決定事項を知らせる。本来ならば第一王子のランベールが王太子となるのだが、公爵と母親の失脚により第二王子であるファビアンが王太子となる」
国王の言葉に先程の断罪劇を目にしていた貴族達には当然の事だと受け入れられた。
これにより第一王子であるランベールはどういう立場に追いやられるのかと、皆は固唾を呑んで成り行きを見守っている。
「ランベールは母親の罪により王子の身分を剥奪されるが、今後はランベールの側近として仕える事になる」
この決定に貴族達はざわついた。
いくらランベール自身が関与していないにしても、実の母親が国王に毒を盛っていたのだ。
下手をすれば連座されても文句は言えないくらいの罪である。
「静粛に!」
一向に静まらない会議室のざわつきに業を煮やした宰相が一喝すると、ピタリと静けさを取り戻した。
「この決定に不満を持つ者はいるだろう。ランベール本人は平民に身分を落としてほしいと訴えていたが、ファビアンがそれを許さなかった。皆には隠していたが、実は彼等は双子のように育ってきたのだ」
国王の説明によるとリリアーナは出産後、いっさいランベールの世話をしなかったという。
すべてを乳母や侍女に任せて、顔を合わせるのは夕食の時だけだったようだ。
それを知った王妃がこっそりランベールとファビアンを一緒に世話をさせていたという。
それがただの慈悲の心からなのか、将来を見据えてのことだったのかは誰にもわからない。
こうして正式にファビアン王子が王太子として周知される事になった。
「リリアーナ! 余計な事を言うのではない! ここは陛下の回復を喜ぶべきだろうが!」
その公爵の発言自体も自らの墓穴を掘っている事になるのだが、公爵自身もまさか国王がこの場に姿を見せる事が出来るほどの状態だとは思ってもいなかった。
だからこそ、国王の姿に動揺し、国王の容態に自分達が関わっていると認めるような発言をしてしまったのだ。
公爵の発言に周りの貴族達は、その言葉の意味を正しく理解し、冷ややかな目を公爵とリリアーナに向ける。
周りの空気が変わった事に気付いた公爵がようやく自分の失態に気付いたが既に遅かった。
騎士達は容赦なく二人を拘束し、その場に跪かせた。
国王は杖を突きながらゆっくりと、拘束された二人の側に歩み寄る。
「…リリアーナ。そなたは何故、私を亡き者にしようとしたのだ?」
国王は静かな口調でリリアーナに問いかけるが、リリアーナはキッと国王を睨みつけると憎々しげに口を歪めた。
「何故? その言葉、そっくりお返しするわ! 何故陛下は私を側妃にしたの? ルイーズと正妃争いをしていた時も私よりも彼女を選んだくせに、彼女に子供が出来ないからって私を側妃にして…。しかも義務的に行為を済ませるとさっさとルイーズの元に帰って行ったわ。私が身籠った途端、見向きもしなくなり、挙げ句にはルイーズまで身籠るなんて!」
王族である以上、跡継ぎを残すのは当然ではあるが、流石にそんな国王の態度はいただけないと、その場にいる貴族達は誰もがそう思ったが、それを口に出す者はいなかった。
本来ならば、ルイーズよりも身分が高いリリアーナが正妃に選ばれるはずだったのだが、国王はルイーズと恋仲だったため、迷わずルイーズを選んだ。
そこで終わっていればリリアーナも特に何も思わなかったのに、子供を産むためだけの側妃として召し上げられたのが癪に障った。
しかもルイーズまで同時に身籠ったと聞いては、火に油を注ぐようなものだ。
リリアーナにすれば側妃として迎えられた以上、少しは寄り添ってもらえると思っていたのが、子供を産む道具としての扱いに愕然とした。
『可愛さ余って憎さ百倍』
リリアーナが国王に対して殺意を抱くのはある意味当然だったのかもしれない。
「リリアーナ殿。その点に関しては我等にも責任はある。しかし、だからといって陛下に毒を盛っていいとはならないだろう」
宰相の言葉にリリアーナは、フン、とそっぽを向く。
その唇が微かに震えているのを気付く者は誰もいなかった。
「さて、公爵。そなたはリリアーナが側妃になったのをいい事に陰で色々と暗躍していたようだな。我が国にある獣人の里に対して獣人狩りをしていたという証拠があがっている」
宰相から突きつけられた証拠の数々に公爵は反論すら出来なかった。
宰相が合図をすると騎士達は公爵とリリアーナを貴族用の監禁部屋へと連行していった。
彼等が会議室を出ていくと王妃は立ち上がり、国王に席を譲った。
国王はゆっくりとした歩みで席に腰を下ろすと、会議室にいる貴族達に視線を向けた。
「公爵達の処罰については確定次第通達する。本日は王子達についての決定事項を知らせる。本来ならば第一王子のランベールが王太子となるのだが、公爵と母親の失脚により第二王子であるファビアンが王太子となる」
国王の言葉に先程の断罪劇を目にしていた貴族達には当然の事だと受け入れられた。
これにより第一王子であるランベールはどういう立場に追いやられるのかと、皆は固唾を呑んで成り行きを見守っている。
「ランベールは母親の罪により王子の身分を剥奪されるが、今後はランベールの側近として仕える事になる」
この決定に貴族達はざわついた。
いくらランベール自身が関与していないにしても、実の母親が国王に毒を盛っていたのだ。
下手をすれば連座されても文句は言えないくらいの罪である。
「静粛に!」
一向に静まらない会議室のざわつきに業を煮やした宰相が一喝すると、ピタリと静けさを取り戻した。
「この決定に不満を持つ者はいるだろう。ランベール本人は平民に身分を落としてほしいと訴えていたが、ファビアンがそれを許さなかった。皆には隠していたが、実は彼等は双子のように育ってきたのだ」
国王の説明によるとリリアーナは出産後、いっさいランベールの世話をしなかったという。
すべてを乳母や侍女に任せて、顔を合わせるのは夕食の時だけだったようだ。
それを知った王妃がこっそりランベールとファビアンを一緒に世話をさせていたという。
それがただの慈悲の心からなのか、将来を見据えてのことだったのかは誰にもわからない。
こうして正式にファビアン王子が王太子として周知される事になった。
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