【完結】フェリシアの誤算

伽羅

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83 ハミルトンの救出

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 ハミルトンはその両足をシャンデリアに押しつぶされていた。

 私は驚きのあまり、すぐには動けずにいたが、お兄様は素早くハミルトンの元に駆け寄った。

 私も慌てて後を追うとお兄様の隣に跪いた。

「ハミルトン、しっかりしろ!」

「ハミルトン様!」

 私とお兄様の呼びかけに「ウウッ!」と呻き声をあげていたハミルトンがゆっくりと顔をあげた。

「…フェリシア様… …ユージーン… ご無事…ですか…」

 途切れ途切れに問いかけるハミルトンにお兄様は何度も頷いた。

「ああ、ハミルトンが身を呈してくれたお陰でかすり傷一つない。礼を言うぞ」

「ハミルトン様、ありがとうございます。今すぐに助け出してもらえますからね。もうしばらくご辛抱ください」

 私とお兄様が無事だと知るとハミルトンはホッとした顔をしたが、すぐにその表情は苦痛で歪めた。

 シャンデリアの下敷きになっている足からはジワジワと血が流れてホールの床を濡らしていく。

「すぐに魔術師を呼べ! ハミルトンの傷を回復させるんだ! 騎士達はあのシャンデリアを退けてハミルトンを救い出せ!」

 お父様の命令ですぐに侍従の一人が魔術師団棟に走って行った。

 警備にあたっていた騎士が数人、シャンデリアを退かそうとしている。

 騒然としているホールの貴族達にお父様は声を張り上げた。

「せっかくのパーティーの場がこんな事になって申し訳ない。本日はこれでお開きにしよう」

 貴族達は気遣わしそうな目を私達やハミルトンに向けると、一礼をして一人また一人とホールから退出して行った。

 騎士達がシャンデリアを持ち上げて、ハミルトンの身体を移動させた。

 下敷きになっていたハミルトンの足は血まみれで所々にガラスの破片が突き刺さっている。

「ハミルトン! しっかりして!」 

 うつ伏せになったまま、呻いているハミルトンの側にパトリシアが跪いて声をかけている。

 お祖父様も車椅子に座ったまま、厳しい表情で歯噛みをしている。

 もっと近寄って声をかけたいのに車椅子に座っている事で思うようにいかないのが悔しいのだろう。

 騎士達がハミルトンの足に突き刺さったガラス片を一つずつ丁寧に抜いているが、その度にハミルトンの顔は苦痛に歪んでいた。

 やがてドヤドヤと数人の魔術師がホールの中へと入って来た。

「国王陛下、これは一体…」

 あまりの惨状に絶句していた魔術師達だったが、床に横たわっているハミルトンを見て、自分達が何をすべきか察したようだ。

 数人の魔術師がハミルトンを取り囲んで呪文を唱え始めた。

 まばゆい光がハミルトンを包んだかと思うと、その光が消えた時にはハミルトンの足は元通りの綺麗な状態になっていた。

 苦痛に歪んでいたハミルトンの顔も安堵した表情になったが、すぐに意識を失った。

「ハミルトン?」

 まさか死んでしまったんじゃないでしょうね?

「ご安心くださいませ。意識を失っただけです。傷は治っても失われた血は取り戻せませんので、しばらくは養生が必要です」

 魔術師の一人に告げられて私達はホッと胸を撫で下ろした。

「このまま置いておくわけにはまいりません。何処かベッドに寝かせないと…」

 私が提案すると、先程まで使っていたアシェトン公爵家の控室に運ぶ事になった。

 騎士達がハミルトンの身体を抱えて運ぼうとしているのを見て思わず首を傾げた。

「あら? 担架はありませんの?」

「担架? 何だ、それは?」

 お兄様に怪訝な顔をされて、この世界には担架が存在しない事に気付いた。
 
 魔術師の人達がいるんだから、担架くらい作れるかも。

「同じ長さの棒二本に布を張って、人を寝かせて運ぶ物です。魔術師の方、作ってもらえるかしら?」

 私が尋ねると一人の魔術師が「私がやりましょう」と手を挙げてくれた。

 私の注文通りに魔術師が担架を作ってくれた。

 その担架に乗せられてハミルトンがアシェトン公爵家の控室へと連れ出される。

 パトリシアとお祖父様もそれに付き添って行ってしまった。

 この場に残されたのは私達と宰相の四人だけになってしまった。

「申し訳ありません、フェリシア様。せっかくのお披露目がとんでもない事になってしまいました。早急にシャンデリアが落ちた原因を調査いたします」

 宰相が深々と頭を下げてくるが、決して宰相が悪い訳ではないと思う。

 何か言おうと口を開きかけた時、落ちたシャンデリアの上に黒い影が浮いているのが見えた。

 
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