50 / 98
50 最後のひととき(ユージーン視点)
しおりを挟む
フェリシアを送って行った後で王宮に戻ると、すぐに父上の執務室に向かった。
「戻ったか、ユージーン。すまないがブライアンと共にフェリシアの部屋を整えてやってくれ」
父上は手元の書類から顔を上げる事もなく、僕に言いつける。
「わかりました、父上。それで準備期間はどのくらい…」
「明日の朝までだ! 明日朝一番にお前にはフェリシアを迎えに行ってもらうからな。それまでにはすべての体制を整えるように。ああ、ドレスと宝飾類は最低限でいいぞ。フェリシアの好みの問題もあるだろうからな」
一瞬、顔を上げて僕を見る父上の形相は、今まで見た事がないくらい鬼気迫るものだった。
「…まったく… ハミルトンと一緒に行かせるなんて… 何かあったらどうするつもりなんだ… 私の可愛いフェリシアを…」
どうやらフェリシアがハミルトンと一緒にいるのが気に食わないらしい。
確かに未婚の女性が、独身の男と一緒だなんて醜聞ものだからな。
ましてや今まで存在すら知らなかった娘がいきなり現れたんだから、心配になるのも当然だろう。
僕だってあの可愛いフェリシアをハミルトンと一緒にいさせたくはない。
「わかりました、父上。それではブライアンをお借りしますよ」
僕はブライアンを伴って父上の執務室を後にした。
フェリシアの部屋を整えるとは言っても、ほとんどはブライアンが指示を出していた。
僕はただ単に最終確認の為にいるようなものだ。
それでも、これからフェリシアが使う部屋を僕が準備する、というのは非常にワクワクするものだった。
指示を出し終えると後は使用人にすべて丸投げだ。
おそらく徹夜仕事になるだろうが、彼等には特別ボーナスでも出してやろう。
翌朝はいつもより早目に起こされた。
これもどうやら父上の指示らしい。
寝惚け眼の僕を侍従達が身支度を手伝ってくれて、そのまま食堂へと追いやられた。
食事をしているうちに目が冷めてきて、父上が食堂に入って来た頃にはようやく覚醒した。
「何だ、まだ居たのか? さっさとフェリシアを迎えに行って来い!」
どこかソワソワとしたような父上に急かされて僕は早々に王宮を出発した。
まだ、フェリシアも食事中だと思うんだが、待ちきれないのは僕も一緒だ。
案の定、アシェトン公爵家に着くと、モーガンが焦ったような口調で僕を押し留めた。
「ユージーン様、まだ皆さんはお食事中ですので…」
「大丈夫、僕はそんな事は気にしないよ」
そのままモーガンを振り切るように食堂に向かって、その扉を開いた。
「おはよう、フェリシア。迎えに来たよ」
食堂に居た四人はびっくりした顔で僕を見つめたが、ハミルトンはすぐに僕を睨みつけた。
それを無視してフェリシアに近付いて立ち上がらせようとすると、ハミルトンが吠えた。
「おい! ユージーン! いくらなんでも無礼が過ぎるぞ!」
朝からギャンギャンうるさいな。
「仕方がないだろう。可愛いフェリシアをこんな狼のいる所にいつまでも置いておけるわけがないだろう」
「誰が狼だ! 僕はそんな真似はしないぞ!」
ちょっと僕から視線を外したって事は少しは邪な考えがあったって事かな?
お祖父様の執り成しで僕も一緒にお茶をいただく事になった。
叔母様が父上の恋人への溺愛ぶりを憂いていたけれど、たとえその何分の一かでも母上に向けられても、母上が僕に愛情を向ける事はなかっただろう。
あの人にとって父上以外はどうでもいい存在だったのだから、父上が僕に愛情を向けると余計に僕を敵対視して来たのだ。
ふとフェリシアの視線を感じ取って横を向くと、心配そうな目を僕に向けている。
僕なんかよりフェリシアの方が苦労して生きてきたはずなのに、こうして僕を気遣ってくれるなんて、なんて優しい子なんだ。
フェリシアを安心させたら、いつの間にかまたハミルトンとの舌戦が始まってしまった。
ひとしきり言い合った後で、僕は冷めたお茶を飲み干して立ち上がった。
「さあ、フェリシア。名残惜しいだろうけれど、出発しようか」
フェリシアは僕の手を取るとゆっくりと立ち上がった。
「戻ったか、ユージーン。すまないがブライアンと共にフェリシアの部屋を整えてやってくれ」
父上は手元の書類から顔を上げる事もなく、僕に言いつける。
「わかりました、父上。それで準備期間はどのくらい…」
「明日の朝までだ! 明日朝一番にお前にはフェリシアを迎えに行ってもらうからな。それまでにはすべての体制を整えるように。ああ、ドレスと宝飾類は最低限でいいぞ。フェリシアの好みの問題もあるだろうからな」
一瞬、顔を上げて僕を見る父上の形相は、今まで見た事がないくらい鬼気迫るものだった。
「…まったく… ハミルトンと一緒に行かせるなんて… 何かあったらどうするつもりなんだ… 私の可愛いフェリシアを…」
どうやらフェリシアがハミルトンと一緒にいるのが気に食わないらしい。
確かに未婚の女性が、独身の男と一緒だなんて醜聞ものだからな。
ましてや今まで存在すら知らなかった娘がいきなり現れたんだから、心配になるのも当然だろう。
僕だってあの可愛いフェリシアをハミルトンと一緒にいさせたくはない。
「わかりました、父上。それではブライアンをお借りしますよ」
僕はブライアンを伴って父上の執務室を後にした。
フェリシアの部屋を整えるとは言っても、ほとんどはブライアンが指示を出していた。
僕はただ単に最終確認の為にいるようなものだ。
それでも、これからフェリシアが使う部屋を僕が準備する、というのは非常にワクワクするものだった。
指示を出し終えると後は使用人にすべて丸投げだ。
おそらく徹夜仕事になるだろうが、彼等には特別ボーナスでも出してやろう。
翌朝はいつもより早目に起こされた。
これもどうやら父上の指示らしい。
寝惚け眼の僕を侍従達が身支度を手伝ってくれて、そのまま食堂へと追いやられた。
食事をしているうちに目が冷めてきて、父上が食堂に入って来た頃にはようやく覚醒した。
「何だ、まだ居たのか? さっさとフェリシアを迎えに行って来い!」
どこかソワソワとしたような父上に急かされて僕は早々に王宮を出発した。
まだ、フェリシアも食事中だと思うんだが、待ちきれないのは僕も一緒だ。
案の定、アシェトン公爵家に着くと、モーガンが焦ったような口調で僕を押し留めた。
「ユージーン様、まだ皆さんはお食事中ですので…」
「大丈夫、僕はそんな事は気にしないよ」
そのままモーガンを振り切るように食堂に向かって、その扉を開いた。
「おはよう、フェリシア。迎えに来たよ」
食堂に居た四人はびっくりした顔で僕を見つめたが、ハミルトンはすぐに僕を睨みつけた。
それを無視してフェリシアに近付いて立ち上がらせようとすると、ハミルトンが吠えた。
「おい! ユージーン! いくらなんでも無礼が過ぎるぞ!」
朝からギャンギャンうるさいな。
「仕方がないだろう。可愛いフェリシアをこんな狼のいる所にいつまでも置いておけるわけがないだろう」
「誰が狼だ! 僕はそんな真似はしないぞ!」
ちょっと僕から視線を外したって事は少しは邪な考えがあったって事かな?
お祖父様の執り成しで僕も一緒にお茶をいただく事になった。
叔母様が父上の恋人への溺愛ぶりを憂いていたけれど、たとえその何分の一かでも母上に向けられても、母上が僕に愛情を向ける事はなかっただろう。
あの人にとって父上以外はどうでもいい存在だったのだから、父上が僕に愛情を向けると余計に僕を敵対視して来たのだ。
ふとフェリシアの視線を感じ取って横を向くと、心配そうな目を僕に向けている。
僕なんかよりフェリシアの方が苦労して生きてきたはずなのに、こうして僕を気遣ってくれるなんて、なんて優しい子なんだ。
フェリシアを安心させたら、いつの間にかまたハミルトンとの舌戦が始まってしまった。
ひとしきり言い合った後で、僕は冷めたお茶を飲み干して立ち上がった。
「さあ、フェリシア。名残惜しいだろうけれど、出発しようか」
フェリシアは僕の手を取るとゆっくりと立ち上がった。
21
お気に入りに追加
131
あなたにおすすめの小説

