16 / 113
16 増える尻尾
しおりを挟む
「シリル~、ただいま~」
リーズの声が聞こえたと同時に眠っていた僕の体をギュウギュウと抱きしめられた。
せっかく気持ちよく眠っていたのに…。
くわーっと大きなあくびをして、なおも僕の体を抱きしめているリーズを尻尾ではたいてやるが、まったくお構いなしだ。
「あれ? ちょっと待って!」
僕の尻尾に違和感を感じたリーズが、僕の体から頭を起こした。
「シリルの尻尾が3本になってる! 何があったの?」
やれやれ、やっと気付いたか。
「もっと早くに気付いてよ。今日、魔法で扉を開けたら尻尾が3本になっていたんだ」
尻尾が増えた経緯をリーズに説明すると、リーズは目を丸くしていた。
「魔法で扉を開けられるの? シリル、すごーい」
リーズは手を叩いて喜んでいたが、やがて何かに気付いたようにハッとした。
「尻尾が増えたって事は、人の姿も大きくなったって事?」
見せて見せて、とリーズにねだられた僕はぱっと人型に変わってみせた。
「うわあ~、昨日より大きくなってる。やだ、可愛い過ぎる~」
リーズは僕を抱っこして頬ずりをしてきた。
「はなしちぇ~」
苦しいので必死に逃れようと声を出したのだが、逆効果だったようだ。
「うわぁ、喋れるようになったのね。もっとお話してよ」
リーズがせがんでくるが、流石にこれ以上は相手に出来ない。
僕は狐の姿に戻ってリーズの腕から逃れた。
床に降り立った僕をリーズが残念そうに再度手を伸ばそうとするが、それには応じずに逃げ回った。
「リーズ、シリルと遊んでないで手伝ってちょうだい」
パメラに呼ばれてリーズは渋々と僕から離れてパメラの元へ向かった。
やれやれ、とばかりに僕は寝床へ戻ったが、この後でロジェにも起こされる羽目になった。
「それにしても扉の開閉だけで成長してしまうとは驚いたな」
食事をしながらロジェは目の前に座ってパメラからご飯を食べさせられている僕を見て目を細めた。
今、僕は人の姿になって食事をしている真っ最中だ。
一人で食べられると言ったのだが、パメラは甲斐甲斐しく僕の食事の世話をしている。
リーズも「弟が出来たみたい」とご満悦なので、少しくらいはいいかな、とされるままになっている。
「あと、家の中で使える魔法って言ったら何があるかしら?」
パメラは僕の口の中に食べ物を突っ込みながら、ロジェに聞いている。
「そうだなぁ。食材を凍らせるのはどうだ? それと解凍が出来るかも試してみたらいいぞ」
ふむふむ。
確かにそれはまだ試してないな。
「それが出来たらまた森に行ってみるか? 魔獣と戦えば更に成長するかもしれないぞ」
ロジェの言葉に僕は口をポカンと開けたままで止まった。
魔獣と戦う?
まだそんな事はしたことがないけど大丈夫なんだろうか?
ヘルドッグに囮として対峙したときも逃げ惑うだけで攻撃なんてしなかったからな。
まあ、ロジェが一緒だったら何とかなるだろう。
次の日、パメラに言われるままに食材を凍らせたり、解凍したりして魔法を使ってみた。
尻尾は増えなかったが、少しだけ成長していた。
言葉が多少、滑舌が良くなった程度ではあったけどね。
パメラの手伝いとして家の中で生活魔法を使っているうちに、リーズとロジェと森に行く日になった。
今日も前回と同じく町の門を出てから途中まで馬車に揺られて行く。
「今日は少し奥まで進むぞ」
ロジェの後を僕とリーズは並んで歩いて行く。
狐の姿でも多少は大きくなったので、リーズの隣をちょこちょこと走っているような状態だ。
川のある方とは違う方向へどんどんと進んで行く。
あまり人が足を踏み入れないような場所まで来たが、リーズは大丈夫なんだろうか?
