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27 アラスター王太子の謝罪
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不意にノックの音が聞こえて「はい」と返事をするとエイダが入ってきた。
「キャサリン様、お待たせいたしました。とりあえずこちらの本をお持ちいたしましたので、お読みになってください。また後ほど別の物をお持ちいたします」
本をテーブルの上に置くと慌ただしく部屋を出て行った。
仕事の合間にわざわざ持ってきてくれたのだろう。
本のタイトルからして小説のようだが、エヴァンズ王国では見た覚えがない。
私が知らないだけなのか、この国でしか流通していない物なのかはわからないけれど、これでしばらくは時間が潰せる。
本を読む事に没頭していると、徐々に日が暮れてきたようで、窓の外が暗くなってきた。
そろそろエイダが夕食を持ってくる頃合いかしら、と思ったタイミングで扉がノックされた。
「はい」
返事をすると姿を現したのはアラスター王太子だった。
「キャサリン嬢、放ったらかしにしたままで済まない」
入るなり頭を下げるアラスター王太子に私は慌ててかぶりを振る。
「頭を上げてくださいませ。それにエイダに本を持ってきてもらったので、特に退屈はしていません。それに先程ケンブル先生から魔道具を頂いたんです」
私は首に着けたチョーカーをアラスター王太子に見せた。
「ケンブル先生が魔道具を? 随分と早かったんだな。それで、魔道具の効果の程はどうなんだ?」
「ケンブル先生の前で効果を試してみましたけれど、何の問題もありませんでした。これでクシャミをしても大丈夫です」
大丈夫と言っていいのかは疑問だけれど、少なくとも猫から人間に戻った時に裸じゃないのは助かるわね。
「そうか。後でケンブル先生にお礼を言いにいこう。それにしても、キャサリン嬢には謝らないといけない。キャサリン嬢を助けるつもりでこの国に連れてきたはずなのに、こんな軟禁状態にしてしまうなんて。これでは何のためにこの国に連れてきたのか分からなくなってしまった」
ソファーに座ったアラスター王太子はがっくりと打ちひしがれている。
確かにあそこまで国王陛下に拒絶されるとは思っていなかったけれど、一国の国王としては当然の反応だと思う。
「そんなにご自分を責めないでください。怪我をして動けなかった私を助けてくださいましたし、治療もしていただきました。何よりこうして魔道具も作って頂いたんですから、アラスター王太子には感謝しています」
そう言って励ますと、アラスター王太子はようやく頭を上げて私を見つめた。
「ありがとう、キャサリン嬢。頑張ってキャサリン嬢を養女に迎えてくれる貴族を探してみせるからね」
「ありがとうございます。だけどあまり無理をされませんように」
アラスター王太子は私を受け入れてくれる貴族がいると思っているようだけれど、もしかしたら既に国王陛下が手を回しているかもしれない。
私が除籍されたと知っているから、養女として受け入れてくれる貴族を探している事は想定済みだろう。
アラスター王太子が頻繁にエヴァンズ王国に留学していた事をあまり心良く思っていないみたいだから、私を受け入れたくないのかもしれない。
それに四阿で聞いたブリジットの言葉も気になるわ。
『お父様は私の言う事は何でも聞いてくださるの』
この『お父様』とは国王陛下の事だろう。
つまりブリジットがオリヴァーを王太子にするために、アラスター王太子の廃嫡を国王陛下に願うかもしれないって事だ。
万が一、アラスター王太子を廃嫡した場合、その後アラスター王太子をどうするだろう。
国から追い出すか、それとも国益のために何処かに婿に出すか。
「アラスター様、そろそろ夕食の時間です」
後ろに控えていたウォーレンに言われてアラスター王太子は渋々と立ち上がった。
「済まない、キャサリン嬢。それじゃ、また明日」
そう告げるとアラスター王太子はウォーレンと共に出て行った。
