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28 クリスの話
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僕がクリスの顔を見ると、クリスはちょっと申し訳無さそうな顔をした。
「ごめん。ジェレミーを見つけて声をかけようとしたら彼女との話が聞こえてきたんだ。それにジェレミーが孤児院にいた事は公爵から聞いていたからね」
クリスの言葉に僕は唖然とした。
まさかクリスがそんな事まで知っているとは思ってもみなかったのだ。
「ああ。全部公爵から聞いて知っているよ。僕も最近聞かされたけれど、君の母親が家を出た事も全て僕の父上に報告していたそうだ」
そこまで父上は国王に報告していたのか。
確かに仲が良さそうだったけれど、それはちょっとやり過ぎじゃないのか?
僕がちょっと不満に思っているのがクリスにも伝わったみたいだ。
僕を諭すように告げた。
「そんな不満そうな顔をするなよ。詳細を知らないとフォローが出来ないだろう。エレインだっけ? 彼女を処刑したのも僕の父上が許可を出したからさ。公爵家だけの訴えでは流石に処刑まで出来ないからね」
クリスにそう言われてはっとした。
確かに父上が訴えただけで貴族を処刑出来るとは思えない。やはり国王が内情を知っていたから処刑されたのだろう。
それに母上がしょっちゅう王妃に呼び出されているのは、母上の社交を王妃がサポートしてくれているからに違いないと思う。
「戻ったら父上に報告しておくよ。彼女を身請けして何処かに養女に出すようにね。だけど君はもう彼女に合わない方がいい。彼女がこれで生きる希望が持てたらいいけどね」
クリスに言われて僕は頷くしかなかった。
実の母親に娼館に売られて、客を取らされるようになった自分を僕に見られたなんて。多分、僕には一番会いたくなかったに違いない。
「ごめん、ジェレミー。僕が誘ったばかりに…」
クリスはそう言って僕に謝るけれど、僕はそうは思わなかった。
「いや、むしろお礼を言うべきなのかもしれない。ここでアンに会わなければ、彼女の現状を知らなかったのだから。彼女がそう思っているかはわからないけどね」
いつもはうるさいアーサーなのに、さっきから一言も喋らないのはアーサーなりに気を遣っているんだろう。
「お店を見つけたんだけど、どうする?」
このまま帰ってもいいんだけど、という言葉を飲み込むクリスに僕は笑いかけた。
「せっかく街に出てきたんだから、行ってみようよ。クリスだって楽しみにしていたんだろう」
少し安堵したような顔のクリスと連れ立って僕は歩き出した。
アンの事もだけれど、僕はカインがどこに行ったのかが気になった。
あの男達は孤児院を出た後の街で僕を襲ってきた。それに僕達は森で一晩過ごしているから、孤児院のあった街で誰かを攫ったとしても不思議ではない。
クリスには普段通りに装っていたつもりだけれど、僕が無理をしている事は伝わっていたと思う。
カフェでしばらく過ごした後、それぞれ母上へのお土産を買って僕達は帰路に着いた。
別れ際、クリスは「父上に必ず伝えておくよ」と約束してくれた。
部屋に戻ってソファーにぐったりと座る。
アンの悲しそうな顔が脳裏に蘇る。
僕はどうしてこんなにも無力なんだろう。
こうして自分の親元に戻る事が出来ても、僕自身は何の力も持っていない。
アーサーやシヴァが助けてくれなければ、魔獣を倒す事も出来ない。
うだうだと考えているうちに、いつの間にかソファーに突っ伏して寝てしまったようだ。
バトラーに揺り起こされて目が覚めた。
「ジェレミー様。夕食のお時間ですが、お起きになられますか?」
バトラーに告げられて僕は慌てて起き上がった。
「ごめん、バトラー。すっかり寝ちゃってたよ」
アーサーもシヴァも僕をそっとしておいてくれるのはいいけど、放ったらかし過ぎじゃないかな。
僕はバトラーに連れられて食堂へと向かう。
既に父上と母上はテーブルについていて僕が来るのを待っていたようだ。
「どうした、ジェレミー。寝ていたと聞いたが、具合でも悪いのか?」
父上が珍しく僕を気遣ってくれるのは、王宮でクリスが何か父上に進言したからだろうか。
「いえ、大丈夫です。後で父上にお話があるのですが、お時間をいただけますか?」
僕が父上に聞くと、母上が少し拗ねたような顔をした。
「あら、ここでは言えない話なの? …まぁ、いいわ。男同士でないと出来ない話もあるんでしょう」
ちょっと話の方向がずれてるような気もするけれど、母上に聞かせたい話ではない事は確かだ。
「わかった。食事が終わったら私の部屋に来なさい。バトラー。後でジェレミーの案内を頼む」
バトラーが心得たとばかりにお辞儀をして、僕達は食事を続けた。
「ごめん。ジェレミーを見つけて声をかけようとしたら彼女との話が聞こえてきたんだ。それにジェレミーが孤児院にいた事は公爵から聞いていたからね」
クリスの言葉に僕は唖然とした。
まさかクリスがそんな事まで知っているとは思ってもみなかったのだ。
「ああ。全部公爵から聞いて知っているよ。僕も最近聞かされたけれど、君の母親が家を出た事も全て僕の父上に報告していたそうだ」
そこまで父上は国王に報告していたのか。
確かに仲が良さそうだったけれど、それはちょっとやり過ぎじゃないのか?
