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6 毒
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リリアーナはベッドから少し身を起こした状態で、部屋を出て行くアロイスの後ろ姿を呆然と見送っていた。
リリアーナには知らされていなかったが、リリアーナが産気づいたのと同じくらいにルイーズも陣痛が来ていたのだ。
「アンナ、陛下は何処に行ったの? どうしてランベールを抱き上げてくれなかったの?」
リリアーナが実家から連れてきた侍女に問いただすと、アンナは一瞬躊躇ったがリリアーナに押し切られた。
「…実はリリアーナ樣と同じくらいに王妃様も産気づかれたそうです。配下はそちらに向かわれたと思います」
それを聞いたリリアーナはヒステリックに泣き叫んだ。
「ルイーズも出産したって言うの? どうしてわたくしと同じ日に産むのよ! 陛下も陛下だわ! 少しくらい抱き上げてくれたっていいでしょ!」
リリアーナの叫び声に眠っていたランベールが大きな声で泣き出した。
「うるさい! 黙れ! この子を何処かに連れて行ってちょうだい!」
リリアーナの剣幕に侍女達はオロオロするばかりだった。
生まれたばかりでまだリリアーナからお乳ももらっていないからだ。
リリアーナは誰もランベールを連れて行かないうえに、泣き止まないランベールを静かにさせようとランベールの口を塞いだ。
「リリアーナ樣! 何をなさいます!」
別の侍女が慌ててランベールを抱き上げると、リリアーナの部屋から外へ連れ出した。
リリアーナはランベールがいなくなると、ぐったりとベッドに倒れ込んだ。
あまりの悔しさにポロポロと涙が零れ落ちる。
百歩譲っても、ルイーズの出産が重なったのは仕方がない事だと言える。
けれど、ランベールを抱き上げる事もなくルイーズの元に行ったアロイスだけは許せなかった。
アロイスの為だけに、ただ子供を作るだけの行為にも耐えたのに…。
いくら側妃を望んでいなかったとはいえ、妊娠中にすらほとんど気遣いをみせなかったアロイスが許せなかった。
(今にみてらっしゃい…)
リリアーナは密かにアロイスへの復讐を誓った。
リリアーナはその日から一切ランベールの面倒は侍女達に任せっきりにした。
顔立ちはアロイスに似ているとはいえ、髪の色が自分と同じだという事が気に食わなかったからだ。
そのくせ、王宮内では第一王子の母親として我が物顔で振る舞っていた。
ランベールが生まれて十五年が過ぎた頃、父親である公爵がリリアーナを訪ねて来た。
「珍しいですわね。お父様がわたくしに用があるなんて」
公爵もまた、第一王子の祖父として王宮で大きな顔をしていた。
リリアーナは詳しい事は聞かされなかったが、何人かの貴族と組んで良からぬ事をしているようだった。
「お前に良いものをプレゼントしようと思ってな」
そう言って公爵は小さな瓶をコトリとテーブルの上に置いた。
「何ですか、これは?」
リリアーナがその小瓶を手に取ると、公爵はニヤリと笑った。
「毒だよ。これを陛下に少しずつ飲ませてくれると嬉しいんだがね。少々目障りになってきたからね」
リリアーナはそれを聞いて、父親を諌めるどころか乗り気になった。
アロイスを殺してしまえば、自分だけのものに出来るのだと。
年に一度、ランベールとファビアンの誕生を祝して身内だけの食事会が開かれていた。
その時だけはリリアーナも同席を許されていた。
リリアーナは侍女の一人を買収するとアロイスの飲み物の中に、その毒を入れさせた。
和やかに食事会が進む中、突然アロイスが血を吐いて倒れた。
皆が騒然とする中、リリアーナは一人ほくそ笑んでいた。
少しは溜飲が下がったが、まだまだ足りない。
寝たきりになったアロイスにリリアーナは更に毒を混入させた。