私は結局、オリヴァーに会った事を言えないまま、アラスター王太子を見送った。
「キャサリン様、お待たせいたしました。とりあえずこちらの本をお持ちいたしましたので、お読みになってください。また後ほど別の物をお持ちいたします」
本をテーブルの上に置くと慌ただしく部屋を出て行った。
仕事の合間にわざわざ持ってきてくれたのだろう。
本のタイトルからして小説のようだが、エヴァンズ王国では見た覚えがない。
私が知らないだけなのか、この国でしか流通していない物なのかはわからないけれど、これでしばらくは時間が潰せる。
本を読む事に没頭していると、徐々に日が暮れてきたようで、窓の外が暗くなってきた。
そろそろエイダが夕食を持ってくる頃合いかしら、と思ったタイミングで扉がノックされた。
「はい」
返事をすると姿を現したのはアラスター王太子だった。
「キャサリン嬢、放ったらかしにしたままで済まない」
入るなり頭を下げるアラスター王太子に私は慌ててかぶりを振る。
「頭を上げてくださいませ。それにエイダに本を持ってきてもらったので、特に退屈はしていません。それに先程ケンブル先生から魔道具を頂いたんです」
私は首に着けたチョーカーをアラスター王太子に見せた。
「ケンブル先生が魔道具を? 随分と早かったんだな。それで、魔道具の効果の程はどうなんだ?」
「ケンブル先生の前で効果を試してみましたけれど、何の問題もありませんでした。これでクシャミをしても大丈夫です」
大丈夫と言っていいのかは疑問だけれど、少なくとも猫から人間に戻った時に裸じゃないのは助かるわね。
「そうか。後でケンブル先生にお礼を言いにいこう。それにしても、キャサリン嬢には謝らないといけない。キャサリン嬢を助けるつもりでこの国に連れてきたはずなのに、こんな軟禁状態にしてしまうなんて。これでは何のためにこの国に連れてきたのか分からなくなってしまった」
ソファーに座ったアラスター王太子はがっくりと打ちひしがれている。
確かにあそこまで国王陛下に拒絶されるとは思っていなかったけれど、一国の国王としては当然の反応だと思う。
「そんなにご自分を責めないでください。怪我をして動けなかった私を助けてくださいましたし、治療もしていただきました。何よりこうして魔道具も作って頂いたんですから、アラスター王太子には感謝しています」
そう言って励ますと、アラスター王太子はようやく頭を上げて私を見つめた。
「ありがとう、キャサリン嬢。頑張ってキャサリン嬢を養女に迎えてくれる貴族を探してみせるからね」
「ありがとうございます。だけどあまり無理をされませんように」
アラスター王太子は私を受け入れてくれる貴族がいると思っているようだけれど、もしかしたら既に国王陛下が手を回しているかもしれない。
私が除籍されたと知っているから、養女として受け入れてくれる貴族を探している事は想定済みだろう。
アラスター王太子が頻繁にエヴァンズ王国に留学していた事をあまり心良く思っていないみたいだから、私を受け入れたくないのかもしれない。
それに四阿で聞いたブリジットの言葉も気になるわ。
『お父様は私の言う事は何でも聞いてくださるの』
この『お父様』とは国王陛下の事だろう。
つまりブリジットがオリヴァーを王太子にするために、アラスター王太子の廃嫡を国王陛下に願うかもしれないって事だ。
万が一、アラスター王太子を廃嫡した場合、その後アラスター王太子をどうするだろう。
国から追い出すか、それとも国益のために何処かに婿に出すか。
「アラスター様、そろそろ夕食の時間です」
後ろに控えていたウォーレンに言われてアラスター王太子は渋々と立ち上がった。
「済まない、キャサリン嬢。それじゃ、また明日」
そう告げるとアラスター王太子はウォーレンと共に出て行った。
私は結局、オリヴァーに会った事を言えないまま、アラスター王太子を見送った。
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