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92 ファーストダンス
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アンジェリカの笑みにカチンときたけれど、ここで不機嫌な顔を見せるわけにはいかない。
私は笑みを崩さないまま、通り過ぎて行く二人を見送った。
二人は招待客の中を練り歩き、中央のステージにある椅子へと辿り着いた。
ハミルトンはアンジェリカをその椅子に座らせると、その場から離れようとしたが、アンジェリカはハミルトンの腕を引っ張って椅子の横に立たせた。
二人の後を付いて歩いていた父親が少し困ったような顔をしていたが、結局は娘のするがままにさせていた。
「皆様、本日は娘の為にお集まりいただきありがとうございます。娘のアンジェリカも十五歳になり、こうして社交界にデビューする事になりました。どうぞよろしくお願いします」
父親であるフォスター侯爵の挨拶の後で、アンジェリカはハミルトンに手を差し出していた。
ハミルトンは少し躊躇った素振りをしていたが、主役であるアンジェリカに恥をかかせてはまずいと思ったのか、彼女の手を取って立ち上がらせた。
アンジェリカは満足そうに微笑むと、会場の招待客に向かってカーテシーをした。
「本日はお集まりいただきありがとうございます。不慣れな点もあると思いますけど、どうかよろしくお願いしますね」
彼女の挨拶に招待客から一斉に拍手が送られる。
勿論、私もそのうちの一人ではあるけれど、正直に言ってあまり面白くない。
アンジェリカは挨拶を終えると後ろに立っているハミルトンに何やら話しかけている。
ハミルトンが少し驚いた顔をしてフォスター侯爵の顔を見たが、フォスター侯爵は諦めたような表情で軽く頷いた。
アンジェリカがハミルトンに何を言ったのかはすぐに判明した。
この後のファーストダンスの相手がハミルトンだったのだ。
皆が見守る中、音楽が始まり、アンジェリカとハミルトンが踊りだした。
満面の笑みを浮かべて踊っているアンジェリカと、貼り付けたような笑顔で踊っているハミルトンを見て私はふうっとため息をついた。
「フォスター侯爵家はパトリシア夫人の実家だからね。アンジェリカはハミルトンの従姉妹なんだよ」
いつの間にか私の隣に来ていたお兄様がこっそりと教えてくれた。
だから「ハミルトンお兄様」と呼んでいたのね。
「アンジェリカ嬢はフォスター侯爵家の一人娘でね。上に男の子が四人もいてようやく生まれた女の子だからフォスター侯爵が溺愛しているんだ」
だからフォスター侯爵はアンジェリカがファーストダンスをハミルトンと踊る事にしても文句も言わずに許しているのね。
それでもハミルトンも断ろうと思えば出来そうなのにどうして断らないのかしら?
私のそんな疑問にもお兄様は答えてくれる。
「アシェトン公爵家はダグラスが居なくなっていただろう。パトリシア夫人が代わりに次期公爵としての仕事をこなしていた。それでハミルトンの面倒をフォスター侯爵家が時々見ていたらしいんだ。だからハミルトンも断れないんだろう。それにアンジェリカ嬢を妹のように可愛がっていたからね」
ハミルトンがお世話になったフォスター侯爵家の人達を無下に出来ないのはわかるけれど、それでもどこか納得のいかない自分がいる。
アンジェリカはハミルトンと私が一緒にいた事に気付いていたはずだ。
だからこそ、私に向かってあんな顔をして見せたんだわ。
名前は天使でも、子悪魔のような態度を取るアンジェリカを私はじっと見つめる。
アンジェリカは時折ハミルトンに話しかけては楽しそうに踊っている。
ようやく曲が終わり、アンジェリカとハミルトンはお辞儀をして椅子の所に戻って行った。
次の曲は自由に参加出来るため、お兄様はセシリアと一緒に踊りに行ってしまった。
私もハミルトンと踊りたいのに、ハミルトンは一向にこちらに戻ってこない。
向こうに目をやるとハミルトンが手渡した飲み物を嬉しそうに受け取っているアンジェリカが目に入った。
このままずっとアンジェリカはハミルトンを独占するつもりなのかしら?
