58 / 98
58 夕食の席で
しおりを挟む
食事中に誰かがお父様とお兄様を呼びに来るかも、と思っていたけれどそんな事もなく淡々と食事が進んでいく。
「ドレスの注文は滞りなく終わったようだね。宝飾品も選び終わったと公爵夫人から報告を受けているよ」
食後のお茶を飲みながら、お父様がニコニコと私に笑いかける。
「はい。叔母様に来て頂いて大変助かりました。お父様が呼んでくださったのですか?」
「ああ。王宮にはフェリシアに寄り添えるような女性がいないからね。アガサに世話を頼んでいるが、ドレスやアクセサリーを選ぶような立場の人間ではないだろう? 数日とはいえ、フェリシアと一緒に過ごした公爵夫人の方が適任だと思ったんだ」
その言葉の裏には亡くなった王妃様の事も含まれているのだろう。
万が一、王妃様が生きているうちに私が見つかったら、王妃様は全力で私を拒否したに違いないものね。
「公爵夫人に渡した手紙には『ハミルトンには内緒で』って書き加えておいたんだ。僕が一緒にいられないのに、あいつだけフェリシアと一緒にいるのは癪に障るからね」
…なるほど。
ハミルトンのお留守番はパトリシアだけでなく、お兄様の策略でもあったわけね。
「そういえば、叔母様から聞いたのですが、私のお披露目を二週間後に行うと言うのは本当ですか?」
何も聞かされていないという抗議の意味を込めて尋ねてみれば、お父様は少し渋ったような顔をした。
「ああ、そうだ。本当はもう少し早くしたかったのだが、王妃の葬儀がまだ終わっていないからな。ブライアンが許してくれなかったんだよ」
「僕だって早くフェリシアを皆に紹介したいんだけれど、こればっかりは仕方がないよね。だけどフェリシアをお披露目すると、結婚の申し込みが殺到しそうでちょっと嫌だな」
お父様とお兄様の会話を聞いて私は頭を抱えたくなった。
いくら仲が悪かったとはいえ、お父様にとっては自分の妻であり、お兄様にとっては実の母親なのに、どうしてそんなにも冷たい対応が出来るんだろう。
会った事もないし、顔も知らない王妃様だけれど、夫と息子にここまで嫌われている事に同情したくなった。
「お父様もお兄様も、亡くなられた方に対してあまりにも冷た過ぎではありませんか? 私がその方なら化けて出たくなりますよ」
私の強い口調にお父様とお兄様はちょっとバツが悪そうな顔をした。
「すまない。フェリシアを不快にさせるつもりはなかったんだ。私にも非があったとはいえ、アイリスを追放した王妃には不満を持っていたからね。だけど亡くなった人の事をいつまでもとやかく言うのはやめないといけないな」
「ごめんよ、フェリシア。僕も母上に対して不満があったんだ。だけどそれは結局僕に見向きもしない母上にただ反発していただけなのかもしれない。僕に愛情はなかったにしても、僕を産んでくれた事には感謝をしなくてはいけないな」
お父様とお兄様が反省の弁を口にした事で、私の気持ちも少しは収まった。
「お二人の気持ちはわかりました。私の事を大事に思ってくださるのは嬉しいけれど、その何分の一かでも王妃様の事を思ってあげてください。お父様、私も葬儀に参列してよろしいですか?」
お父様は一瞬、目をパチクリとさせたが、すぐにコクリと頷いた。
「フェリシアが参列したいのならば構わないぞ。葬儀用のドレスも追加するように伝えておこう」
お父様が視線を向けた先にはアガサが立っていた。
アガサは「承りました」とばかりに頭を下げている。
明日の朝には仕立て屋に連絡が行って、速攻で葬儀用のドレスを仕立てるようになるのだろう。
…余計な仕事を増やしてしまったみたいね。参列するって言わなきゃよかったかしら?
私は心の中で手を合わせて仕立て屋さんに謝罪しておいた。
「ドレスの注文は滞りなく終わったようだね。宝飾品も選び終わったと公爵夫人から報告を受けているよ」
食後のお茶を飲みながら、お父様がニコニコと私に笑いかける。
「はい。叔母様に来て頂いて大変助かりました。お父様が呼んでくださったのですか?」
「ああ。王宮にはフェリシアに寄り添えるような女性がいないからね。アガサに世話を頼んでいるが、ドレスやアクセサリーを選ぶような立場の人間ではないだろう? 数日とはいえ、フェリシアと一緒に過ごした公爵夫人の方が適任だと思ったんだ」
その言葉の裏には亡くなった王妃様の事も含まれているのだろう。
万が一、王妃様が生きているうちに私が見つかったら、王妃様は全力で私を拒否したに違いないものね。
「公爵夫人に渡した手紙には『ハミルトンには内緒で』って書き加えておいたんだ。僕が一緒にいられないのに、あいつだけフェリシアと一緒にいるのは癪に障るからね」
…なるほど。
ハミルトンのお留守番はパトリシアだけでなく、お兄様の策略でもあったわけね。
「そういえば、叔母様から聞いたのですが、私のお披露目を二週間後に行うと言うのは本当ですか?」
何も聞かされていないという抗議の意味を込めて尋ねてみれば、お父様は少し渋ったような顔をした。
「ああ、そうだ。本当はもう少し早くしたかったのだが、王妃の葬儀がまだ終わっていないからな。ブライアンが許してくれなかったんだよ」
「僕だって早くフェリシアを皆に紹介したいんだけれど、こればっかりは仕方がないよね。だけどフェリシアをお披露目すると、結婚の申し込みが殺到しそうでちょっと嫌だな」
お父様とお兄様の会話を聞いて私は頭を抱えたくなった。
いくら仲が悪かったとはいえ、お父様にとっては自分の妻であり、お兄様にとっては実の母親なのに、どうしてそんなにも冷たい対応が出来るんだろう。
会った事もないし、顔も知らない王妃様だけれど、夫と息子にここまで嫌われている事に同情したくなった。
「お父様もお兄様も、亡くなられた方に対してあまりにも冷た過ぎではありませんか? 私がその方なら化けて出たくなりますよ」
私の強い口調にお父様とお兄様はちょっとバツが悪そうな顔をした。
「すまない。フェリシアを不快にさせるつもりはなかったんだ。私にも非があったとはいえ、アイリスを追放した王妃には不満を持っていたからね。だけど亡くなった人の事をいつまでもとやかく言うのはやめないといけないな」
「ごめんよ、フェリシア。僕も母上に対して不満があったんだ。だけどそれは結局僕に見向きもしない母上にただ反発していただけなのかもしれない。僕に愛情はなかったにしても、僕を産んでくれた事には感謝をしなくてはいけないな」
お父様とお兄様が反省の弁を口にした事で、私の気持ちも少しは収まった。
「お二人の気持ちはわかりました。私の事を大事に思ってくださるのは嬉しいけれど、その何分の一かでも王妃様の事を思ってあげてください。お父様、私も葬儀に参列してよろしいですか?」
お父様は一瞬、目をパチクリとさせたが、すぐにコクリと頷いた。
「フェリシアが参列したいのならば構わないぞ。葬儀用のドレスも追加するように伝えておこう」
お父様が視線を向けた先にはアガサが立っていた。
アガサは「承りました」とばかりに頭を下げている。
明日の朝には仕立て屋に連絡が行って、速攻で葬儀用のドレスを仕立てるようになるのだろう。
…余計な仕事を増やしてしまったみたいね。参列するって言わなきゃよかったかしら?
私は心の中で手を合わせて仕立て屋さんに謝罪しておいた。
24
お気に入りに追加
131
あなたにおすすめの小説

