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71 乗っ取られた身体
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服を着替えさせられたの私はそのままドレッサーの前に座らされた。
(!!)
ドレッサーの鏡に映る顔を見て私は声にならない叫びをあげる。
そこにいたのは私ではなく、まさしくキャロリンだった。
元々姉妹であるから多少は似ている所はあったけれど、それでも髪の色や瞳の色の違いですぐに見分けはついた。
それなのに、鏡に映る私の姿はキャロリンそのものに変わっている。
内心では驚いているのに鏡に映る顔は何の表情も浮かべていない。
まるで感情のない人形のような顔だ。
「ヴェラ、あの顔ではセドリック王太子が違和感を抱きかねないわ。なんとかならないの?」
お母様も鏡に映る私の顔の無表情さに懸念を抱いたようで、ヴェラにどうにかしろと迫っている。
「ああ、確かに。顔を変えただけでは駄目ですね。キャロリン様のような受け答えができるようにしましょうか」
(キャロリンのようなって何をする気なの? 私はどうなっちゃうの?)
この場から逃げ出したいのに自分の意思では身体を動かす事が出来ない。
座ったまま、鏡に映るヴェラを見ていると、いつの間にか握られていた杖が振られ、その先端から魔力が私の身体に流れ込んでくる。
「これでよろしいでしょう。奥様、試しに何かお話なさってくださいませ」
「あら? 今ので大丈夫なの? キャロリン、もうすぐセドリック王太子が来られますよ」
「あら、そうなの。楽しみだわ。ちょっと! 口紅はこの色じゃ駄目よ! もう少し赤い色にしてちょうだい!」
(!!!)
私の意思とは関係なく、キャロリンの声と口調で侍女達に指図する声が、私から発せられる。
侍女達は慌てて私の口紅を拭うと、別の口紅を私の唇に塗り立てる。
「いい感じね。これならばセドリック様も気に入ってくださるわ」
鏡の中のキャロリンは顔を左右に向けて口紅の色を確認すると、妖艶な笑みを浮かべる。
ここにいるのは間違いなく私なのに、キャロリンに身体を乗っ取られてしまったような感覚だ。
「ヴェラ、流石だわ。これならばセドリック王太子もこの子をキャロリンだと思うでしょうね。ああ、ここにいるのはキャロリンだったわね」
お母様は何が何でも私をキャロリンに仕立て上げたいようだった。
王家との婚姻が進んでいる以上、それを反故にするわけにはいかないのだろう。
ましてや本物のキャロリンが呪い返しを受けて猫になったなんて口が裂けても言えないはずだ。
魔法で姿形が変えられるなら、私じゃなくて他の人を連れてくればいいのに、とも思うんだけれど、それだとレイノルズ公爵家の血が王家に入らない。
だからこそ、わざわざ私を連れ戻したのだ。
「キャロリン、準備はいいかしら?」
お母様に尋ねられ、鏡の中のキャロリンはコクリと頷き返す。
「ええ、準備はいいわ」
「セドリック王太子はあなたのお見舞いに来られるんですからね。上手く話を合わせてちょうだい」
「わかったわ。ちょっと疲れが出ただけですって言えばいいのね」
私の意思などお構いなしに、私の口からキャロリンの言葉が出てくる。
まるでキャロリンに身体を乗っ取られたような感覚だ。
そのうちに扉がノックされて、侍従の声が聞こえた。
「奥様。セドリック王太子の馬車が門を入って来ました」
「すぐ行くわ。さあ、キャロリン。セドリック王太子のお出迎えに参りますよ」
「ええ、お母様」
私の身体が立ち上がって、お母様の側に近付いていくと、お母様は見たこともない笑顔で私の手を取る。
その笑顔が私に向けられたものではないことにズキリと心が痛む。
私の身体はそのままお母様と一緒に玄関に向かって歩いて行った。
(!!)
ドレッサーの鏡に映る顔を見て私は声にならない叫びをあげる。
そこにいたのは私ではなく、まさしくキャロリンだった。
元々姉妹であるから多少は似ている所はあったけれど、それでも髪の色や瞳の色の違いですぐに見分けはついた。
それなのに、鏡に映る私の姿はキャロリンそのものに変わっている。
内心では驚いているのに鏡に映る顔は何の表情も浮かべていない。
まるで感情のない人形のような顔だ。
「ヴェラ、あの顔ではセドリック王太子が違和感を抱きかねないわ。なんとかならないの?」
お母様も鏡に映る私の顔の無表情さに懸念を抱いたようで、ヴェラにどうにかしろと迫っている。
「ああ、確かに。顔を変えただけでは駄目ですね。キャロリン様のような受け答えができるようにしましょうか」
(キャロリンのようなって何をする気なの? 私はどうなっちゃうの?)
この場から逃げ出したいのに自分の意思では身体を動かす事が出来ない。
座ったまま、鏡に映るヴェラを見ていると、いつの間にか握られていた杖が振られ、その先端から魔力が私の身体に流れ込んでくる。
「これでよろしいでしょう。奥様、試しに何かお話なさってくださいませ」
「あら? 今ので大丈夫なの? キャロリン、もうすぐセドリック王太子が来られますよ」
「あら、そうなの。楽しみだわ。ちょっと! 口紅はこの色じゃ駄目よ! もう少し赤い色にしてちょうだい!」
(!!!)
私の意思とは関係なく、キャロリンの声と口調で侍女達に指図する声が、私から発せられる。
侍女達は慌てて私の口紅を拭うと、別の口紅を私の唇に塗り立てる。
「いい感じね。これならばセドリック様も気に入ってくださるわ」
鏡の中のキャロリンは顔を左右に向けて口紅の色を確認すると、妖艶な笑みを浮かべる。
ここにいるのは間違いなく私なのに、キャロリンに身体を乗っ取られてしまったような感覚だ。
「ヴェラ、流石だわ。これならばセドリック王太子もこの子をキャロリンだと思うでしょうね。ああ、ここにいるのはキャロリンだったわね」
お母様は何が何でも私をキャロリンに仕立て上げたいようだった。
王家との婚姻が進んでいる以上、それを反故にするわけにはいかないのだろう。
ましてや本物のキャロリンが呪い返しを受けて猫になったなんて口が裂けても言えないはずだ。
魔法で姿形が変えられるなら、私じゃなくて他の人を連れてくればいいのに、とも思うんだけれど、それだとレイノルズ公爵家の血が王家に入らない。
だからこそ、わざわざ私を連れ戻したのだ。
「キャロリン、準備はいいかしら?」
お母様に尋ねられ、鏡の中のキャロリンはコクリと頷き返す。
「ええ、準備はいいわ」
「セドリック王太子はあなたのお見舞いに来られるんですからね。上手く話を合わせてちょうだい」
「わかったわ。ちょっと疲れが出ただけですって言えばいいのね」
私の意思などお構いなしに、私の口からキャロリンの言葉が出てくる。
まるでキャロリンに身体を乗っ取られたような感覚だ。
そのうちに扉がノックされて、侍従の声が聞こえた。
「奥様。セドリック王太子の馬車が門を入って来ました」
「すぐ行くわ。さあ、キャロリン。セドリック王太子のお出迎えに参りますよ」
「ええ、お母様」
私の身体が立ち上がって、お母様の側に近付いていくと、お母様は見たこともない笑顔で私の手を取る。
その笑顔が私に向けられたものではないことにズキリと心が痛む。
私の身体はそのままお母様と一緒に玄関に向かって歩いて行った。
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