上 下
50 / 71
番外編

2 王のお願い

しおりを挟む
 その武器をよく見てみると普通の槍ではなくて三叉の矛になっていた。

 あれって確かポセイドンが持っているという武器じゃないかな。

 そうするとこの宮殿の主っていうのはポセイドンの事なのかな。

 人魚のお姉さんの後に続いて扉に近付くと、門番の人魚は一瞬警戒したように矛を構えた。

「王様に言われてお客様を連れてきました」

 お姉さんが声をかけると門番の二人は少し警戒を緩めた。

「そちらが我等の仲間を助けてくれた人間か。王様と王妃様がお待ちかねだぞ。早く行くがいい」

 扉が左右に開くと長い廊下がずっと先まで続いている。

 僕はノワールの背中から降りると、その廊下を人魚のお姉さんの後を付いて歩いていく。

 ノワールは僕が降りるとまた小さくなって、ちゃっかりブロンの背中に乗った。

 レイは相変わらずバタバタと翼を動かして僕達の後を付いてくる。

 廊下の突き当たりにまた扉があって、ここにも二人の男の人魚が立っていた。

 先程の人魚もそうだけど、上半身が裸だから体型が丸わかりなんだよね。

 皆鍛えているようで筋肉隆々で羨ましいくらいだ。

 僕ももう少し鍛えた方がいいのかな。

「お客様をお連れしました」

 門番は頷くとゆっくりとその扉を開いた。

 正面の玉座に二人の人魚が座っているのが見える。

 人魚がこの宮殿の主ならば、ポセイドンではないって事かな。

 玉座の手前には一人の男の人魚が立っている。宰相とかそういった立場の人物のようだ。

 玉座の少し手前まで来ると人魚のお姉さんがうやうやしくお辞儀をした。

「ユーグ様。お客様をお連れしました」

 ユーグと呼ばれたのは玉座の手前に立っている男の人魚だった。

「ご苦労。もう下がっていいぞ」

 人魚のお姉さんはまた一礼すると、この玉座の間から出ていった。

 いきなり置いていかれて、どう対応していいのか困ってしまった。

「あ、あの…、ここは一体?」

 流石に玉座に座っている人魚に直接話しかけるのは憚られるので、ユーグさんに目を向けた。

「これは大変失礼いたしました。アルベール様。本日は私共の仲間を助けて頂き、ありがとうございます。その優しさを見込んでお願いしたい事があり、こちらまでおいで頂きました」

 まだ名乗ってもいないのに僕の名前を言われて非常に驚いた。

 どうして僕の名前がわかったのだろう。

「こちらにおわしますのがベルトラン王とリアーヌ王妃でございます。お二人からぜひアルベール様にお願いしたい事がございます」

 ユーグさんに話を振られたベルトラン王は、おもむろに口を開いた。

「ヴィラルド王国のアルベール王子。突然の招待にも関わらず受けて頂き大変感謝している。どうか儂の願いを聞いては貰えないか?」

 このベルトラン王も上半身裸なので、鍛えているのがよくわかる。

 体型を隠す服がないからこうやって鍛えるしかないのかな。

 まぁ、貧弱な男の体なんてあまり見たくないよね。

 だけどお願いって何だろう?

「はじめまして、アルベールと申します。突然のお招きに驚きましたが、こうやって水中でも呼吸や会話が出来る物を頂き感謝しております。私でお役に立てるのであれば協力させて頂きますが、どんな事でしょうか?」

 半ば強引に連れて来られたとはいえ、こうやって一生水中でも呼吸が出来るという事は、溺れて死ぬ事がないって事だ。

 1歳の時に川で溺れかけた身としては大変有難いことである。

 せめてこれに見合った働きが出来るといいんだけどね。

「お願いというのは他でもない。我が息子、テオドールを探して欲しいのだ」

 ん?

 ベルトラン王の息子って言う事はこの人魚の国の王子って事だよね。

 つまりは人魚だから、わざわざ僕が探さなくても、皆で手分けして探せばいいのにどうして人間の僕に頼むんだろう?

「テオドール王子てすか? その方も人魚ですよね。この海の中にいらっしゃるのですか?」

 すると今まで黙っていたリアーヌ王妃がかぶりを振った。

「いいえ! あの子は陸地へ上がってしまったのです!」

 人魚が陸地に上がる?

 そんな事が出来るんだろうか?

 大体、二本足がなくて魚のヒレが付いているんだから、陸地は歩けないよね。

 おとぎ話の人魚姫だって魔法使いのお婆さんに薬を貰ってヒレを人間の足に変えたんだし…。

「陸地へ上がったと言う事はヒレではなくて人間の足を手に入れたって事ですか?」

 僕がそう言った途端、リアーヌ王妃は堪えきれずにわっと泣き出した。

 何だ? 何故泣かないといけないんだろう?

「テオドールは人間の世界に憧れていた。だがあれはこの国の次期後継者だ。人間の世界にやるわけにはいかない。だが、儂の後釜を狙う人魚に唆され、人間になる薬を飲んでしまった。そしてこの宮殿から出ていってしまったのだ」

 その人魚は捕まって処刑されたが、死ぬ間際に恐ろしい事を言ったそうだ。

「テオドールに飲ませた薬は不完全な物で一年しか持たないらしい。一刻も早く解毒剤を飲ませないとあいつは消滅してしまうのだ」

 探しに行きたいが、人間になる薬が出来上がるのがあと半年以上はかかると言う。

 絶望しそうになった時に僕が亀を助けた事で、僕に助けを求めたという訳だ。

「お話はわかりましたが、僕はテオドール王子の顔を知りませんが…」

「それならば心配はない」 

 そう言ってベルトラン王は僕に何かを差し出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

成長促進と願望チートで、異世界転生スローライフ?

後藤蓮
ファンタジー
20年生きてきて不幸なことしかなかった青年は、無職となったその日に、女子高生二人を助けた代償として、トラックに轢かれて死んでしまう。 目が覚めたと思ったら、そこは知らない場所。そこでいきなり神様とか名乗る爺さんと出会い、流れで俺は異世界転生することになった。 日本で20年生きた人生は運が悪い人生だった。来世は運が良くて幸せな人生になるといいな..........。 そんな思いを胸に、神様からもらった成長促進と願望というチートスキルを持って青年は異世界転生する。 さて、新しい人生はどんな人生になるのかな? ※ 第11回ファンタジー小説大賞参加してます 。投票よろしくお願いします! ◇◇◇◇◇◇◇◇ お気に入り、感想貰えると作者がとても喜びますので、是非お願いします。 執筆スピードは、ゆるーくまったりとやっていきます。 ◇◇◇◇◇◇◇◇ 9/3 0時 HOTランキング一位頂きました!ありがとうございます! 9/4 7時 24hランキング人気・ファンタジー部門、一位頂きました!ありがとうございます!

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

異世界で魔法使いとなった俺はネットでお買い物して世界を救う

馬宿
ファンタジー
30歳働き盛り、独身、そろそろ身を固めたいものだが相手もいない そんな俺が電車の中で疲れすぎて死んじゃった!? そしてらとある世界の守護者になる為に第2の人生を歩まなくてはいけなくなった!? 農家育ちの素人童貞の俺が世界を守る為に選ばれた!? 10個も願いがかなえられるらしい! だったら異世界でもネットサーフィンして、お買い物して、農業やって、のんびり暮らしたいものだ 異世界なら何でもありでしょ? ならのんびり生きたいな 小説家になろう!にも掲載しています 何分、書きなれていないので、ご指摘あれば是非ご意見お願いいたします

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・

マーラッシュ
ファンタジー
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。