「リーズ、怖くない?」
隣を歩くリーズを見上げると「ん、平気」と言う声が返ってくる。
ロジェの前方でガサガサッという音がして、ロジェが足を止めて身構えた。
僕達もロジェのすぐ後ろで立ち止まって様子を伺うと、茂みの中から一匹の大鼠が飛び出してきた。
「ファイアボール」
すかさずロジェが魔法を当てて大鼠を倒した。
強くない魔獣とはいえ油断は禁物だからね。
一旦、大鼠をマジックバッグに入れて更に進もうとしたところへ、同じ茂みからアルミラージが飛び出してきた。
不意を突かれた形になり、リーズがアルミラージの角を避けきれずに腕を掠めて行った。
パッとリーズの腕から血が飛び散る。
こいつめ!
リーズに何をするんだ!
「ファイアボール!」
逃げて行くアルミラージに向かって僕は魔法を唱えた。
ボウッと一瞬でアルミラージが炎に包まれる。
「シリル! やり過ぎだ!」
ロジェがウォーターボールを飛ばしてアルミラージの炎を消したが、時すでに遅し、アルミラージは黒焦げになっていた。
僕はアルミラージにはお構いなしにリーズの元に駆け寄った。
「リーズ、大丈夫?」
リーズは腕を抑えてしゃがみ込んでいたが、その顔は苦痛で歪んでいた。
「平気よ。掠っただけ…」
だが血が止まっていない。
「ヒール」
僕はリーズの腕に向かってヒールを唱えた。
無意識で唱えたものだったが、リーズの腕の傷は塞がり、服も元通りに戻っていた。
「ありがとう、シリル…」
そう言ったリーズの目が驚いたように、見開かれていた。
その視線は僕の後ろに注がれている。
何だ? まさか?
パッと後ろを振り返った僕の目に4本の尻尾が映った。
リーズの声が聞こえたと同時に眠っていた僕の体をギュウギュウと抱きしめられた。
せっかく気持ちよく眠っていたのに…。
くわーっと大きなあくびをして、なおも僕の体を抱きしめているリーズを尻尾ではたいてやるが、まったくお構いなしだ。
「あれ? ちょっと待って!」
僕の尻尾に違和感を感じたリーズが、僕の体から頭を起こした。
「シリルの尻尾が3本になってる! 何があったの?」
やれやれ、やっと気付いたか。
「もっと早くに気付いてよ。今日、魔法で扉を開けたら尻尾が3本になっていたんだ」
尻尾が増えた経緯をリーズに説明すると、リーズは目を丸くしていた。
「魔法で扉を開けられるの? シリル、すごーい」
リーズは手を叩いて喜んでいたが、やがて何かに気付いたようにハッとした。
「尻尾が増えたって事は、人の姿も大きくなったって事?」
見せて見せて、とリーズにねだられた僕はぱっと人型に変わってみせた。
「うわあ~、昨日より大きくなってる。やだ、可愛い過ぎる~」
リーズは僕を抱っこして頬ずりをしてきた。
「はなしちぇ~」
苦しいので必死に逃れようと声を出したのだが、逆効果だったようだ。
「うわぁ、喋れるようになったのね。もっとお話してよ」
リーズがせがんでくるが、流石にこれ以上は相手に出来ない。
僕は狐の姿に戻ってリーズの腕から逃れた。
床に降り立った僕をリーズが残念そうに再度手を伸ばそうとするが、それには応じずに逃げ回った。
「リーズ、シリルと遊んでないで手伝ってちょうだい」
パメラに呼ばれてリーズは渋々と僕から離れてパメラの元へ向かった。
やれやれ、とばかりに僕は寝床へ戻ったが、この後でロジェにも起こされる羽目になった。
「それにしても扉の開閉だけで成長してしまうとは驚いたな」
食事をしながらロジェは目の前に座ってパメラからご飯を食べさせられている僕を見て目を細めた。
今、僕は人の姿になって食事をしている真っ最中だ。
一人で食べられると言ったのだが、パメラは甲斐甲斐しく僕の食事の世話をしている。
リーズも「弟が出来たみたい」とご満悦なので、少しくらいはいいかな、とされるままになっている。
「あと、家の中で使える魔法って言ったら何があるかしら?」
パメラは僕の口の中に食べ物を突っ込みながら、ロジェに聞いている。
「そうだなぁ。食材を凍らせるのはどうだ? それと解凍が出来るかも試してみたらいいぞ」
ふむふむ。
確かにそれはまだ試してないな。
「それが出来たらまた森に行ってみるか? 魔獣と戦えば更に成長するかもしれないぞ」
ロジェの言葉に僕は口をポカンと開けたままで止まった。
魔獣と戦う?