駆け落ちした姉に代わって、悪辣公爵のもとへ嫁ぎましたところ 〜えっ?姉が帰ってきた?こっちは幸せに暮らしているので、お構いなく!〜
あーもんど
恋愛
『私は恋に生きるから、探さないでそっとしておいてほしい』
という置き手紙を残して、駆け落ちした姉のクラリス。
それにより、主人公のレイチェルは姉の婚約者────“悪辣公爵”と呼ばれるヘレスと結婚することに。
そうして、始まった新婚生活はやはり前途多難で……。
まず、夫が会いに来ない。
次に、使用人が仕事をしてくれない。
なので、レイチェル自ら家事などをしないといけず……とても大変。
でも────自由気ままに一人で過ごせる生活は、案外悪くなく……?
そんな時、夫が現れて使用人達の職務放棄を知る。
すると、まさかの大激怒!?
あっという間に使用人達を懲らしめ、それからはレイチェルとの時間も持つように。
────もっと残忍で冷酷な方かと思ったけど、結構優しいわね。
と夫を見直すようになった頃、姉が帰ってきて……?
善意の押し付けとでも言うべきか、「あんな男とは、離婚しなさい!」と迫ってきた。
────いやいや!こっちは幸せに暮らしているので、放っておいてください!
◆小説家になろう様でも、公開中◆

妾に恋をした
はなまる
恋愛
ミーシャは22歳の子爵令嬢。でも結婚歴がある。夫との結婚生活は半年。おまけに相手は子持ちの再婚。 そして前妻を愛するあまり不能だった。実家に出戻って来たミーシャは再婚も考えたが何しろ子爵領は超貧乏、それに弟と妹の学費もかさむ。ある日妾の応募を目にしてこれだと思ってしまう。
早速面接に行って経験者だと思われて採用決定。
実際は純潔の乙女なのだがそこは何とかなるだろうと。
だが実際のお相手ネイトは妻とうまくいっておらずその日のうちに純潔を散らされる。ネイトはそれを知って狼狽える。そしてミーシャに好意を寄せてしまい話はおかしな方向に動き始める。
ミーシャは無事ミッションを成せるのか?
それとも玉砕されて追い出されるのか?
ネイトの恋心はどうなってしまうのか?
カオスなガストン侯爵家は一体どうなるのか?

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜
清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。
クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。
(過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…)
そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。
移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。
また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。
「俺は君を愛する資格を得たい」
(皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?)
これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】母になります。
たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。
この子、わたしの子供なの?
旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら?
ふふっ、でも、可愛いわよね?
わたしとお友達にならない?
事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。
ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ!
だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる