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84 憑依
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黒い影はふわふわと漂っていたが、徐々に顔の部分があらわになっていく。
そこに現れた顔はやはりミランダだった。
「チィッ! 失敗したか! エリックの目の前で息子と娘の命を奪ってやろうと思ったのにとんだ邪魔が入りおった。次こそは必ず仕留めてやる…」
そう言い残してミランダの影がフッと消えた。
「今のはミランダ? 一体どういう事ですか?」
宰相が驚いた表情でお父様に詰め寄っている。
どうやら昨日の騒動はまだ宰相には伝わっていなかったようだ。
「ブライアン、落ち着け。後で報告するつもりだったが、昨夜ミランダがフェリシアを襲ってきたのでユージーンが返り討ちにしたのだ。あまりにもあっけない幕切れに少し拍子抜けしたのだが、どうやら他にも何か企んでいたようだな」
お父様の言う通り、いくらお兄様に胸を一突きにされたとはいえ、こんなにも早く死んでしまうのかと訝しく思っていたけれど、あの時ミランダは何かを仕掛けてたのね。
だけど一体何を仕掛けたのかしら?
そういえばあの影が最初に見えたのはお兄様の後ろだったわ。
だとしたらお兄様に憑依した?
それはないわね。
お兄様に憑依したのならば、そのままお兄様を使って私を殺してしまえばいいんだもの。
そのままお兄様を自害させれば、狂った王子が王女を殺して自らも死んだ、と見せかけられるものね。
それならばミランダの魂は別の所にある事になるけれど、一体何処にあるのかしら?
あの廊下でミランダが魂を憑依させられるような物なんて無かったような…。
そこまで考えて私はハッとした。
あの時、ミランダは何処からかあの剣を出してきた。
つまりあの剣はミランダが準備した物だわ。
お兄様に剣を持たせた時点で返り討ちに合う事を想定していたのならば、あの剣に何か仕掛けがあるのかもしれない。
「お父様、お兄様。昨夜の剣はどうされました?」
考え込んでいた私がいきなり声を発したので、お父様とお兄様だけでなく宰相までもが驚いている。
そんなにびっくりさせたかしら?
「い、いきなりどうした? 昨夜の剣? それならばユージーンが保管したはずだが?」
お父様に話を振られてお兄様は「ああ」と思い出したように話を続けた。
「あの剣ならば私の部屋に保管してあるが、何か問題でもあるのか?」
今のミランダの影を見ても何も感じなかったのかしら?
お兄様の口調は随分とのんびりしたものに聞こえた。
だけど早くその剣を処分してしまわないと、また何を仕掛けてくるかわかったものではない。
「お兄様、とりあえずその剣を見せてください。どうやらミランダの魂がその剣に憑依しているかもしれないのです」
私の指摘にお父様達はようやく事の重大さがわかったようだ。
「ミランダの魂があの剣に憑依している? にわかには信じ難いが、先程現れたミランダの影を思えばあり得ない事ではないかもしれんな。ユージーン、案内してくれ」
「わかりました。僕の部屋に行きましょう」
そう言いながらお兄様は私に手を差し出して来た。
少し遅れてお父様までもが私に手を差し出してくる。
こんな場面でも私のエスコート役を取り合うなんて、どういう反応をすればいいのかしら。
対処に困って宰相に助けを求めようと顔を見れば、少し肩をすくめて首を振られた。
どうやら宰相も既に匙を投げているみたいね。
私は諦めて二人に手を引かれて歩き出した。
ホールの扉を出た所でアガサが待機していたが、私の姿を見て走り寄ってきた。
「フェリシア様、お怪我はありませんか?」
どうやらホールでの騒ぎを見ていたようだが、呼ばれないのにホールに足を踏み入れる事は出来なくてやきもきしていたらしい。
「私は大丈夫よ。ハミルトン様が助けてくださったもの」
アガサはホッと安堵すると、私達の後ろから付いてきた。
お兄様の部屋の前に到着すると、部屋の中から妙に禍々しい空気が漂っているように見える。
お兄様はゴクリと唾を飲み込むと取っ手に手をかけた。
そこに現れた顔はやはりミランダだった。
「チィッ! 失敗したか! エリックの目の前で息子と娘の命を奪ってやろうと思ったのにとんだ邪魔が入りおった。次こそは必ず仕留めてやる…」
そう言い残してミランダの影がフッと消えた。
「今のはミランダ? 一体どういう事ですか?」
宰相が驚いた表情でお父様に詰め寄っている。
どうやら昨日の騒動はまだ宰相には伝わっていなかったようだ。
「ブライアン、落ち着け。後で報告するつもりだったが、昨夜ミランダがフェリシアを襲ってきたのでユージーンが返り討ちにしたのだ。あまりにもあっけない幕切れに少し拍子抜けしたのだが、どうやら他にも何か企んでいたようだな」
お父様の言う通り、いくらお兄様に胸を一突きにされたとはいえ、こんなにも早く死んでしまうのかと訝しく思っていたけれど、あの時ミランダは何かを仕掛けてたのね。
だけど一体何を仕掛けたのかしら?
そういえばあの影が最初に見えたのはお兄様の後ろだったわ。
だとしたらお兄様に憑依した?
それはないわね。
お兄様に憑依したのならば、そのままお兄様を使って私を殺してしまえばいいんだもの。
そのままお兄様を自害させれば、狂った王子が王女を殺して自らも死んだ、と見せかけられるものね。
それならばミランダの魂は別の所にある事になるけれど、一体何処にあるのかしら?
あの廊下でミランダが魂を憑依させられるような物なんて無かったような…。
そこまで考えて私はハッとした。
あの時、ミランダは何処からかあの剣を出してきた。
つまりあの剣はミランダが準備した物だわ。
お兄様に剣を持たせた時点で返り討ちに合う事を想定していたのならば、あの剣に何か仕掛けがあるのかもしれない。
「お父様、お兄様。昨夜の剣はどうされました?」
考え込んでいた私がいきなり声を発したので、お父様とお兄様だけでなく宰相までもが驚いている。
そんなにびっくりさせたかしら?
「い、いきなりどうした? 昨夜の剣? それならばユージーンが保管したはずだが?」
お父様に話を振られてお兄様は「ああ」と思い出したように話を続けた。
「あの剣ならば私の部屋に保管してあるが、何か問題でもあるのか?」
今のミランダの影を見ても何も感じなかったのかしら?
お兄様の口調は随分とのんびりしたものに聞こえた。
だけど早くその剣を処分してしまわないと、また何を仕掛けてくるかわかったものではない。
「お兄様、とりあえずその剣を見せてください。どうやらミランダの魂がその剣に憑依しているかもしれないのです」
私の指摘にお父様達はようやく事の重大さがわかったようだ。
「ミランダの魂があの剣に憑依している? にわかには信じ難いが、先程現れたミランダの影を思えばあり得ない事ではないかもしれんな。ユージーン、案内してくれ」
「わかりました。僕の部屋に行きましょう」
そう言いながらお兄様は私に手を差し出して来た。
少し遅れてお父様までもが私に手を差し出してくる。
こんな場面でも私のエスコート役を取り合うなんて、どういう反応をすればいいのかしら。
対処に困って宰相に助けを求めようと顔を見れば、少し肩をすくめて首を振られた。
どうやら宰相も既に匙を投げているみたいね。
私は諦めて二人に手を引かれて歩き出した。
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お兄様の部屋の前に到着すると、部屋の中から妙に禍々しい空気が漂っているように見える。
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