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10 移動

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 ペロペロと頬を舐められる感触に目が覚めた。

「…おはよ…」

 目を開けるとベッドいっぱいに大きくなったシヴァにくるまるように眠っていた。

 道理でフカフカして寝心地が良かったはずだ。

 テーブルの上に転がって(?)いたアーサーがスーッと僕に近寄ってくる。

「随分と良く寝ていたな。孤児院にいた頃に比べりゃ顔色が良くなってる。支度を整えたら次の街に出発するぞ」

 確かに孤児院にいた時よりは体調がいいみたいだ。あの孤児院はどれだけブラックだったんだろう。

「出来れば今日中に王都に行きたいんだが、ジェレミーは大丈夫か?」 

 シヴァにそう聞かれたが、何が大丈夫なんだろう?

「体調は問題ないけど、王都ってそんなに近いの?」

 シヴァの背中に乗って移動するのなら何の問題もないはずだ。

「普通は3日かかる所を一日で移動する予定だが、ジェレミーに問題がないのならすぐに出発するぞ」

 馬車に揺られて3日なら、シヴァの背中に乗って走る方が早いだろう。

 宿屋を出て王都に向かって街の中を歩いて行く。街の中心地に大きなお屋敷が見えた。

「この街を治めている貴族の館だよ。たしか公爵家とも懇意にしているはずだ」

 懐の中のアーサーがそう教えてくれた。

 周りを高い塀で囲まれて、門には門番が二人常駐している。

 いかにもお金持ちって感じだよね。

 やがて街の外に出る門に辿り着いた。

 僕とシヴァの身分証を見せると、ここもやはり何も言わずに通してくれた。

 門番の一人は「あまり森の奥に行かないように気をつけろよ」と声をかけてくれたけどね。

 人目が無くなった所で大きくなったシヴァに跨がる。

「しっかり捕まってろよ」

「わかった…うわっ!」 

 了承を告げるや否やシヴァが物凄い勢いで走り出した。

 あまりのスピードにシヴァにしがみついているのがやっとだった。周りの景色が目にも留まらぬ速さで流れていく。

 ナニコレ! 聞いてないよ!

 昨日の移動もそれなりに速かったけれど、今日は桁違いの速さだ。

「シ、シヴァ! ちょっと止まって!」

 僕が叫ぶとシヴァが急ブレーキをかけて止まった。あんまり急に止まったので思わずシヴァの背中の上でつんのめってしまった。

 慌てて態勢を立て直して、シヴァの背中から降りる。

「どうした、ジェレミー。トイレか?」

 シヴァが少々デリカシーのない事を言ってくる。

「違うよ! あまりにも速すぎるから重力が強すぎて潰されそうになったんだよ。王都まで3日って馬車でじゃないの?」

 シヴァは横に立った僕を見るとフンと鼻を鳴らした。

「何を言ってる! 私の足で、に決まっているではないか!」

 シヴァの返事に僕はガックリきた。確認しなかった僕も悪いけど、あんなスピードで走るシヴァもどうかと思うけどね。

「流石にちょっと速すぎるよ。今日はまた何処かに泊まってもいいからもう少しゆっくり走ってほしいな」

 僕がお願いするとシヴァがペロリと僕の頬を舐めた。

「ジェレミーのお願いじゃ仕方がないな。もう少しゆっくり走るか。その代わり少し危険な場所もあるから覚悟しろよ」

 シヴァは僕を乗せると街道から森へと入って行った。曲がりくねった街道より真っ直ぐに森を突っ切るつもりのようだ。

 先程よりはスピードは緩やかだけど、その分周りが見えるせいで時々魔獣がいるのが目に入る。

 シヴァが走り抜けるせいで魔獣は何も仕掛けてこないが、中には唸り声をあげて追いかけてくる魔獣もいた。

「うわっ! パンサーが追いかけてくるよ!」

「心配するな。すぐに振り切ってやる!」

 そう言うなりシヴァは少しスピードをあげて追いかけてくるパンサーを振り切った。

 パンサーも一度はスピードをあげて追いつこうとしたが、やがて諦めて僕達から離れて行った。

 そんな事が何度かあって、ようやくシヴァが街道に出た時にはホッとした。

「この先の街に泊まるとしようか」

 シヴァの背中から降りて中型犬くらいの大きさになったシヴァを連れて街道を歩くと、次の街の門が見えてきた。

 門番に冒険者ギルドの場所を聞き、街の中へと入って行く。

 王都に近いだけあって、ここの街はかなり大きいみたいだ。

 冒険者ギルドに行くと、割に沢山の人達がいた。僕達を物珍しそうに見てくる者もいた。

「すみません。従魔と泊まれる宿屋ってありますか?」 

 受付で尋ねるとすぐに教えてくれた。

「君一人なの? ガラの悪い大人もいるから気を付けた方がいいわよ」

 受付のお姉さんが声をひそめて注意してくれた。

「ありがとう。でもシヴァがいるから大丈夫です」

 シヴァが「当然だ」と言うようにしっぽを振る。

 冒険者ギルドを出て、教えて貰った宿屋を目指す。

 僕達の後ろを誰かが付いてきている事にはまったく気が付いていなかった。

 

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