僕がちょっと不満に思っているのがクリスにも伝わったみたいだ。
僕を諭すように告げた。
「そんな不満そうな顔をするなよ。詳細を知らないとフォローが出来ないだろう。エレインだっけ? 彼女を処刑したのも僕の父上が許可を出したからさ。公爵家だけの訴えでは流石に処刑まで出来ないからね」
クリスにそう言われてはっとした。
確かに父上が訴えただけで貴族を処刑出来るとは思えない。やはり国王が内情を知っていたから処刑されたのだろう。
それに母上がしょっちゅう王妃に呼び出されているのは、母上の社交を王妃がサポートしてくれているからに違いないと思う。
「戻ったら父上に報告しておくよ。彼女を身請けして何処かに養女に出すようにね。だけど君はもう彼女に合わない方がいい。彼女がこれで生きる希望が持てたらいいけどね」
クリスに言われて僕は頷くしかなかった。
実の母親に娼館に売られて、客を取らされるようになった自分を僕に見られたなんて。多分、僕には一番会いたくなかったに違いない。
「ごめん、ジェレミー。僕が誘ったばかりに…」
クリスはそう言って僕に謝るけれど、僕はそうは思わなかった。
「いや、むしろお礼を言うべきなのかもしれない。ここでアンに会わなければ、彼女の現状を知らなかったのだから。彼女がそう思っているかはわからないけどね」
いつもはうるさいアーサーなのに、さっきから一言も喋らないのはアーサーなりに気を遣っているんだろう。
「お店を見つけたんだけど、どうする?」
このまま帰ってもいいんだけど、という言葉を飲み込むクリスに僕は笑いかけた。
「せっかく街に出てきたんだから、行ってみようよ。クリスだって楽しみにしていたんだろう」
少し安堵したような顔のクリスと連れ立って僕は歩き出した。
アンの事もだけれど、僕はカインがどこに行ったのかが気になった。
あの男達は孤児院を出た後の街で僕を襲ってきた。それに僕達は森で一晩過ごしているから、孤児院のあった街で誰かを攫ったとしても不思議ではない。
クリスには普段通りに装っていたつもりだけれど、僕が無理をしている事は伝わっていたと思う。
カフェでしばらく過ごした後、それぞれ母上へのお土産を買って僕達は帰路に着いた。
別れ際、クリスは「父上に必ず伝えておくよ」と約束してくれた。
部屋に戻ってソファーにぐったりと座る。
アンの悲しそうな顔が脳裏に蘇る。
僕はどうしてこんなにも無力なんだろう。
こうして自分の親元に戻る事が出来ても、僕自身は何の力も持っていない。
アーサーやシヴァが助けてくれなければ、魔獣を倒す事も出来ない。
うだうだと考えているうちに、いつの間にかソファーに突っ伏して寝てしまったようだ。
バトラーに揺り起こされて目が覚めた。
「ジェレミー様。夕食のお時間ですが、お起きになられますか?」
バトラーに告げられて僕は慌てて起き上がった。
「ごめん、バトラー。すっかり寝ちゃってたよ」
アーサーもシヴァも僕をそっとしておいてくれるのはいいけど、放ったらかし過ぎじゃないかな。
僕はバトラーに連れられて食堂へと向かう。
既に父上と母上はテーブルについていて僕が来るのを待っていたようだ。
「どうした、ジェレミー。寝ていたと聞いたが、具合でも悪いのか?」
父上が珍しく僕を気遣ってくれるのは、王宮でクリスが何か父上に進言したからだろうか。
「いえ、大丈夫です。後で父上にお話があるのですが、お時間をいただけますか?」
僕が父上に聞くと、母上が少し拗ねたような顔をした。
「あら、ここでは言えない話なの? …まぁ、いいわ。男同士でないと出来ない話もあるんでしょう」
ちょっと話の方向がずれてるような気もするけれど、母上に聞かせたい話ではない事は確かだ。
「わかった。食事が終わったら私の部屋に来なさい。バトラー。後でジェレミーの案内を頼む」
バトラーが心得たとばかりにお辞儀をして、僕達は食事を続けた。
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