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12 秘め事
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…僕達と同じ?
それはリュシアンとアドリアンの関係を示しているのだろうか?
だとしたら陛下と宰相も゙そういう仲だと言う事だ。
確かに仲が良いと言うにはあまりにも度が過ぎているようには思えたが、本当にそうなのだろうか?
「母上達が気付いているかどうかはわからないけどね。だけど母上にしても王妃様にしても陛下を取り合ったのは好きだったからじゃないからね。二人共王妃という座が欲しかっただけさ」
確かに噂話で聞いた事がある。
双子だった二人は小さい頃からお互いをライバル視していて、事ある毎にどちらが上か争っていたらしい。
「だから母上は僕を身籠った途端、父上とは寝室を一緒にしていない。アドリアンの所もそうだったんだが、弟が生まれたのは王妃様が女の子を欲しがったかららしい。残念ながら生まれたのは男の子だったけどね」
アドリアンの弟のベルトランはまだ十歳だ。
随分と歳が離れていると思ったが、王妃様がしばらく陛下と寝室を共にしていなかったのなら納得出来る。
アドリアンの私室の転移陣に乗るとリュシアンは魔力を流して魔法陣を発動させた。
僅かな浮遊感の後、私達の体はリュシアンの私室へと移動していた。
そう言えばこの部屋は以前は義父である宰相の部屋だったはずだ。
「…まさか、この魔法陣は…」
私が言い淀むとリュシアンはコクリと頷いた。
「これを設置したのは父上と陛下だよ。今の父上の部屋にもあるのかどうかは知らないけどね」
私の寝室まで戻ると、リュシアンは腕に抱いていた息子をそっとベビーベッドへと寝かせた。
生まれたばかりの息子は実の父親の死を知らずにすやすやと眠っている。
愛おしそうに息子の頬をそっと撫でたリュシアンは私をベッドへと寝かせる。
「本当ならばアドリアンに名前を付けて貰うんだったんだけどね。…この子の名前はアデラールだ。出産したばかりの君に無茶をさせちゃったかな。あとはゆっくり休んでくれ」
リュシアンはそう告げると部屋を出て行った。
おそらくまたあの転移陣を使ってアドリアンの棺の所へ戻って行くのだろう。
ベッドの中で横になった私はやがて深い眠りについた。
翌日。アドリアンの葬儀がしめやかに行われた。
当然、私の出席は許されず、こうしてこの部屋からアドリアンへの祈りを捧げた。
アンジェリックへの取り調べはつつがなく行われていたが、彼女は相変わらず心此処にあらずの状態のままだった。
だが、状況から見ても彼女の犯行で間違いはないらしい。
アンジェリックの弁明も聞かれないまま裁判が行われ、アンジェリックには死刑が言い渡された。
だが、万が一アンジェリックが妊娠している場合を考慮して、すぐには処刑されなかった。
半月後、アンジェリックに生理が訪れたのを確認されると、翌日には死刑が実行された。
アンジェリックが正気を取り戻さないままの処刑だったが、むしろそれで良かったのかもしれない。
大勢の民衆が見守る中、アンジェリックの公開処刑が行われた。
死刑執行人はマスクで顔を隠していたが、あれはおそらくリュシアンだろう。
リュシアンは自らの手で恋人の仇を取ったのだ。
アンジェリックの処刑後、ベルトランが王太子として正式に発表されたが、本当ならば私の息子のアデラールが王太子となるはずだ。
だが、リュシアンはアデラールがアドリアンの息子だとは陛下に告げなかった。
「たとえアドリアンが生きていて、アンジェリックとの間に男の子が生まれなくても、アデラールを息子だとは公表しなかったよ。僕とそう約束していたからね」
リュシアンは愛おしそうにアデラールを抱き上げて、こっそりと私に告げた。
私自身、アデラールをアドリアンの息子だとは誰にも言うつもりはない。
だが、私達四人の偽装結婚の代償はあまりにも大きなものとなった。
日に日に大きくなっていく息子に誰もがリュシアンに似ていると言うが、私から見ればアドリアンにそっくりだと思う。
いつか大きくなったアデラールを「アドリアン」と呼んでしまわないかしら?
そんな不安を抱えながら、私は今日も庭で駆け回るリュシアンとアデラールの二人を見つめるのだった。
ー 完 ー
それはリュシアンとアドリアンの関係を示しているのだろうか?