駆け落ちした姉に代わって、悪辣公爵のもとへ嫁ぎましたところ 〜えっ?姉が帰ってきた?こっちは幸せに暮らしているので、お構いなく!〜
あーもんど
恋愛
『私は恋に生きるから、探さないでそっとしておいてほしい』
という置き手紙を残して、駆け落ちした姉のクラリス。
それにより、主人公のレイチェルは姉の婚約者────“悪辣公爵”と呼ばれるヘレスと結婚することに。
そうして、始まった新婚生活はやはり前途多難で……。
まず、夫が会いに来ない。
次に、使用人が仕事をしてくれない。
なので、レイチェル自ら家事などをしないといけず……とても大変。
でも────自由気ままに一人で過ごせる生活は、案外悪くなく……?
そんな時、夫が現れて使用人達の職務放棄を知る。
すると、まさかの大激怒!?
あっという間に使用人達を懲らしめ、それからはレイチェルとの時間も持つように。
────もっと残忍で冷酷な方かと思ったけど、結構優しいわね。
と夫を見直すようになった頃、姉が帰ってきて……?
善意の押し付けとでも言うべきか、「あんな男とは、離婚しなさい!」と迫ってきた。
────いやいや!こっちは幸せに暮らしているので、放っておいてください!
◆小説家になろう様でも、公開中◆

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜
清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。
クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。
(過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…)
そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。
移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。
また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。
「俺は君を愛する資格を得たい」
(皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?)
これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

【完結】母になります。
たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。
この子、わたしの子供なの?
旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら?
ふふっ、でも、可愛いわよね?
わたしとお友達にならない?
事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。
ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ!
だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

【完結】あなたに抱きしめられたくてー。
彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。
そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。
やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。
大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。
同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。
*ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。
もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。
変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!
utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑)
妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?!
※適宜内容を修正する場合があります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる