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53 サイモンの手紙(アラスター王太子視点)
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アラスター王太子が執務室に戻ると、国王の机の上には次々と紙の山が積み重ねられているところだった。
「父上、宰相の机の中にサイモンからの手紙が入っているそうです。すぐに確認させてください!」
入るなり捲し立てるアラスター王太子に国王は机の上の紙の山を指差した。
「これが宰相の机の中にあった物だ。多分この中に入っているだろう。これから仕分けるからお前も一緒に探せ」
午前中に宰相の事情聴取を終えたので、午後からは執務室の整理に充てるつもりだったようだ。
机の上の紙の山に少々げんなりしつつも四人でやれば少しは早く終わるだろう。
国王とサリヴァン侯爵、それにウォーレンを交えた四人で、それぞれ目を通して行った。
アラスター王太子は真っ先に手紙の束から目を通して行った。
他の書類に紛れている可能性も無くはないだろうが、宰相の性格からしてそれはないと思っていた。
手紙を一通一通裏返して差出人を確認していく。
国内だけでなく国外の貴族や王族からの手紙が多数あった。
だが、お目当ての『サイモン』の文字は見当たらない。
(この中には無いのか…)
がっかりしつつも最後の手紙をひっくり返すとようやくそこにお目当ての文字を見つけた。
「父上、ありました!」
アラスター王太子の言葉にウォーレンは手を止めたが、国王とサリヴァン侯爵は相変わらず書類の分類を続けていた。
手紙を探していたのはアラスター王太子とウォーレンだけで、国王とサリヴァン侯爵はこれからの執務に必要かどうかを分類しているからだ。
「…そうか。ついでに手紙の分類もしてほしかったんたが、そこまで気が回らなかったみたいだな。せめて国内と国外くらいは分けておいてくれ」
アラスター王太子はすぐにでもその手紙を読みたかったが、分類くらいなら、とウォーレンと手分けして分類を始めた。
一度目を通しているので分類はすぐに終わった。
それらをサリヴァン侯爵に渡してアラスター王太子は国王の机から離れてソファーへと移動する。
他人宛の手紙を勝手に読むのは気が引けるが、手紙のありかを教えてもらった時点で了承を得たと思っている。
何時頃受け取った手紙か分からないが、随分と黄ばんでしまっている。
封筒から取り出して手紙に目を通した。
『ヘンリー、
無事にモーリーに着いた。
これからはここでのんびり暮らしていくよ。
イザベルの好きだった花を植えて彼女の思い出に浸るのもいいだろう。
君がここに来る事はないと思うが、気が向いたら立ち寄ってくれ。
歓迎するよ サイモン』
アラスター王太子は手紙に書かれていた女性の名前に釘付けになった。
それはアラスター王太子の母親の名前だが、他にも同じ名前の女性がいるのだろうか?
「父上、ちょっとこれを読んでもらえますか?」
アラスター王太子は立ち上がると、国王に手紙を差し出した。
「ここに書かれている『イザベル』と言うのは母上の事ですか?」
国王はアラスター王太子が示した箇所をチラリと見ると、軽く頷いた。
「そうだ。サイモンはイザベルが亡くなると『ここには居たくない』と言って王都を出て行った。サイモンはイザベルが好きだったからな」
それだけを口にすると国王はまた書類の仕分けへと戻って行った。
彼等に何があったのかそれ以上、聞く気にもなれずにアラスター王太子は黙って手紙を封筒に戻した。
「父上、この手紙は借りて行きますね」
アラスター王太子はそれだけを告げるとウォーレンと共に自室に向かった。
今もこの地にいるのかは分からないが、とりあえず行くだけ行ってみよう。
だが、モーリーはこの国のはずれにある場所だ。
ここまでどうやって向かうかを考えながらアラスター王太子は足を進めた。
「父上、宰相の机の中にサイモンからの手紙が入っているそうです。すぐに確認させてください!」
入るなり捲し立てるアラスター王太子に国王は机の上の紙の山を指差した。
「これが宰相の机の中にあった物だ。多分この中に入っているだろう。これから仕分けるからお前も一緒に探せ」
午前中に宰相の事情聴取を終えたので、午後からは執務室の整理に充てるつもりだったようだ。
机の上の紙の山に少々げんなりしつつも四人でやれば少しは早く終わるだろう。
国王とサリヴァン侯爵、それにウォーレンを交えた四人で、それぞれ目を通して行った。
アラスター王太子は真っ先に手紙の束から目を通して行った。
他の書類に紛れている可能性も無くはないだろうが、宰相の性格からしてそれはないと思っていた。
手紙を一通一通裏返して差出人を確認していく。
国内だけでなく国外の貴族や王族からの手紙が多数あった。
だが、お目当ての『サイモン』の文字は見当たらない。
(この中には無いのか…)
がっかりしつつも最後の手紙をひっくり返すとようやくそこにお目当ての文字を見つけた。
「父上、ありました!」
アラスター王太子の言葉にウォーレンは手を止めたが、国王とサリヴァン侯爵は相変わらず書類の分類を続けていた。
手紙を探していたのはアラスター王太子とウォーレンだけで、国王とサリヴァン侯爵はこれからの執務に必要かどうかを分類しているからだ。
「…そうか。ついでに手紙の分類もしてほしかったんたが、そこまで気が回らなかったみたいだな。せめて国内と国外くらいは分けておいてくれ」
アラスター王太子はすぐにでもその手紙を読みたかったが、分類くらいなら、とウォーレンと手分けして分類を始めた。
一度目を通しているので分類はすぐに終わった。
それらをサリヴァン侯爵に渡してアラスター王太子は国王の机から離れてソファーへと移動する。
他人宛の手紙を勝手に読むのは気が引けるが、手紙のありかを教えてもらった時点で了承を得たと思っている。
何時頃受け取った手紙か分からないが、随分と黄ばんでしまっている。
封筒から取り出して手紙に目を通した。
『ヘンリー、
無事にモーリーに着いた。
これからはここでのんびり暮らしていくよ。
イザベルの好きだった花を植えて彼女の思い出に浸るのもいいだろう。
君がここに来る事はないと思うが、気が向いたら立ち寄ってくれ。
歓迎するよ サイモン』
アラスター王太子は手紙に書かれていた女性の名前に釘付けになった。
それはアラスター王太子の母親の名前だが、他にも同じ名前の女性がいるのだろうか?
「父上、ちょっとこれを読んでもらえますか?」
アラスター王太子は立ち上がると、国王に手紙を差し出した。
「ここに書かれている『イザベル』と言うのは母上の事ですか?」
国王はアラスター王太子が示した箇所をチラリと見ると、軽く頷いた。
「そうだ。サイモンはイザベルが亡くなると『ここには居たくない』と言って王都を出て行った。サイモンはイザベルが好きだったからな」
それだけを口にすると国王はまた書類の仕分けへと戻って行った。
彼等に何があったのかそれ以上、聞く気にもなれずにアラスター王太子は黙って手紙を封筒に戻した。
「父上、この手紙は借りて行きますね」
アラスター王太子はそれだけを告げるとウォーレンと共に自室に向かった。
今もこの地にいるのかは分からないが、とりあえず行くだけ行ってみよう。
だが、モーリーはこの国のはずれにある場所だ。
ここまでどうやって向かうかを考えながらアラスター王太子は足を進めた。
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