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21 それを言っちゃあお終いよ

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 ブツブツと呟いていたケンブル先生は、何かを思いついたらしく、壁に造り付けられている戸棚から、様々な素材を取り出し始めた。

「あの戸棚には色んな魔獣の素材が収められているんだ。どうやらそれらを使って魔道具を作るつもりのようだ。どうせすぐには出来ないから僕達は一旦ここを離れよう。ケンブル先生の邪魔になってはいけないからね」

 ケンブル先生の助手でもなんでもない私達がここにいても仕方がないのは分かりきっている。

 私達は音を立てないようにそっと『どこでも◯ア』から、アラスター王太子の自室へと戻った。

 そこから私に割り当てられた部屋に戻ろうとした時、部屋の扉がノックされた。

「アラスター王太子、いらっしゃいますか? 陛下がお呼びです。すぐに執務室にいらしてください。お客様もご一緒にとの事です」

 アラスター王太子が私を連れて王宮に戻った事は知られているはずだから、呼び出しがかかるのは当然だろう。

 先程のブリジットが一緒にいるのではないかと、アラスター王太子を見やれば、軽く微笑まれた。

「キャサリン嬢、大丈夫ですよ。執務室にはブリジット様は足を踏み入れませんからね。顔を合わせるのは父上だけになります」

 私の視線の意味に気付いたアラスター王太子がそう言うのならば間違いはないのだろう。

 エイダに身だしなみをチェックされて、私はアラスター王太子と一緒に陛下の執務室に向かう。

 ウォーレンとエイダもついて来てくれるが、執務室の中にまでは入れないそうだ。

 扉の向こうから呼びかけてきた騎士に連れられて、広い王宮の中を進んで行く。 

「陛下、アラスター王太子とお客様をお連れいたしました」

 執務室の扉の前に立っていた騎士によって開かれた扉の中に入ると、奥に座っている陛下が見えた。

 私達が入ってきた事に気付いて顔を上げてこちらを見ている。

 アラスター王太子に似た雰囲気の陛下だけれど、何処となく疲れて見える。

「アラスターか。とりあえずそこに座りなさい」

 陛下に勧められて私とアラスター王太子はソファーへと腰を下ろした。

 陛下も執務机から離れて、私とアラスター王太子の向かいに腰を下ろす。

「学校も卒業したというのに、何かと理由をつけてはエヴァンズ王国に行っているな。おまけにエヴァンズ王国から令嬢を連れて帰ったと聞いたが、本当か?」

「はい。諸事情により、家を追い出されて行く宛もないとの事で、ひとまず私の国に来るようにとお誘いしました」

「諸事情とは何だ? 後でエヴァンズ王国から苦情が来たりする事はないのか?」

 アラスター王太子がチラリと私に視線を寄越したので、私はコクリと頷いた。

 ここで変に隠し立てして、後でバレるよりはきちんと説明していた方が良いだろう。

「はじめまして、国王陛下。このような形でご挨拶する事をお許しください。私はキャサリンと申します。エヴァンズ王国のセドリック王太子と婚約をしておりましたが、セドリック王太子に婚約を解消された挙げ句、家を追い出されました。行く宛もなく彷徨っていた所をアラスター王太子に助けていただいたのです」

 アラスター王太子との打ち合わせ通りに私が猫に変化するのは内緒だ。

「婚約を解消? 理由を聞かせてもらっても良いか?」 

「はい。セドリック王太子は私よりも妹のキャロリンを好きになったそうです」

 国王陛下はやれやれとばかりに首を振っている。

 王太子ともあろう者が、好きな人と結婚したいからと婚約を解消するのは、あり得ないと思っているのだろう。

「何とも羨ましい事だな。私ももっと早くブリジットに会っていれば…。いや、失礼」

 セドリック王太子を非難するどころか、まさかの肯定って。

 それってアラスター王太子のお母様である前王妃様に失礼じゃないのかしら?
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