【完結】フェリシアの誤算

伽羅

文字の大きさ
上 下
54 / 98

54 昼食の時間

しおりを挟む
 部屋に戻ってソファーに腰を下ろすと、アガサはテーブルの上のベルを私の前に置いた。

「それでは私共は一旦下がらせていただきます。昼食までどうぞごゆっくりおくつろぎくださいませ。何かご用があればこちらのベルを鳴らしてください」

 アガサと他の侍女達は私に一礼をすると部屋から退出していった。

 一人きりになった部屋で私はほうっと息を吐き出した。

 アシェトン公爵家に行った時は偽物とバレないかビクビクしていたけれど、ここではそんな事は考えなくていいのは有り難い。

 だけど、自分が国王の娘だったなんて未だに信じ難い事ではある。

 誰もいないのをいい事に、私はそのままソファーへバタンと横になった。

 お父様が王妃様と仲が良くない事は聞いていたけれど、まさか王妃様が別邸に住んでいたとは知らなかった。

 だからこそお兄様の事もほったらかしだったのかしら?

 ゆっくりくつろげと言われても、テレビやラジオがあるわけじゃないから本を読むくらいしかすることはない。

 とりあえずはこの部屋にある本を読んでみようかしら。

 私はソファーから起き上がると本棚の方に向かった。

 分厚くて高価そうな本が何冊も並べられている。

 タイトルから興味を惹かれた物を数冊選ぶとソファーの方に戻った。

 しばらく本を読みふけっていたが、やがて扉がノックされる音に気付いた。

「はい、どうぞ」

 返事をすると扉が開かれ、アガサが姿を見せた。

「フェリシア様、お食事のご用意が出来ました。食堂までご案内いたします」

 立ち上がってアガサの元に行くと、そのまま公的なゾーンに向かって歩き出した。

 どうやら先程案内された食堂ではなくて、別の場所に行くようだ。

「陛下もユージーン様もまだ執務中ですので、あちらの食堂での昼食となります。ぜひともフェリシア様と一緒に食事をなさりたいとおっしゃられますので…」

 つまりお父様とお兄様のわがままで、私を呼び出したと言うわけね。

 騎士達が立っていた扉を抜けて王宮の中を進んで行くと、廊下のあちこちに人の姿が見えた。

 どうやら王宮で働いている人達のようで、彼等もこれから昼食を取るようだ。

すれ違う人達は私の顔を見るとハッとしたように立ち止まりお辞儀をして私が通り過ぎるのを待っている。

 この後の昼食の場では私の話題で事欠かないだろう。

「こちらでございます」

 アガサはその扉の前で足を停めるとノックをした。

「フェリシア様をお連れしました」

「お待ちしておりました。さあ、中へお入りください」

 侍従が扉を開けて私を中へと招き入れてくれた。

 こじんまりとした食堂には既にお父様とお兄様が腰を下ろしている。

「おお、フェリシア、待ちかねたぞ。さあさあこちらへ」

 お父様が指さしたのは、どう見てもお父様が座るべき場所だった。

 きっと二人が私の隣に座ろうと争った挙げ句、私を真ん中に座らせる事にしたのね。

 私はこっそりため息をつくと、お父様とお兄様を両脇に従える形を取った。

 食堂の中にいる侍従や侍女達は、無表情で黙々と給仕をこなしている。

「フェリシア、美味しいかい? 良かったらこれも食べるかい?」

「とても美味しいですわ。他の料理が食べられなくなりますからお父様がお食べになって」

「フェリシア、これも美味しいよ。僕が食べさせてあげようか?」

「お兄様、一人で食べられるから大丈夫です」

 …まったく…

 落ち着いて食事も出来やしないわ。

 食後のお茶を飲み終えてもなお席を立たない二人を、ブライアンと別の書記官が引きずるようにして食堂から出て行った。

 私も一旦自分の部屋に戻るのかと思っていたが、アガサはそちらへは戻らずに別の場所へと私を連れて行った。

「こちらの応接室でしばらくお待ちくださいませ」

 待つのはいいけど、手持ち無沙汰なのはちょっときついわね。

 そんな不満を顔には出さずに私はニコリと笑顔を見せてソファーに腰を下ろした。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

駆け落ちした姉に代わって、悪辣公爵のもとへ嫁ぎましたところ 〜えっ?姉が帰ってきた?こっちは幸せに暮らしているので、お構いなく!〜

あーもんど
恋愛
『私は恋に生きるから、探さないでそっとしておいてほしい』 という置き手紙を残して、駆け落ちした姉のクラリス。 それにより、主人公のレイチェルは姉の婚約者────“悪辣公爵”と呼ばれるヘレスと結婚することに。 そうして、始まった新婚生活はやはり前途多難で……。 まず、夫が会いに来ない。 次に、使用人が仕事をしてくれない。 なので、レイチェル自ら家事などをしないといけず……とても大変。 でも────自由気ままに一人で過ごせる生活は、案外悪くなく……? そんな時、夫が現れて使用人達の職務放棄を知る。 すると、まさかの大激怒!? あっという間に使用人達を懲らしめ、それからはレイチェルとの時間も持つように。 ────もっと残忍で冷酷な方かと思ったけど、結構優しいわね。 と夫を見直すようになった頃、姉が帰ってきて……? 善意の押し付けとでも言うべきか、「あんな男とは、離婚しなさい!」と迫ってきた。 ────いやいや!こっちは幸せに暮らしているので、放っておいてください! ◆小説家になろう様でも、公開中◆

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

【完結】母になります。

たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。 この子、わたしの子供なの? 旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら? ふふっ、でも、可愛いわよね? わたしとお友達にならない? 事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。 ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ! だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

【完結】あなたに抱きしめられたくてー。

彩華(あやはな)
恋愛
細い指が私の首を絞めた。泣く母の顔に、私は自分が生まれてきたことを後悔したー。 そして、母の言われるままに言われ孤児院にお世話になることになる。 やがて学園にいくことになるが、王子殿下にからまれるようになり・・・。 大きな秘密を抱えた私は、彼から逃げるのだった。 同時に母の事実も知ることになってゆく・・・。    *ヤバめの男あり。ヒーローの出現は遅め。  もやもや(いつもながら・・・)、ポロポロありになると思います。初めから重めです。

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

処理中です...