だとしたら陛下と宰相も゙そういう仲だと言う事だ。
確かに仲が良いと言うにはあまりにも度が過ぎているようには思えたが、本当にそうなのだろうか?
「母上達が気付いているかどうかはわからないけどね。だけど母上にしても王妃様にしても陛下を取り合ったのは好きだったからじゃないからね。二人共王妃という座が欲しかっただけさ」
確かに噂話で聞いた事がある。
双子だった二人は小さい頃からお互いをライバル視していて、事ある毎にどちらが上か争っていたらしい。
「だから母上は僕を身籠った途端、父上とは寝室を一緒にしていない。アドリアンの所もそうだったんだが、弟が生まれたのは王妃様が女の子を欲しがったかららしい。残念ながら生まれたのは男の子だったけどね」
アドリアンの弟のベルトランはまだ十歳だ。
随分と歳が離れていると思ったが、王妃様がしばらく陛下と寝室を共にしていなかったのなら納得出来る。
アドリアンの私室の転移陣に乗るとリュシアンは魔力を流して魔法陣を発動させた。
僅かな浮遊感の後、私達の体はリュシアンの私室へと移動していた。
そう言えばこの部屋は以前は義父である宰相の部屋だったはずだ。
「…まさか、この魔法陣は…」
私が言い淀むとリュシアンはコクリと頷いた。
「これを設置したのは父上と陛下だよ。今の父上の部屋にもあるのかどうかは知らないけどね」
私の寝室まで戻ると、リュシアンは腕に抱いていた息子をそっとベビーベッドへと寝かせた。
生まれたばかりの息子は実の父親の死を知らずにすやすやと眠っている。
愛おしそうに息子の頬をそっと撫でたリュシアンは私をベッドへと寝かせる。
「本当ならばアドリアンに名前を付けて貰うんだったんだけどね。…この子の名前はアデラールだ。出産したばかりの君に無茶をさせちゃったかな。あとはゆっくり休んでくれ」
リュシアンはそう告げると部屋を出て行った。
おそらくまたあの転移陣を使ってアドリアンの棺の所へ戻って行くのだろう。
ベッドの中で横になった私はやがて深い眠りについた。
翌日。アドリアンの葬儀がしめやかに行われた。
当然、私の出席は許されず、こうしてこの部屋からアドリアンへの祈りを捧げた。
アンジェリックへの取り調べはつつがなく行われていたが、彼女は相変わらず心此処にあらずの状態のままだった。
だが、状況から見ても彼女の犯行で間違いはないらしい。
アンジェリックの弁明も聞かれないまま裁判が行われ、アンジェリックには死刑が言い渡された。
だが、万が一アンジェリックが妊娠している場合を考慮して、すぐには処刑されなかった。
半月後、アンジェリックに生理が訪れたのを確認されると、翌日には死刑が実行された。
アンジェリックが正気を取り戻さないままの処刑だったが、むしろそれで良かったのかもしれない。
大勢の民衆が見守る中、アンジェリックの公開処刑が行われた。
死刑執行人はマスクで顔を隠していたが、あれはおそらくリュシアンだろう。
リュシアンは自らの手で恋人の仇を取ったのだ。
アンジェリックの処刑後、ベルトランが王太子として正式に発表されたが、本当ならば私の息子のアデラールが王太子となるはずだ。
だが、リュシアンはアデラールがアドリアンの息子だとは陛下に告げなかった。
「たとえアドリアンが生きていて、アンジェリックとの間に男の子が生まれなくても、アデラールを息子だとは公表しなかったよ。僕とそう約束していたからね」
リュシアンは愛おしそうにアデラールを抱き上げて、こっそりと私に告げた。
私自身、アデラールをアドリアンの息子だとは誰にも言うつもりはない。
だが、私達四人の偽装結婚の代償はあまりにも大きなものとなった。
日に日に大きくなっていく息子に誰もがリュシアンに似ていると言うが、私から見ればアドリアンにそっくりだと思う。
いつか大きくなったアデラールを「アドリアン」と呼んでしまわないかしら?
そんな不安を抱えながら、私は今日も庭で駆け回るリュシアンとアデラールの二人を見つめるのだった。
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