私は軽く息を吐くと、踊っているお兄様とセシリアをぼんやりと眺めた。
私は笑みを崩さないまま、通り過ぎて行く二人を見送った。
二人は招待客の中を練り歩き、中央のステージにある椅子へと辿り着いた。
ハミルトンはアンジェリカをその椅子に座らせると、その場から離れようとしたが、アンジェリカはハミルトンの腕を引っ張って椅子の横に立たせた。
二人の後を付いて歩いていた父親が少し困ったような顔をしていたが、結局は娘のするがままにさせていた。
「皆様、本日は娘の為にお集まりいただきありがとうございます。娘のアンジェリカも十五歳になり、こうして社交界にデビューする事になりました。どうぞよろしくお願いします」
父親であるフォスター侯爵の挨拶の後で、アンジェリカはハミルトンに手を差し出していた。
ハミルトンは少し躊躇った素振りをしていたが、主役であるアンジェリカに恥をかかせてはまずいと思ったのか、彼女の手を取って立ち上がらせた。
アンジェリカは満足そうに微笑むと、会場の招待客に向かってカーテシーをした。
「本日はお集まりいただきありがとうございます。不慣れな点もあると思いますけど、どうかよろしくお願いしますね」
彼女の挨拶に招待客から一斉に拍手が送られる。
勿論、私もそのうちの一人ではあるけれど、正直に言ってあまり面白くない。
アンジェリカは挨拶を終えると後ろに立っているハミルトンに何やら話しかけている。
ハミルトンが少し驚いた顔をしてフォスター侯爵の顔を見たが、フォスター侯爵は諦めたような表情で軽く頷いた。
アンジェリカがハミルトンに何を言ったのかはすぐに判明した。
この後のファーストダンスの相手がハミルトンだったのだ。
皆が見守る中、音楽が始まり、アンジェリカとハミルトンが踊りだした。
満面の笑みを浮かべて踊っているアンジェリカと、貼り付けたような笑顔で踊っているハミルトンを見て私はふうっとため息をついた。
「フォスター侯爵家はパトリシア夫人の実家だからね。アンジェリカはハミルトンの従姉妹なんだよ」
いつの間にか私の隣に来ていたお兄様がこっそりと教えてくれた。
だから「ハミルトンお兄様」と呼んでいたのね。
「アンジェリカ嬢はフォスター侯爵家の一人娘でね。上に男の子が四人もいてようやく生まれた女の子だからフォスター侯爵が溺愛しているんだ」
だからフォスター侯爵はアンジェリカがファーストダンスをハミルトンと踊る事にしても文句も言わずに許しているのね。
それでもハミルトンも断ろうと思えば出来そうなのにどうして断らないのかしら?
私のそんな疑問にもお兄様は答えてくれる。
「アシェトン公爵家はダグラスが居なくなっていただろう。パトリシア夫人が代わりに次期公爵としての仕事をこなしていた。それでハミルトンの面倒をフォスター侯爵家が時々見ていたらしいんだ。だからハミルトンも断れないんだろう。それにアンジェリカ嬢を妹のように可愛がっていたからね」
ハミルトンがお世話になったフォスター侯爵家の人達を無下に出来ないのはわかるけれど、それでもどこか納得のいかない自分がいる。
アンジェリカはハミルトンと私が一緒にいた事に気付いていたはずだ。
だからこそ、私に向かってあんな顔をして見せたんだわ。
名前は天使でも、子悪魔のような態度を取るアンジェリカを私はじっと見つめる。
アンジェリカは時折ハミルトンに話しかけては楽しそうに踊っている。
ようやく曲が終わり、アンジェリカとハミルトンはお辞儀をして椅子の所に戻って行った。
次の曲は自由に参加出来るため、お兄様はセシリアと一緒に踊りに行ってしまった。
私もハミルトンと踊りたいのに、ハミルトンは一向にこちらに戻ってこない。
向こうに目をやるとハミルトンが手渡した飲み物を嬉しそうに受け取っているアンジェリカが目に入った。
このままずっとアンジェリカはハミルトンを独占するつもりなのかしら?
私は軽く息を吐くと、踊っているお兄様とセシリアをぼんやりと眺めた。
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