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12 王都へ

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「朝だぞ、起きろ!」

 ペシペシとアーサーが僕の頬を叩く。

「私が起こすんだから邪魔するな!」 

 シヴァがバシッとアーサーをはたき落として僕の頬を舐めてくれる。

 まったくシヴァの言うとおりだ。

 アーサーに叩いて起こされたくはないよ。

「シヴァ、おはよう。ついでにアーサーも」

 シヴァに頬擦りしていると横でアーサーが「ついでにとは何だ!」と喚いていた。

 うるさいから放っておこう。

「そう言えば昨日の二人組がシヴァを眠らせたって言ってたけど、その時にはシヴァは騎士を呼びに行ってたんだよね。何であの二人組はそんな事を言ったのかな?」

 あの二人組が指差した先にはシヴァはいなかった。それが不思議で仕方がなかったのだ。

「昨日、お前がすぐに寝てしまっただろう。あれはあの二人組がスリープ魔法をかけたからなんだ。だけど私にはあんなチンケな魔法は効かないのさ。そこであの二人組に幻影魔法をかけて私がそこに寝ているように思い込ませたんだ」

 おお、凄い!

 流石はシヴァだ。

「シヴァって凄いんだね。あ、もしかして騎士さんにも何かしたの?」

 普通はシヴァが引っ張ったくらいじゃ騎士が付いてくるはずがない。

「もちろん、私に付いてくる様に催眠をかけたのさ」

 そんな事までしてたのか。僕がシヴァを褒めるとアーサーはそれが気に食わなかったようだ。

「私だって公爵家に戻ったら凄いんだぞ。ジェレミー、腰を抜かして驚くなよ」

「はいはい、わかったよ。それより今日中に王都に向かうんだろう。さっさと起きて行こうよ」

「だからお前を起こしたのに~!」

 うるさいアーサーは放っておこう。

 朝食を済ませて出発しようとすると宿屋の主人に呼び止められた。

「昨夜は済まなかったね。まさかあんな連中が来るとは思わなかったからね。お詫びに宿泊費を半分返すよ」

 そう言って他の客に気づかれないようにこっそりとお金を渡してくれた。

「おじさん、ありがとう」

「気を付けて旅をするんだよ」

 宿屋の主人に別れを告げて街を抜けて街道へと出る。

「今日は多少無理してでも走るからな。しっかり掴まってろよ」

 僕は覚悟を決めてシヴァの背中に乗った。

 口ではあんな事を言っていたが、それほど無茶な走りはしなかった。なんだかんだ言っても優しいんだな。

 途中の街で昼食を取り、夕刻前には王都に着いた。

 王都の門は今迄通ってきた何処の街よりも立派な造りになっている。

「うわぁ! でかいね。それにチェックも厳しそう」

 王都に入る人がずらりと行列をなしている。

 身分証だけでなく荷物の検査もされてるようだ。

「出る時は簡単なんだが、入るのは厳しいんだ。出る時のチェックも厳しければジュリアが王都を抜け出すこともなかったんだがな」

 アーサーがポツリと呟く。

 今更言っても仕方がないけどね。

 僕とシヴァも列に並ぶが、僕の後ろにもすぐに列が出来る。

 思っていたよりも早く順番が回ってくる。

「身分証を見せて。荷物はこれだけか?」

 門番に僕とシヴァの身分証を見せて荷物を渡す。着替えが少し入っているだけで大した荷物はない。おかげでチェックもすぐに終わった。

「よし。次は貸馬車を借りに行くぞ」

 懐の中のアーサーが僕に指示を出す。

「えっ、馬車? 歩いて行くんじゃないの?」

 わざわざ馬車を借りる理由がわからない。

「いいから早くしないと店が閉まってしまうぞ」

 アーサーに急かされて貸馬車の店を探す。幸いすぐに店は見つかった。

「なるべく立派な馬車にしろよ」

 アーサーはそんな風に注文を付けるけどそんなに沢山お金は持ってないよ。

 案の定、店の主人も僕の身なりをジロジロと見てくる。

「坊やが馬車? 一体何に使うんだ?」

 胡散臭そうに僕達を見る主人にシヴァの目が怪しく光る。

「いいから言われたとおりにしろ。ウォルフォード公爵家まで行くんだ」

 シヴァの声に貸馬車の主人は「わかりました」と僕達を馬車まで案内した。

 そこには随分と立派な馬車があった。

「まぁまぁだな。ジェレミー、さっさと乗れ。おい!早く馬車を出せ!」

 僕とシヴァが乗り込むと馬車は走り出した。

 街を行き交う人が、僕達が乗る馬車を興味深そうにチラチラと見てくる。

 やがて馬車は大きな門のある屋敷へと到着した。

「そこの馬車、止まれ! 来客の予定は聞いてないぞ! 一体何の用だ?」

 門番が馬車を押し留めるとシヴァが馬車の窓から顔を出して門番をひと睨みした。

 途端に門番は馬車を通す為に門を開放する。

 門が開くと馬車は走り出した。

 一体何処まで走るんだ。

 馬車の窓から外を覗いてようやくアーサーが馬車を借りろと言った意味がわかった。

 門から屋敷の入り口までの距離が長いのだ。

 やがて屋敷の玄関に到着した。

 降りようとした僕をシヴァが止めた。

 また、シヴァが外を見て、誰かに術をかけたようだ。

 そしてカチャリと馬車の扉が開いて、黒服の執事が恭しく僕に向かってお辞儀をした。

「お帰りなさいませ。ジェレミー様」

 

 
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