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33 腹が減っては戦が出来ぬ

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 本当は今すぐ猫の姿になって、この牢獄から出て行きたいんだけれど、それをやってしまうと後々面倒な事になりそうなので止めた。

(それにしてもお腹が空いたわね…)

 いつもならば、既に昼食を食べ終わるくらいの時間なのに、エイダが食事を持ってこなかったのだ。

 恐らく国王陛下の殺害騒動で私の所に行くのを止められたのだろう。

(まあ、一食くらい抜いても大丈夫だけれど、夕食はちゃんと出して欲しいわね)

 こんな牢獄に閉じ込められているのに、そんな呑気な事を考えられるのは、いざとなれば猫になって逃げ出せると踏んでいるからだ。

 それにしても、国王陛下とブリジットを殺害なんて、何が起きたのだろう?

 誰かに襲われたのかと思ったが、護衛騎士が側に付いているはずだから、それはないだろう。

 一番考えられるのは、二人の食事に毒が盛られていたというものかしら。

 これならば、二人同時に殺害できなくもないものね。

『私を見た』という証言も私に罪をなすりつけるためのものだろう。

 そう考えると、私がこの王宮に滞在していて、なおかつ部屋から出られない状態だと知っている人物の仕業になる。

 それを知っている人物が誰かと言えば、国王夫妻と宰相、アラスター王太子にウォーレンとエイダが思い浮かぶけれど、もしかしたら他にも知っている人がいるのかもしれない。

 そうなると、誰が私に罪を着せようとしたのかはわからない。

 あれこれ考えを巡らせてみるけれど、お腹が空いてそれどころじゃないわね。

 どのくらい時間が経ったのかわからない頃、ようやく誰かが近付いてくる足音が聞こえた。

「キャサリン様、大丈夫ですか?」

 料理の乗ったお盆を抱えたエイダが駆け寄ってきた。

 一緒に付いて来た騎士が鉄格子の一部を開けると、エイダはそこからお盆を差し入れて台の上に置いた。

 どうしてあんな所に台が置いてあるのか不思議に思っていたけれど、こうやって食事を差し入れる時のためなのね。

「申し訳ございません。昼食をお持ちする際に国王陛下とブリジット様が倒れられて、それどころではなくなってしまいました。しかもキャサリン様がお二人を殺害しようとしたとして、騎士団がキャサリン様を拘束したと言われて…。アラスター様が宰相様を説得しようとされたのですが、それよりも陛下の容体が思わしくなくて…」

 いつものエイダからは想像もつかないような表情に、国王陛下がのっぴきならない状態なのは察しがつく。

「私は大丈夫よ。ここに入れられているだけで、手荒な事はされていないわ」

 ソファーから立たされる時にちょっと腕を強く掴まれたけれど、大した事はなかったしね。

「申し訳ございません。キャサリン様のお側にいたいのですが、食事を運ぶ事しか許されていないのです」

 まあ、普通は牢獄に入れた人物にお付きの人なんていないものね。

「私の事は気にしないで、アラスター王太子の側にいてあげてちょうだい」

「おい! いつまで喋っている! 食事を置いたらさっさと行くぞ!」

 一緒に付いて来た騎士が業を煮やしたのか、エイダを怒鳴りつける。

 ちょっとムッとするけれど、罪人として扱われている以上、文句は言えないわね。

 騎士に追い立てられるようにエイダが去っていった。

 一人残された私は台の上に置かれた食事を持ってソファーへと移動した。

 ソファーの前のテーブルにお盆を置いて、食事を摂る。

 今までの食事に比べたら質素なものだけれど、食べさせてもらえるだけ有り難い。

 食事を終えてようやくひと心地ついた私は、先程のエイダの言葉を思い返してみる。

『食事をお持ちする際に国王陛下とブリジット様が倒れられて…』 

 二人が倒れたという事は、やはり毒を盛られたという事なのかしら?

 やはり、自分で調べるしかないのかしらね。

 私はこっそりと牢獄から出る決意をした。
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