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65 埋葬
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「ヒッ!」
思わず叫びそうになり、慌てて口を抑えて一歩後ろに下がった。
ここで私が叫んで葬儀を中断させてしまったら大変だ。
呼吸を整えて棺に近寄り、こわごわともう一度王妃様の顔を見つめた。
けれど開いていたはずの王妃様の目は固く閉ざされていた。
…さっきのは私の見間違いだったのだろうか?
いくらなんでも王妃様が生きているわけがない。
何とか体裁を取り繕うと私は震える声でお別れの言葉を述べた。
「どうか安らかにお眠りください」
それだけを告げると私は足早に自分の席へと戻る。
私の様子がおかしかった事に気付いたお父様とお兄様が問いかけるような視線を私に向ける。
今ここで話すわけにもいかないので私は軽く首を振って席に着いた。
私の後にお父様と同じくらいの歳の男性が献花に向かった。
ロジャーが近くにいたからあれが王妃様の兄のハリントン侯爵なのだろう。
その後にアシェトン公爵家の番になりパトリシアとハミルトンが順に続いた。
ハミルトンも私の異変に気付いたらしく、献花を終えて戻る際に私に心配そうな視線を投げてきた。
私は軽く微笑んで見せたけれど、気がついてくれたかしら?
身内の貴族の献花が終わると他の貴族達は数人ずつまとまっての献花になった。
やがてひと通り献花が終わると棺の蓋が閉ざされた。
これから教会の裏手にある王家の墓地に埋葬されるのだという。
棺が騎士達の手によって抱えて運ばれる後ろを私達はついて歩く。
「フェリシア、何があったんだ?」
お兄様に小声で聞かれて私は躊躇いつつも先程見た事を話した。
「…王妃様の目が開いているように見えたんです」
「なんだって!?」
思わず大声を出してしまったお兄様が慌てて口を閉ざした。
軽く咳払いをして誤魔化すと、声をひそめて私に語りかける。
「見間違いじゃないのか? 母上は確かに亡くなっている。第一生きているのなら棺に入っているはずがないだろう」
「私もそう思います。今日初めてお顔を見た方だからきっと見間違えたんですわ」
お兄様と小声でやり取りをしながら棺の後を歩いていると、前方に一人の女性がいる事に気がついた。
彼女は王妃様の棺にぴったりと寄り添うように歩いている。
…あんな人いたかしら?
献花を捧げる人達を見ていたけれど、その中に彼女の姿はなかったように思う。
「ねぇ、お兄様。あの方はどなた?」
私と並んで歩くお兄様に耳打ちをすると、お兄様は「ああ」と気のない返事をする。
「彼女は母上の侍女だったミランダだよ。何事においても母上至上主義でね。彼女の事を『使用人の鑑』と言う貴族もいたけど僕はそうは思わないな」
「あら、どうしてですか?」
「彼女は母上が父上に執着するのを諌めないばかりか逆に焚き付けたりしていたんだ。『逆効果だから』と自重させればいいのにそれをしないんだからな。だから父上はミランダをも敬遠していたよ」
「まあ、そんな事が…」
「主人の言う事を聞くばかりが使用人の仕事じゃない。間違っている事はちゃんと指摘する事も大事だと思っている」
…確かに、お父様とお兄様が暴走するのをブライアンが手綱を引いているみたいだしね。
やがて私達は王家の墓地へと到着した。
この一角に掘られた穴に棺が納められるという。
魔術師達によって浮かび上がった棺が今ゆっくりと地中に下ろされる。
騎士達がスコップで棺の上に土をかけていくと、徐々に棺は見えなくなっていった。
その上に立てられた墓標を前に司祭様がもう一度お祈りを捧げられた。
墓標を眺めていると、ミランダが不意にこちらを振り返った。
その能面のような表情のない顔が、私を目に留めた途端、ニヤリと口を歪ませた。
私はその視線を受けて確信した。
あの別邸に通じる扉の所で感じた視線は彼女だ、と。
思わず叫びそうになり、慌てて口を抑えて一歩後ろに下がった。
ここで私が叫んで葬儀を中断させてしまったら大変だ。
呼吸を整えて棺に近寄り、こわごわともう一度王妃様の顔を見つめた。
けれど開いていたはずの王妃様の目は固く閉ざされていた。
…さっきのは私の見間違いだったのだろうか?
いくらなんでも王妃様が生きているわけがない。
何とか体裁を取り繕うと私は震える声でお別れの言葉を述べた。
「どうか安らかにお眠りください」
それだけを告げると私は足早に自分の席へと戻る。
私の様子がおかしかった事に気付いたお父様とお兄様が問いかけるような視線を私に向ける。
今ここで話すわけにもいかないので私は軽く首を振って席に着いた。
私の後にお父様と同じくらいの歳の男性が献花に向かった。
ロジャーが近くにいたからあれが王妃様の兄のハリントン侯爵なのだろう。
その後にアシェトン公爵家の番になりパトリシアとハミルトンが順に続いた。
ハミルトンも私の異変に気付いたらしく、献花を終えて戻る際に私に心配そうな視線を投げてきた。
私は軽く微笑んで見せたけれど、気がついてくれたかしら?
身内の貴族の献花が終わると他の貴族達は数人ずつまとまっての献花になった。
やがてひと通り献花が終わると棺の蓋が閉ざされた。
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棺が騎士達の手によって抱えて運ばれる後ろを私達はついて歩く。
「フェリシア、何があったんだ?」
お兄様に小声で聞かれて私は躊躇いつつも先程見た事を話した。
「…王妃様の目が開いているように見えたんです」
「なんだって!?」
思わず大声を出してしまったお兄様が慌てて口を閉ざした。
軽く咳払いをして誤魔化すと、声をひそめて私に語りかける。
「見間違いじゃないのか? 母上は確かに亡くなっている。第一生きているのなら棺に入っているはずがないだろう」
「私もそう思います。今日初めてお顔を見た方だからきっと見間違えたんですわ」
お兄様と小声でやり取りをしながら棺の後を歩いていると、前方に一人の女性がいる事に気がついた。
彼女は王妃様の棺にぴったりと寄り添うように歩いている。
…あんな人いたかしら?
献花を捧げる人達を見ていたけれど、その中に彼女の姿はなかったように思う。
「ねぇ、お兄様。あの方はどなた?」
私と並んで歩くお兄様に耳打ちをすると、お兄様は「ああ」と気のない返事をする。
「彼女は母上の侍女だったミランダだよ。何事においても母上至上主義でね。彼女の事を『使用人の鑑』と言う貴族もいたけど僕はそうは思わないな」
「あら、どうしてですか?」
「彼女は母上が父上に執着するのを諌めないばかりか逆に焚き付けたりしていたんだ。『逆効果だから』と自重させればいいのにそれをしないんだからな。だから父上はミランダをも敬遠していたよ」
「まあ、そんな事が…」
「主人の言う事を聞くばかりが使用人の仕事じゃない。間違っている事はちゃんと指摘する事も大事だと思っている」
…確かに、お父様とお兄様が暴走するのをブライアンが手綱を引いているみたいだしね。
やがて私達は王家の墓地へと到着した。
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墓標を眺めていると、ミランダが不意にこちらを振り返った。
その能面のような表情のない顔が、私を目に留めた途端、ニヤリと口を歪ませた。
私はその視線を受けて確信した。
あの別邸に通じる扉の所で感じた視線は彼女だ、と。
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