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37 無事でなにより

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 私はハッと我に返ると抱かれているアラスター王太子の腕からスルリとベッドの上へと降り立った。

 ケンブル先生の魔道具のお陰で服を着ている状態とはいえ、アラスター王太子に抱き上げられているのは精神衛生上良くないわね。

「アラスター王太子、大丈夫ですか?」

 どこかぼうっとした様子のアラスター王太子に声をかけると、少しぎこちない笑顔が返ってきた。

「キャサリン嬢、ありがとうございます。僕がキャサリン嬢を助けるつもりが逆に助けられてしまいました」

「いいえ。入れられた牢獄の鉄格子が猫の通れる幅があったので、こうして抜け出す事が出来ました。ところで、どうしてブリジット様に抵抗出来なかったのですか?」

 はたから見るとただブリジットにキスをされて押し倒されただけに見えたのに、どうしてされるままになっていたのかが不思議だ。

 それを聞くとアラスター王太子は苦々しい顔をして見せる。

「それが僕にも良くわからないのです。ブリジット様を連れてこの部屋に来た時はすぐに退出するつもりだったのに、何故か急にそれが出来なくなって、気が付けばベッドに座っていました。そして彼女の唇が重なると徐々に何も考えられなくなってきたんです。なんとか抵抗しようとしたのですが…」 

 アラスター王太子に言い難い事を言わせてしまったけれど、ブリジットのキスには男性を虜にする魔力が込められているのかしら?

 そうでなきゃキスくらいで身体が動かなくなるなんて考えられないわ。

 そう考えると国王陛下もブリジットの魔力で言いなりにされていたのかもしれないわ。

『魅力』ではなく『魔力』で人を操ろうとしている所が問題だけれどね。

「アラスター王太子は悪くありません。悪いのはアラスター王太子を操ろうとしたブリジット様です。それよりも、ブリジット様が国王陛下を殺害したと言うのは本当なんでしょうか?」 

 ブリジットに抵抗出来なかった事で落ち込んでいそうなアラスター王太子に気持ちを切り替えてもらおうと話題を変えてみる。

「先程入ってきた騎士達はサリヴァン侯爵に近い人達だったように思う。もしかしたらキャサリン嬢を拘束した騎士達とは別の捜査をしていたのかもしれない」

「サリヴァン侯爵ですか?」 

 コールリッジ王国の貴族の名前なのだろうけれど、その人の名前を出されても私にはピンとこない。

「キャサリン嬢には何の事だかさっぱりわからないよね。サリヴァン侯爵は次期宰相の座を狙っている貴族でね。何か手柄をあげて今の宰相を蹴落とそうとしているんだろう」 

 アラスター王太子から『宰相』という言葉を聞いて、私は先程のブリジットと宰相の様子を思い返していた。

 王妃と宰相という立場の二人にしては妙に馴れ馴れし感じがしたけれど、まさか二人が共謀して国王陛下を亡き者にしたんじゃないわよね。

 それに自分の後釜を狙っている人物がいるのに、そんな隙を見せるような事をするとは思えないんだけれど…。

 実際に二人が関係を持っていたかどうかはブリジットを取り調べればわかる事だわ。

 それよりもさっさとこの部屋から出た方がいいわね。

 誰かに見咎められたら言い訳をするのも苦労しそうだわ。

「アラスター王太子、そろそろこの部屋から出ましょう。歩けますか?」

 アラスター王太子はゆっくりとベッドから足を下ろすと、ベッドに手をついて身体を支えながら立ち上がった。

「大丈夫。何とか歩けそうだ」

 その様子を見て私もベッドから下へ降り立った。

 ところで、私は一旦牢獄に戻ったほうがいいのかしら?
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