リリアーナの計画は上手くいっているように見えたが、ある日突然破綻する事になる。
リリアーナには知らされていなかったが、リリアーナが産気づいたのと同じくらいにルイーズも陣痛が来ていたのだ。
「アンナ、陛下は何処に行ったの? どうしてランベールを抱き上げてくれなかったの?」
リリアーナが実家から連れてきた侍女に問いただすと、アンナは一瞬躊躇ったがリリアーナに押し切られた。
「…実はリリアーナ樣と同じくらいに王妃様も産気づかれたそうです。配下はそちらに向かわれたと思います」
それを聞いたリリアーナはヒステリックに泣き叫んだ。
「ルイーズも出産したって言うの? どうしてわたくしと同じ日に産むのよ! 陛下も陛下だわ! 少しくらい抱き上げてくれたっていいでしょ!」
リリアーナの叫び声に眠っていたランベールが大きな声で泣き出した。
「うるさい! 黙れ! この子を何処かに連れて行ってちょうだい!」
リリアーナの剣幕に侍女達はオロオロするばかりだった。
生まれたばかりでまだリリアーナからお乳ももらっていないからだ。
リリアーナは誰もランベールを連れて行かないうえに、泣き止まないランベールを静かにさせようとランベールの口を塞いだ。
「リリアーナ樣! 何をなさいます!」
別の侍女が慌ててランベールを抱き上げると、リリアーナの部屋から外へ連れ出した。
リリアーナはランベールがいなくなると、ぐったりとベッドに倒れ込んだ。
あまりの悔しさにポロポロと涙が零れ落ちる。
百歩譲っても、ルイーズの出産が重なったのは仕方がない事だと言える。
けれど、ランベールを抱き上げる事もなくルイーズの元に行ったアロイスだけは許せなかった。
アロイスの為だけに、ただ子供を作るだけの行為にも耐えたのに…。
いくら側妃を望んでいなかったとはいえ、妊娠中にすらほとんど気遣いをみせなかったアロイスが許せなかった。
(今にみてらっしゃい…)
リリアーナは密かにアロイスへの復讐を誓った。
リリアーナはその日から一切ランベールの面倒は侍女達に任せっきりにした。
顔立ちはアロイスに似ているとはいえ、髪の色が自分と同じだという事が気に食わなかったからだ。
そのくせ、王宮内では第一王子の母親として我が物顔で振る舞っていた。
ランベールが生まれて十五年が過ぎた頃、父親である公爵がリリアーナを訪ねて来た。
「珍しいですわね。お父様がわたくしに用があるなんて」
公爵もまた、第一王子の祖父として王宮で大きな顔をしていた。
リリアーナは詳しい事は聞かされなかったが、何人かの貴族と組んで良からぬ事をしているようだった。
「お前に良いものをプレゼントしようと思ってな」
そう言って公爵は小さな瓶をコトリとテーブルの上に置いた。
「何ですか、これは?」
リリアーナがその小瓶を手に取ると、公爵はニヤリと笑った。
「毒だよ。これを陛下に少しずつ飲ませてくれると嬉しいんだがね。少々目障りになってきたからね」
リリアーナはそれを聞いて、父親を諌めるどころか乗り気になった。
アロイスを殺してしまえば、自分だけのものに出来るのだと。
年に一度、ランベールとファビアンの誕生を祝して身内だけの食事会が開かれていた。
その時だけはリリアーナも同席を許されていた。
リリアーナは侍女の一人を買収するとアロイスの飲み物の中に、その毒を入れさせた。
和やかに食事会が進む中、突然アロイスが血を吐いて倒れた。
皆が騒然とする中、リリアーナは一人ほくそ笑んでいた。
少しは溜飲が下がったが、まだまだ足りない。
寝たきりになったアロイスにリリアーナは更に毒を混入させた。
リリアーナの計画は上手くいっているように見えたが、ある日突然破綻する事になる。
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