まだそんな事はしたことがないけど大丈夫なんだろうか?
ヘルドッグに囮として対峙したときも逃げ惑うだけで攻撃なんてしなかったからな。
まあ、ロジェが一緒だったら何とかなるだろう。
次の日、パメラに言われるままに食材を凍らせたり、解凍したりして魔法を使ってみた。
尻尾は増えなかったが、少しだけ成長していた。
言葉が多少、滑舌が良くなった程度ではあったけどね。
パメラの手伝いとして家の中で生活魔法を使っているうちに、リーズとロジェと森に行く日になった。
今日も前回と同じく町の門を出てから途中まで馬車に揺られて行く。
「今日は少し奥まで進むぞ」
ロジェの後を僕とリーズは並んで歩いて行く。
狐の姿でも多少は大きくなったので、リーズの隣をちょこちょこと走っているような状態だ。
川のある方とは違う方向へどんどんと進んで行く。
あまり人が足を踏み入れないような場所まで来たが、リーズは大丈夫なんだろうか?
「リーズ、怖くない?」
隣を歩くリーズを見上げると「ん、平気」と言う声が返ってくる。
ロジェの前方でガサガサッという音がして、ロジェが足を止めて身構えた。
僕達もロジェのすぐ後ろで立ち止まって様子を伺うと、茂みの中から一匹の大鼠が飛び出してきた。
「ファイアボール」
すかさずロジェが魔法を当てて大鼠を倒した。
強くない魔獣とはいえ油断は禁物だからね。
一旦、大鼠をマジックバッグに入れて更に進もうとしたところへ、同じ茂みからアルミラージが飛び出してきた。
不意を突かれた形になり、リーズがアルミラージの角を避けきれずに腕を掠めて行った。
パッとリーズの腕から血が飛び散る。
こいつめ!
リーズに何をするんだ!
「ファイアボール!」
逃げて行くアルミラージに向かって僕は魔法を唱えた。
ボウッと一瞬でアルミラージが炎に包まれる。
「シリル! やり過ぎだ!」
ロジェがウォーターボールを飛ばしてアルミラージの炎を消したが、時すでに遅し、アルミラージは黒焦げになっていた。
僕はアルミラージにはお構いなしにリーズの元に駆け寄った。
「リーズ、大丈夫?」
リーズは腕を抑えてしゃがみ込んでいたが、その顔は苦痛で歪んでいた。
「平気よ。掠っただけ…」
だが血が止まっていない。
「ヒール」
僕はリーズの腕に向かってヒールを唱えた。
無意識で唱えたものだったが、リーズの腕の傷は塞がり、服も元通りに戻っていた。
「ありがとう、シリル…」
そう言ったリーズの目が驚いたように、見開かれていた。
その視線は僕の後ろに注がれている。
何だ? まさか?
パッと後ろを振り返った僕の目に4本の尻尾が映った。
6
お気に入りに追加
132
あなたにおすすめの小説
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜
平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。
『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。
この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。
その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。
一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。
ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜
平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。
途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。
さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。
魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。
一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。
傘使いの過ごす日々
あたりめ
ファンタジー
ある意味幸運なことに主人公は落雷で死んでしまった
それを無様に思った神様が転生させてくれるようでスキルってのもつけてくれるようで。
スキル<傘使い>ってなんだ?
スキル<傘使い>は実は凄かったりラノベ知識0の主人公が異世界で過ごすお話。
完結しました。
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる